21 校外学習 後編2
まずは様子見なのか一定の距離を保とうとした矢先に想定より速く動いた巨爪穿獣の振り上げた爪がオークの頭を砕いた。
「ブヒー!」
屠殺場に轟く悲鳴の如く甲高い声とともにオークが霧散する。
「そんなあっさり!」
「よくがんばった!」
コレットはそっと涙を拭う(ふりをする)とヘルハウンドに号令を出した。
咆哮とともに鋭い爪が振るわれたが、三分の一程度の大きさのヘルハウンドでは質量に差があるのか針金のような毛のせいかあまり効いていない。
反撃とばかりに振るわれた爪を避けると細長い舌が貫くように襲い掛かりヘルハウンドの脇腹をかすめる。
蛇のようにチロチロと出し入れする舌だが、その長さがヘルハウンドの体長以上はありかつ素早い。
「やだ、ぺろぺろしてて気持ち悪い!」
「我慢して」
「む〜り! しかも長い舌がらぬらしてるし生理的に無理!早くアンタ行ってきて!」
「くそっ!」
すかさずソータも飛び掛かりナイフを突き立てるが長く厚い毛に阻まれ刃が身体に届かない。
攻撃を受けスイッチが入ったのか巨爪穿獣が立ち上がると長い前脚を振るい襲いかかった。立ち上がると森の木々の高さと同じぐらいに感じかなりの威圧感がある。そこから繰り出される前脚は思った以上にリーチと速度を伴っていた。ナイフで受け止めるが、かなりの威力に刃が軋む。
力任せに押し返しその勢いのまま側面まで飛び込みナイフを一閃するが、やはり毛が厚い上に硬くあまりダメージにはなっていないようだ。
四つ足に戻った巨爪穿獣は反対の前脚を振り回すがなんとかかわし咄嗟にナイフのナックルガードで殴りつける。
今度はしっかり効いたようで少し怯んだようだ。
「コレット、毛がない所なら攻撃が効きやすいぞ」
「オッケー、任せて」
その声が終わるや否や鋭い吸気音が辺りに響きわたる。
ここ最近、聞き慣れたその音にソータが嫌な予感に襲われながらゆっくりと振り返るとヘルハウンドの顎が開くのが見えた。
炎が口の中から溢れ出し、薄く橙色が混ざったその炎は明らかにいつもと色が違う。
「待っ!」
ゴウッ!
咄嗟にかわしたソータの横を爆音を立てて炎が噴き出ると巨爪穿獣に直撃し長い体毛がトーチのように燃え上がった。たまらず暴れ出す巨爪穿獣に今度は炎の塊と化したヘルハウンドが強烈なタックルをかけると、バランスを崩し仰向けに倒れた。
その隙を見逃さず、比較的毛の薄い胸部付近に飛びかかったソータは渾身の力で拳を打ち付ける。
「出力最大! スタンナックル!」
一瞬、蒼く輝いた拳からスパイクが展開され胸部に触れた瞬間、バンッと激しい音が森に響きわたりアリクイの四肢が強く曲がる。と、焦げ臭い臭いとともにダラリと崩れ落ちた。
*****
「コレット! またお前は……」
「まぁ、わたしにかかればこんなものよ」
腰に手を当てて反り返らんばかりに高笑いするコレットにこれ以上はムダとため息一つ。周囲には焼け焦げた草木が何ヶ所もあった。
ヘルハウンドのブレスやチャージにより思った以上に巨爪穿獣の体毛はよく燃えた。倒したのは電撃による気絶後の焼死ではないかと思うぐらいだ。問題はその炎とまき散らした火の粉などによりあちこちの枯れ葉や立ち木に延焼が広がっていたのだ。戦闘後に気づいたソータが急いで消して回り、なんとか火事にならずに済んでいる。
一通りの安全が確認出来た後、ソータは巨爪穿獣が出てきた方角を調査する事にした。しばらく捜索した所、だいぶと離れた所でジャンヌが負傷した数名の自警団を発見した。
コレットとソータは少し離れた所で探索していたが、その発見の報告を聞くと素早く、その場を離れて気配を全力で消す努力をしていた。何しろ、子供がウロウロしていい場所ではない。迂闊に相手の印象に残って面倒くさい事になるのはごめんだった。
どうやら彼らは蟻退治に来たものの、運悪く空腹の巨爪穿獣と鉢合わせしたようだ。
最低限の治療をすれば自力で帰れそうであった彼らは巨爪穿獣は既に討伐済みである事を告げるとかなり驚いていた。
一応はその道のプロになる自警団の人達でも中型クラスの異獣にあえば対処は難しいという事であったのだが、そんな怪物をわずか二人で倒した事の重大さに子供達は気づいていなかった。
