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レシピ8 肉を取り出します。おっと、油はまだそのままで

 


 隣町に入ると、さっそくフィズはイエーガーを露店コーナーへと引っ張っていった。


「ねえねえイエーガー、これ超かわいくない? これとー、これだったらー、どっちがあたしに似合うと思う?」


 露店の髪飾りをそれぞれ手にとって、フィズは目をキラキラさせている。

 デザインはどちらも似たようなもので、ただの色違いらしい。


「どっちも同じに見えっけど。お前、たしか赤が好きだっただろ? 赤にすれば?」


「っんもう! やっぱイエーガーってば、うちの男どもとは格が違うね! あいつらあたしの買い物まともにつきあってくれないんだよ! ホントいやんなっちゃう!

 モヒートは自分大好きだし、リッキーは食べ物ばっかだし、カルーアなんて絶対にこういうの近づこうともしてくれないもん! 見るとじんましんが出るんだってさ! おかしいよねアイツ!」


 三者三様のリアクションがイエーガーの頭の中で忠実に再現され、イエーガーは苦笑いを浮かべた。


「普通そういうもんじゃね? 正直俺たち、こんなん見たって面白くもなんともねえし……」


 露店に並べられた髪飾りにざっと目を通しながら、イエーガーは一つの髪飾りに目が止まった。

 木の実と木彫細工で作られた質素な髪飾りだったが、丁寧に艶出しされたものだった。


「あれ? イエーガーどうしたの? なんかあたしに似合いそうなのあった?」


「……あ……いや……なんでもねえ。

 その赤いの気に入ったんなら買えば? フィズに合ってる」


「ホント? じゃあ買う!

 イエーガーが褒めてくれたから今つけよーっと! じゃあ次はイエーガーの見たいお店ね!」


 受け取った商品をさっそく髪につけると、フィズはイエーガーの腕に自分の手を絡ませる。


 横を歩くフィズの髪飾りが光を反射して、キラキラと揺れているのがイエーガーの視界の端にうつりこむ。


(あまりキラキラしたものを装備すると、ラーカスに襲われてしまうの)


 昨日のシャルトリューズとの会話を思い出した。


「……フィズ、ラーカスって鳥……知ってるか?」


 真剣な表情のイエーガーとは異なり、フィズは目を可愛らしくパチクリさせ、首をかしげた。


「えー? 何その鳥? おいしいのー?」


「わかんねえ、食ったことねえし……食える鳥なのかもちょっと……」


「ふーん、イエーガーの話聞いたら、なんだか急に鳥が食べたくなっちゃった! 揚げ鳥の屋台って、この町のどっかにあったよね?」


「……あったな。たしか……この先の二つ目の通りを右に行ったとこじゃなかったか? 先に行って並んでてくれ。俺も食いたい」


 フィズはイエーガーの腕を離すと、満面の笑みでイエーガーを見上げた。


「オッケー! イエーガーの分はあたしがごちそうしたげる! 今日のデートのお礼!」


「別に気にすんなよ。行く方向がたまたま一緒だっただけだろ?」


「じゃああたしが(おご)りたいから(おご)ってあげるー!」


 笑顔で手を振り走っていくフィズの姿が見えなくなったのを確認すると、イエーガーはすぐさま髪飾りを売っていた露店に戻り、さっき目をつけていた木彫りの髪飾りを指さした。


「おっちゃん、それ買うから速攻で包んでくんない?」


「あいよ! あんちゃん若いのに見る目があるじゃねえか! こいつはなかなか手に入らない良いもんだよ!」


 威勢の良い店主に告げられた値段を聞いてイエーガーは驚いた。


「はあっ!? 何だよその値段! ぼったくりだろ! さっきのキラキラゴテゴテのやつより、何倍も高いじゃねえかよ! おかしくねえか!?」


「おやぁ? お客さーん、見る目があるのかと思ってたけど、こいつの良さを全然分かってないねえ。

 この髪飾りに使われているこの木の実、なんだか分かるかい? これすごい実なんだよ?

 なんだか分かる? 分かんないよねえ? 分かってたらこの商品が高いなんて言えないもんねえ?

 いやあ、残念だなあ。値打ちが分からないのかなあ。残念だなあ」


「うぜえ! もったいぶってんじゃねえよ! ほら金! さっさと包んでくれよ! 説明はもういいから!」


 半ばケンカ口調で金を払い、まだグチグチ言ってる店主に文句を言いながら商品を包ませた。


 手に入れた商品を懐に入れたイエーガーは、フィズの待つ屋台に向かう。


 予想外の出費により、もはや武器を買うための資金は残っていなかった。


 買い物目的で来たのに買わずに帰ると不自然だ。確実にフィズに怪しまれる。


 この明らかに女物の髪飾り――これを買ってしまったことを、絶対にフィズにバレないようにしなければ。


 さて、どうやってごまかして村へ帰ろうか……。


 イエーガーは頭をフル回転させながら、揚げ鳥の屋台へと歩いていくのであった。

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