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11 スキル発動

「要は使い方次第な訳ですね」


「そう。だから、ソータくんを通して外の世界を見て学習してもらおうかと。子供ならば、大人とは違うパターンに成長するだろうと思っての事みたいなのー」


 "Ωの叛乱"については子供でも歴史の勉強で知っている話しだが、ソータは入院生活が長く十分にその辺りを知っているとはいえなかった。なんとなく自分だけに聞こえる声に気味が悪かったのだが、話を聞く限りそんなに悪いものでもないようだ。AIに対する先入観が殆どないソータはとりあえず、ネマの力をかりてみてもいいかなと思えた。


「どうやったらネマと話ができるの?」


「普通に呼びかけたらいけるよ。頭の中で考えるだけでもいけるしー」


(ネマ、ちょっとアドバイスをお願い)


<質問をどうぞ>


 脳内に女性の声が響く。ソニアに確認したが聞こえていないのでソータにしか聞こえていないようだ。非常に不思議な感覚ではあるが頭で考えただけで会話できるのは便利ではある。


(高速移動する物を捕まえたい。どうしたらいいかな)


〈”フレームカット”を使用すれば目視可能です〉


(フレームカット?)


〈コマンドをどうぞ〉


 ソニアにもう一度、ボールを動かしてもらう。すぐに視界から高速で消えるボール。

 ”フレームカット”と言葉にする。と、ソータの周りの音が急に消え、目の前をゆっくりとボールが、動いているのが見えた。しかし身体が重くゆっくりしか動かす事ができず、ものすごくスローだ。もどかしく感じているうちに突然ボールが視界から消えた


<”フレームカット”終了。リキャストタイムに入ります>


「何、いまの?スキルだよね! スキル使えたよね?」


〈スキルではありません。搭載されている能力の一部です〉


「えー、じゃあ誰でも使えるの?」


〈いえ、資格があり搭載されていてかつ、その能力が使えるまで成長している事が条件です〉


「じゃあ、スキルみたいなもんじゃん! ホントに機士になったみたい」


 生きてる事ですら奇跡のような日々を送っていたソータにとってこうやって身体を動かせているだけでも夢のような話しなのに、スキルまで扱えるなんてどう表現していいのか分からない。これならいつか、本当にみんなを守れるような存在になれるかもしれない。

 たった一つ、使えるかどうかも分からない能力が使えただけ。それでも、ソータにとってはこの身体で初めて歩けた時以上の感度的な出来事であった。


 その後、フレームカットとは何かをネマに尋ねると専門用語で説明してくるのを何度も根気強く聞き直し、ソータが理解したのは高速で動く物体を目視する事ができるスキルであると言う事だった。しかし、自身が速く動ける訳ではない。更に言えば体感時間はともかく発動時間が短い。

 結局、何度も繰り返し試してみることでなんと捕まえることに成功。


「結構、疲れるね」 


「ケイのサポートがあっても、ソータくんがメインだからねぇ」


 どうやらこれは脳にそれなりの負荷をかけるようだ。多用はできないだろう。他には視力や聴力強化などは意識を向けるイメージが分かりやすいから簡単におこなえたが、視界に多数映る文字や数字に辟易していた。

 表示される内容は"兵器選択"、”エネルギー残量"などその他多数みられていた。兵器は試しに意識を集中するが特に何も起きなかった。


 他にも色々と表示されていたが、表示場所もまちまちで、視界に常に映るため正直気持ち悪い。


「こんなの見ながら動いたり、戦ったりしながら判断して処理してって難しいよね」


「表示内容は便利なものばかりよ。いらない表示はスイッチみたいに意識したらオン・オフできるようになるよー。多少は”ネマ”が助けてくれるしー」


「そうだ。”ネマ”ってどこにいるの?まさか脳に埋め込まれてるとか」


 だとしたらとソータは寒気がする。果たして今の自分の意志は本当に自分のものなのか機械によるものなのか。


「あー、大丈夫。そこだけはぁ不可侵の領域よ。近くには設置されていたけどぉ、完全に補助でしかないわよぉ。

 それにあの子の本体はうちの地下深くにあったの。あなたには、その補助端末が入っているのよねー」


 よくわかんない、という顔をソータがしているのをみて、あー、とソニアは天井を眺めながら分かりやすい言葉を探しているようだ。


「簡単に言うと、ネマの分身があなたの中にあるの。ネットワークは使えないから、アプデはここに来た時に有線でやるのよぉ」


 ますます分からない言葉ばかりたったが、悪い事はされていないようだとソータはほっと胸をなでおろす。


「といってもわたしは人間工学やらロボット工学が専門だからAIの事はそこまで強くはないけどね」 


「えー? じゃあ、大丈夫かどうか分からないじゃないですか」


「心配しなくてもそんな悪い事はしてないはずよ。正直、今以上に悪い事にはならないわねぇ。だって禁忌のAIを搭載してるんですから」


 それもそうか。となんだが騙された気分もソータ納得してしまう。既にAIは自分の身体の中にあり、かつ自分ではどうしようもない。そもそも、自分の身体の事は機密事項なのだからAIの事はバレようがないはずだ。


 その後はノートに何かを書き込む作業に没頭したソニアが黙り込んだので何回か"フレームカット"を試してみる。数回連続で行うと目がチカチカして非常に疲れた感じがした。恐らくこのぐらいが限度なのだろう。


「あら。出来てるじゃない。その調子よー」


 いつのまに作業を終えていたのかソニアは満面の笑顔で褒める。


「よくわかりましたね。はい、一応できましたよ」


「ソータ君の視界はこちらで確認できるようにしてるからねぇ」


 手元のモニターをペシペシと叩きながら何でもない事のようにソニアはいう。


 ソータの驚いた顔をみてソニアが心配しなさんなと声をかける。


「視界共有なんて、この訓練の間しか許可とれてないわよー。しかも、この極々近距離で設備があってこその無線通信だから普段はムリよー。安心して。本当ならずっとずっとずーっと、モニタリングしたいぐらいなのに。そしたら一日中、ソータくんと一緒。……でも顔が見えないかー」


 後半はやや小声になっていたが、試しに強化した聴力のおかげで聞こえなくていい事まで聞こえてしまったソータはやや引き攣った笑顔を浮かべてつつ、訓練が終えた後に部屋を後にした。


 その後も休みなくノートに記録を書き続けていたソニアがペンを置いたのはそれから一時間以上後のことだった。

 ゆっくりとペンを置くと今日の出来事をもう一度思い出すように目を閉じ、しばらくその閉じた目で虚空を眺めるかのように顔を上げていた。


「ソータ君がスキルを使えるようになったのねー。文献に書いてあったのはホントだったんだぁ」


 ポツリと呟くソニアの声は訓練室に吸い込まれるように消えていった。

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