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14 ある日の出来事

 

「ソータ、射撃はイマイチだな」


 射撃訓練所にはソータと教官としてジャンヌがいた。的に向かって撃ちまくっているがジャンヌからするとイマイチという判定をされている。

 ソータの的には弾痕がいくつもバラついているのに対し、ジャンヌは真ん中に一つしか空いていなかった。


 この世界には銃器はあるが、少し珍しいものになる。生産工場などが少ない事で流通が限られている事と、そもそも生物兵器や大戦時の反応兵器を始め、BC(生物・化学)兵器の影響をうけ凶暴化した野生生物には銃器ごときでは十分な対応が出来ないためだ。

 ジャンヌのような銃士という銃専門のジョブであれば特殊なスキルやその能力により、対応可能となるが一般人類如きでは対処は困難である。ソータもジャンヌのように銃は扱えないが兵器としての銃を使う可能性を考慮しての練習になっていた。


 ジャンヌの小言を聞きながら弾の入れ替えをしていると、隣のエリアから軽快な銃声が響く。

 見ると金髪を靡かせた傍目は美少女、コレットも射撃練習をしていた。体格もやや小柄で女性である彼女を考慮してか小口径の銃のようだが、弾が違うのだろう。命中部位が派手に吹き飛んでいるのが見た目の銃とのギャップをうけた。


 吸い込まれるように次々と的に命中し、動く的にも真ん中とはいかないが当てており中々の精度だ。

 満足気にイヤーマフを外すと長い金髪をフワリと浮かせ整えるとドヤ顔でジャンヌを見ている。


「コレット、何回言ったら分かるんだ! 一般市民は撃ってはいけないと言っているだろうが」


 腰に両手を当てたジャンヌがの声が嘆息混じりになるのも無理はない。あらゆる的に命中しているが、()()()()

であった。。撃ってはいけない一般市民を模した的にもキレイに当てている。


 やっちゃった、みたいな顔をしている少女は的を見直すと些細な出来事だと言わんばかりに反省の色もなく、でもね、と続ける。


「こんな戦闘区域にいる一般市民なんて犯罪者かガイアかΩか、どっちにしても普通の人の訳ないでしょ?だいたい、こんな銃声の中で顔出すなんておかしいじゃない」


 言わんとしている事は多少は分からないでもないが、それを世間では屁理屈と言うんだよ。

ソータはそう思ったが口にはしない。そもそも、普通は躊躇なく撃ったりしないだろうに。


 ジャンヌが頭を抱えている所とさっきの会話から察するに毎回の事のようだ。

 さっきの事は忘れようと考えたのか二人の所に来て話題を変えるべく話しかける。


「コレットとソータは前回の件で顔合わせは済んでいるな、同い年だ、仲良くしてくれ」


「ソータの事はあれから時々、見学させてもらっていたから大体のこと分かったわ。噂のお人形さんだったのね」


 お人形?なんかあまり心象よくないのかと不安になる。


「とりあえず、しっかり動けてサポートしてくれそうだし、バディ組むならこの子と思ったもの。どうせ同じ目的で使われる訳だし」


「コレット!」


 やんわりと、だが有無を言わさない雰囲気でジャンヌが声をかける。今まで外部との接触をよしとしなかったコレットを上層部が急に許可を出したのはこの間の暴走事件があってからだ。しかも、その対象として選ばれたのが年齢が近い、とある理由でソータになった。

 何故、急に、など、疑問は尽きなかったが上の判断には従わなければいけない。


「あら、この子だって知ってるんでしょ。私達が対ガイアの特別候補生って。いずれは戦場に出るんだし、まぁ、私は望むところだけど」


 じゃなきゃ、こんな所いないわよ。と呟く声が聞こえた。敢えて戦場に出たいと考えているとは、この年頃の女の子のセリフとは思えないが何か特別な事情があるのだろうか。


「少しは習ったけどガイアが僕たちの敵で間違いないの?」


 そんなソータの疑問の声は二人が同時にこっちを向く。


「あんた、マジで言ってるの⁈」


「ソータ、座学で教えたはずだぞ!」


 二人の息のあったするどい突っ込みがどうやら地雷を踏んだ事を感じさせる。


「お人形さんというか、ブリキ人形なのかしら?脳みそ入れてもらってないんじゃない」


 コレットが冷ややかな目でソータをみる。蒼の色が余計に冷たさを感じさせるような気がするのは気のせいではないだろう。


「ゴメン、まだここの事をちゃんと勉強出来てなくて。コレットは詳しそうだから教えて欲しい」


 ひどい言われようであったが、あの雰囲気から推測するに常識知らずだった事は否めないようだ。ニルヴァーナと言う組織の事もよく知らない上、ガイアに関しても寝たきりだったソータは世間の事に疎かった。とはいえ、知らないでは済まされない事もあるのは事実。


