24 迷子の保護者
……一通りはみただろうか。ふと、周りを見渡すと全然知らないところにいる。この街が初めてだからどこも知らない所ではあるのだがジャンヌやコレットがいない。少し周りを探してみたが見当たらなかった。
出ない汗が首筋を冷やした気がした。
これはもしかして、噂にきく迷子というヤツなのか? と不安になる。
非常にマズい。ニルヴァーナの誇る決戦兵器がお出かけで迷子になりました。なんて恥ずかしいなんてもんじゃない。
それから十分少々、自分なりにいい線いっているつもりであったが……。
うん、間違いない。余計に迷っている。と確信が出来た。今までと明らかに街の雰囲気変わっており、人の姿もまばらになっている。なんか薄暗いし、スラムっぽい感じがする。しかも、どうにもあちこちから見られてる感じがしていた?
いくつかの角を曲がった先は行き止まりになっていた。焦れば余計にうまくいかないものだ。いよいよネマの力をかりないといけないようだった。
大きなため息ひとつついて、来た道を引き返そうとすると、通路を3人の男が立ち塞がっていた。手に手に何かしらの獲物を持っており小悪党を絵に描いたようような出で立ちだ。
「小僧、迷子か? 俺たちが送っていってやるぜ」
「あの世にだけどな、ギャハハ」
所謂、中華包丁を片手にした男が峰で肩を叩きながら前に進み出る。
「心配すんなって。臓器の2つか3つ程頂くだけだからよお」
あげる臓器はもうないんだけどな。と呟いてみるが聞こえるはずもない。
先頭の体格のよいオッサンはスタンガンのようなものを構えるとジリジリと近づいてくる。後ろの2人はタバコを咥えながらニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていた。
どうやらここら辺で普段から人さらいや強盗まがいのことをしている奴らなのかこの手の荒事に慣れている様子にみえる。
もっと目つきが悪く殺されそうになる程の訓練という名の虐待(?)を日々受けてきたソータは一般の子供の感覚からかなり外れてきていたが本人は自覚はない。なぜなら比べるべき子供がコレットしかいないので、あてにならない。
「なぁ、あんた達。それなりに悪いことしてきたんだろう。今なら見逃してあげるから自首したらどうだい?」
「小僧! 誰に何を言っているんだ!寝言は寝てからいいな!」
「生意気な小僧だ。兄貴! 口の聞き方を教えてやりやしょう!」
喚きながら後ろの2人が刃物を取り出す。先端が反り返っているいかにも斬れそうな感じの得物と中華包丁だ。
子供だから大人がすごんで、刃物でもちらつかせたら大人しくなるとでも思っていたのだろうが、もっと怖い大人からひどい仕打ちを受けてきてるソータからしてみれば大した恫喝にもならない。そう考えると自分は実はかなり不幸なのではないかと一瞬考え、悲しくなりそうなので考えるのはやめた。
スタンガンをバチバチいわせながらマッチョな兄貴がゆっくり腕を突き出す。
刃物で怯えた相手にスタンガンで自由を奪って、後はやりたい放題っていうパターンなのだろう。
でも残念ながらこのぐらいの電圧なら全く問題にはならない。
〈脅威を確認、戦闘モードに移行〉
そこまでではないのに、と呟きつつも全身が一瞬、蒼く染まる中突き出されたスタンガンをそのまま掴む。スパークしているそれを意に介さず握り奪い取った。
マッチョさんは驚愕した目でソータを見る。
「なっ、バカな大人でも一撃で気絶するはずだ!」
「てめぇ! なにしやがった!」
「なんだ今の光は! まさかスキル持ちか?!」
驚愕した表情の男達の中、中華包丁の男は口から泡を飛ばす勢いでズンズン向かってくる。
「チョアーー!」
奇声を上げながらすごい勢いで包丁を振り回すと残像が見える程の速さとなった。素人にしては中々の速さがあり大道芸なら食っていけるんじゃないかと思うぐらいだ。
しかし、この程度が速いとはいえない。本当の速さは目で追えないんだから。しかも、振り回す事になんの意味があるのか。
「よっと」
軽く一歩近寄ると振り回す包丁を持つ手首を掴み男を地面に叩き落とす。
勢いあまってすごい音がしたが多分死んでないだろう。日常用とは違い戦闘モードでは力加減が少し変わってくる。ギアが上がっているので一般に合わせた加減が難しい。
「お前、何者だ!」
ナイフの男が一瞬、躊躇した、その隙だらけの胴体に軽く一撃を加える。軽めのつもりだったのだが派手に吹き飛んでいくと地面を数回跳ねた後に動かなくなった。息はしてるから大丈夫……なはず。もしかしたら骨の二、三本は折れたかもしれないだろう。
〈後方より攻撃〉
ガンッ!