途中、先に駆除した薄緑蟻を一匹見かけたが四人程の重装備のハンター達が手に槍やら剣を持って戦っていた。遠巻きに見ていたが、なんとか無事に駆除できたようで歓喜の声が聞こえた。
「まぁ、あのクラスの大きさなら妥当な所だろう」
ジャンヌは抱えていた長身のライフルを
肩にかけ直すと歩き出す。万が一の時は援護しようと考えていたようだ。
一匹相手に過剰戦力ではないかとソータは口にしたがジャンヌはとんでもない、と返す。
「奴ら変異種相手には熟練した兵士が最低でも三人で相対すべきだ。お前たちが特別すぎるんだよ」
「なんで剣で戦ってんの? ソータは分からなくもないけど、銃ぐらい持ってるんでしょうに」
「まず、銃は貴重だ。絶対数が少ない。小型ならまだしも、あのクラスに使える物となると限られるし、そもそも普通の銃が有効ではないのが一つ」
「まだあるの?」
「例え大型の銃を使おうが使い手次第では役に立たん。逆も然りで小型でも十分な効果も出せる」
言ってる意味がよく分からないといった二人にジャンヌはため息をつく。
「二人とも座学で説明したはずだ」
「復習の意味も込めてもう一回講義して欲しいわねー」
「断固拒否すると言ったら?」
「そん時はミゲールに頼もうかな。ジャンヌが拒否ったって言って」
「お前たちなぁ」
ミゲールに迷惑をかける訳にもいかず、不承不承ながらもジャンヌは近くの切り株に腰を下ろす。
「前にも言ったが、スキルは各ジョブ毎にある程度種類が分けられる。そのスキルが発現したならそのジョブになるという骨格になるものだな」
「わたしの召還とかがそうね」
「そうだな。私の射撃、珍しいのではミゲールの忍術なんかもそうだ。厳しい訓練の中で無事に発現出来ればいいが、全員が発現出来る訳でもないからな。多くは発現すらできない」
「俺は別に訓練してないけど使えたけど」
「お前の場合は身体を改造した時点でスキルが手に入ったようだな。でも他のスキルと同じて使わないとより強くはなれないはずだ」
これらのスキルにはスキルレベルというのがあり、より使いこなせば更に強くなるそうだ。そんな説明を聞いた様な気もするがソータはあんまり覚えていなかった。
へー、と感心したような顔をするソータにジャンヌが痛々しい顔をする。
「本当に覚えていなかったんだな」
「自分の身体を動かすのに精一杯の時期に講義受けたのかもね。それどころじゃなかったかも」
眉間にシワを寄せたジャンヌだったが思い当たる節でもあるのかそれ以上の追求はしなかった。
「ある特定のジョブのスキルが発動したなら、共通のものを除いては他のジョブのスキルが発動する事はない」
「召還と剣術は両立しないのね」
「前例がないから何ともだが、まず有り得んな。剣術とか銃器なんかのスキルであれば低レベルのものまでは共通になるが、骨格になるメインのものではありないな」
「で、スキルがないと何がダメなの?」
「ダメではないがその武器や何かを行おうとするときにスキル持ちとそうでないものでは雲泥の差が出る。例えば、スキルのないものが剣や銃を使う事は可能だ。人も殺せるだろう。だが、生物兵器などの生き物になると傷一つつける事はできない。そのぐらい、威力に差が出る」
それこそ、剣圧を飛ばすとか、撃った弾丸を曲げるとか、おおよそ常人離れした事もできるが、単純に威力が大きく変わるのだという。
「だからスキル持ちになれるといいかといえば、多くは兵士になるからな。危険も伴うし必ずしもよいとは言えないかもしれん」
機械化により兵器という特殊スキルを身につけたソータはその辺りは特に感じているようで複雑な顔をしている。
「しかも銃器関連はそもそも銃の流通が少ないからな、珍しい方かもしれん。更に私は使う銃の種類に制限が入っていて、かなり尖った部類になる」
「尖ったスキル持ちに、召還と兵器のレアスキル持ちね。ニルヴァーナってそんな人達の集まりなのかしら」
「そう言うわけではないが、結果的にそうなってる事は否めないな」
ジャンヌの話にコレットが納得した様子で歩き出した。だが、彼女の頭には任務達成報酬である街へ行ける事しか考えておらず、先の話しなどは晩御飯の頃には忘れる勢いであった。