「お願いします」


 コレットとジャンヌに頭を下げると「わかったわかった」とジャンヌが困った顔をして答える。


「しょうがないわね。教えてあげるからちゃんと聞きなさいよ。でも、ここはなんだか乾燥しててしゃべりにくいわ」


 頼まれると断れない気質なのか、素直に応じてくれたコレットが変な空咳をしながらチラチラとジャンヌを見ている。


「上のカフェで何か飲みながらにしよう。いいよね、ジャンヌ」


 ソータの提案をやれやれといった感じのジャンヌが肩を竦め出口に向かった。


 カフェで飲み物以外にも何故かケーキを前にしたコレットが満足気にそれぞれをついばんでいる。


「ガイアについてでしょ。あいつらが召喚士の集まりの国って事は知ってる?」


「詳しくは知らないよ」


「あー、そこからね」


 こりゃ大変だ、とケーキを放り込みながら紅茶をすすると、さり気なくおかわりを店員に頼んで向き直る。


「ガイアは".堕ちた神々"っていわれる神々を狂信的に信仰する宗教国家って言ったら分かりやすいかしら。トップが大司教って奴で神託で動いているらしいわ」


「神託って神様の言葉ってことだよね。そんなに悪い内容なの?」


「問題が教義なの。自分達の神々がこの世界を創ったんだって。だからみんな神様を敬うべきだから信者であるべき、信じない奴は一回死んで悔い改めよって感じね」


「そんな無茶苦茶な」


「そこの信者の一部には召喚という特殊能力を持つ奴らがいて、その神様の力とやらで昔々の神話や物語で聞くようなモンスターを召喚して使役できるのよ。その力を使って所構わず宗教戦争仕掛けて、今じゃ西の国々は大分とやられちゃって取り込まれてるらしいわよ」


 こんな世界でモンスターなんかバンバン召喚されたら戦闘員であってもまともに対応できないだろう。生物兵器の延長線ともいえなくないが、神話にでてくるようなモンスターが召喚されれば大変である。しかも任意の場所にその怪物が突然現れるとなると脅威でしかない。


「だから召喚士は基本的にはガイアにしかいないのよ」


 そこまで話しをしたあと、ソータの訝しげな顔を見たコレットは眉をひそめて最後のケーキの欠片を放り込む。


「わたしは違うわよ。あんな奴らと一緒にしないで。……詳しくは言えないけど、この力はあれとは別よ」


「それに関しては私が保証しよう。あらゆるテストでガイアとの関連性は否定されている」


 ジャンヌがコーヒーカップを包むように持ちながら補足する。


「当然でしょ。アイツらは……まぁいいわ。で、あんたも私もちょっとこの辺じゃ見ない力が使えるらしいわ。だから、ここで保護されてるのよ」 


 そういわれてみれば、半年ほど施設内を見てきたが自分達の階層どころかニルヴァーナ内にはコレットと自分しか子供はいなかったなとソータは今更ながら思う。ニルヴァーナ最初の機械成功例と言われていたものの、実はいるんじゃないかと思ったいたが誰一人見かけていないので本当にいないようだ。


「コレットはずっとここに住んでるの?」


「私はあんたと一緒で保護された口よ。あんたより先輩にはなるけどね」


「じゃコレット、対ガイア用ってどういう意味なの」


「そのまんまよ。召喚には召喚をってね。あと銃とかじゃ火力不足だったりそもそも効かないとか。だからあんたみたいな強力な力を使える人が必要なんでしょ。まぁ、ガイア以外も相手しないといけないだろうけどね」


 追加のケーキがテーブルに届くと、満面の笑みでフォークを突き刺し食べ始めた。

 ジャンヌを見ると困った顔をしながら、飲みさしのカップをしばらく見つめるとテーブルにコトリと置く。


「概ねコレットの言った通りだ、補足はこれからおいおいしていくが。ガイアを含めての戦闘を考慮して訓練プログラムを組んでいるつもりだ。悪いがここに所属している以上、遠からず実戦に出てもらう」


 ソータの訓練内容はここ半年以上にわたり日常生活レベルから何故か戦闘訓練中心に変わりつつあったし、そもそも単騎決戦兵器として開発されたと"ネマ"から聞いてたのである程度はそういう事になるよは分かっていた。この間の事もあり自分の力がどの程度、役立つのか少しは試してみたい気持ちがあるのも時日だ。


「なに難しい顔してんのよ。あんた、生物兵器の大きいのを素手でやっつけたらしいじゃない。こないだだって一人でなんとかしてたし。チーム組むなら強いのに越した事はないの。だから先に唾つけたんだから」


 よろしくね☆とケーキを口に運びながらコレットが反対の手を差し出してくる。

 ソータは反射的に握手をして、よろしく。と言ったものの今後を考えると不安しか感じなかった。


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