ネマの声が聞こえたとほぼ同時に乾いた音とともにソータは背中に鈍い衝撃を感じた。後ろを振り返るとマッチョ男が手に青龍刀と呼ばれる湾曲した幅広の刀を振り下ろしている。
前の二人の武器にしか気にしてなくて後ろの男が何を持っていたのか見ていなかった為、完全に不意打ちを食らっていた。ネマの警告に素早く反応出来ていればそうでもなかったのかもしれないが、いずれにせよ背中に攻撃を受けたのは間違いない。
「商品がダメになっちまうが、かまいやしねぇ! てめぇは危なすぎる」
男は低い声で呟くと共に、凶暴な刃が再び空気を裂き、襲いかかってくる。素人とは思えないその剣筋はソータでは避け切れるものではなく、服の一部が無惨に切り裂かれた。
「なんで背中斬りつけて血が出ずピンピンしてやがる。ガキのくせにその異常な力といい、まさか自動人形の類か?!」
男は青龍刀を上段に構え直し、気迫に充ちた声とともにそれを振り下ろした。
「スラッシュ!」
その剣から生じた衝撃波が、まるで烈風のように周囲の物を吹き飛ばしながら、ソータに迫ってきた。
剣技を得意とする兵士が使えるスキル"スラッシュ"は剣圧を圧縮したものを放つ技である。距離とともに威力は減衰するが達人が放つとその射程は恐るべきものになる。比較的、メジャーなスキルだが、だからといって誰もが使える訳ではない。それを使える時点で一度は訓練を受けた兵士であろうと思われた。
そんな攻撃に咄嗟に回避を試みるが至近距離からであった事もあり激しい一撃が直撃。建物の壁まで吹き飛ばされた。土壁で出来ていたのであろう壁が大きく崩れ、土煙が辺りを埋め尽くす。
「なんだってんだあのガキは」
男は青龍刀を地面に突き立てると肩で大きく息をする。多少ら消耗する技ではあるが昔であればこうも疲れなかったであろう。兵士を辞め用心棒崩れに身を落とし酒と女に塗れ鍛錬を怠った結果、たったの一振りでもかなりの疲労を感じていた。
突如、土煙を吹き飛ばし人影が男に迫る。咄嗟に剣を立ててガードをしようとするが、剣を手放していた為に、反応が遅れていた。
「威力最弱! スタンナックル!」
空気が破裂したかのような音が周囲に響くとマッチョな男は青龍刀持ったままの姿で痙攣、同時に錐揉みしながら反対の壁まで吹き飛んだ。今度はなるべく手加減をして軽めのパンチをしたつもりだが、振り抜いたのがよくなかったかもしれない。
スキルを使ったところを見ると恐らくは兵士崩れだろう。ならば、あのぐらいでは多分死んでないはずだ。ソータは勝手にそう判断する。
「失礼な奴め。Ωの兵器と一緒にするなんて。こっちは人類初の全身機械化成功例だぞ」
袈裟懸けに切れている服を指でつまみつつソータは壁に張り付いて気絶している男に文句をいうが当然ながら返事はない。
振り返ると累々と転がる屍、もとい、気絶した男達がいたので一箇所にまとめておく。最後の男はスタンナックルで気絶したのか殴られて気絶したのか不明だったが結果オーライであろう。一応、周囲を警戒しながらコレ、どうしたもんかなぁ、と思案していると建物の影から二つの人影が出てきた。




