表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

レシピ6 そうすることで皮が伸びてパリパリになるのです



「賢さの種ってなんだよ! なんでケモノが人語しゃべってんだよ! しかもなんで家族ぐるみで知り合いなんだよ! 俺を無視して親睦深めてんじゃねえよ!」


 ブチ切れるイエーガーへ、シャルトリューズは素直に頭を下げた。


「ごめんなさいイエーガー。すごく久しぶりにぴぺたんに会えたから嬉しくて」


 そこへピペリタスが威嚇するようにシャルトリューズとイエーガーの間に割って入った。


『シャルトリューズ、この人間の(オス)はずいぶんと荒々しく知性の欠片もないが、君とはどういう関係だ? 君がこんな(オス)を傍に置いておくことが理解できない。研究対象か何かか?』


「なんで人間の俺がケダモノのてめえに知性の心配されなきゃいけねーんだよ! 食用にすらならない害獣の分際で!」


「……イエーガーも賢さの種、食べる?」


「ケモノのエサなんざ誰が食うか――――っ! しかも哀れみを浮かべた目で俺を見んな――――っ!

 なんだてめえ! 俺をあいつ以下だとでも思ってんのか? 思ってんだな! このやろう! あとで覚えてろよ!」


『すぐに吼えるのは弱い(オス)の証明だ。護衛にすらならないな。そして『野郎』とは雄への呼称であって雌であるシャルトリューズには不適切。あまりにも知性が低く愚かだ……。

 シャルトリューズ、それは何のために連れている?』


「てめえはいちいち腹立つんだよ! ケダモノの分際で人間をそれ呼ばわりしやがって! 丸焼きにしてやろうか!」


 イエーガーの挑発に、ピペリタスがわずかに毛を逆立てた。


『ほう……そんな細い身体で私に戦いを挑むとは無謀だな。私の牙の前では貴様の体など小枝も同然』


 二人の間で高まっていく殺気を感じ、シャルトリューズが慌てて諫めた。


「やめて、二人ともケンカしないで」


『何も憂うことはないシャルトリューズ、(オス)(メス)を取り合い、争うものだからな』


「俺とシャルトリューズをお前らケモノと一緒にすんじゃねえ!」


「……ぴぺたん……? まさか私を……(メス)として意識してくれてるの……?」


 ほんのりと頬を染めたシャルトリューズに、イエーガーが思わず叫んだ。


「ちょっと待った――――っ! なんでお前ちょっと嬉しそうなの!? おかしいだろ! 獣から雌として意識されて喜ぶ人間の女なんて聞いたことねーぞ!」


 イエーガーの叫びは一人と一匹の前では無力だった。完全にイエーガーを無視して話が進む。


『もちろんだ。その知性、その叡智、私の周りの雌にないものをシャルトリューズは持っている。叶うものなら、ずっと……私の傍にいて欲しい……』


 恥ずかしさのためか、興奮気味に鼻息荒くピペリタスが愛の告白をする。

 シャルトリューズは感極まり、自分の頬を手で押さえる。


「ぴ……ぴぺたん……!」


 このままではマズイ!


 イエーガーは悟った。


 この女、雰囲気に流されて獣に嫁ぐかもしれない。人間としてあり得ない展開だが、シャルトリューズならやりかねない。


 人間よりもピッペリー愛が勝る女だ。知的好奇心から異種族婚を強行する危険がある。


「感動してんじゃねえよバカ女! いいか? ケモノなんざなあ! (メス)(はら)ませてガキ作ることしか考えてねえんだよ! ちょっとしゃべり方が賢そうだからって(だま)されんじゃねえ!

 たまたまこいつが人語をしゃべるからってなあ! 中身はそこらのケモノだろうが!」


「ぴぺたんと……私の子供……?」


 シャルトリューズの反応を見てイエーガーはしまったと思った。

 シャルトリューズの知的好奇心に火をつけてしまったらしい。


 そしてピペリタスはその隙を見逃さなかった。

 好機とばかりにシャルトリューズへ甘い言葉をささやく。


『私とシャルトリューズの子供なら、きっと賢い子になるに違いない。

 ただし身体の構造や種族間の違いを考慮すると超えなければいけない障害が多々ありそうだ』


「少し文献を調べてみるわ。過去に異種族間での婚姻事例があったかどうかと、それに伴う生殖行動の結果について」


 イエーガーは必死の反撃を試みた。


「前向きに検討してんじゃねえよっ! 産む気か? バカなのか? バカすぎるだろ! 無理だろこんなでかいケダモノ相手に!」


 しかしピペリタスは余裕のカウンターだ。


『愚かな人間だな。シャルトリューズの知性を理解できないとは。シャルトリューズは未知を既知へと変えられる力を持った素晴らしい(メス)だ』


 そして勝利の女神(シャルトリューズ)はピペリタスの手を取った。


「イエーガー、誰もが想定しえなかった可能性について思考することはとても有益なとこだと思うわ。

 分かってほしいなんて言わないけど……バカ呼ばわりは……正直とても心外だわ……」


 シャルトリューズが自分よりピッペリーの肩を持った。

 今まで感じたことのない最大級の屈辱と怒りがイエーガーを支配した。


「もういいっ! お前なんかもう知るか!

 ケモノの仲間にでもなっちまえっ! この……っケダモノ女――っ!」


 イエーガーは捨て台詞を吐き、山から逃げるように走り去った。



・・・



 山を駆け下りたイエーガーは、すぐに自分の家へと向かった。その途中でさっきまで自分たちを尾行していた仲間たちに遭遇する。


 安堵の表情を浮かべた仲間たちがイエーガーに駆け寄ってきた。


「イエーガー! 良かった! 無事だったんだね!」


「なあ、プレートメイルと何話してたんだよ。その話おれにも教えてくれよ」


 声をかけたリッキーとカルーアは、話しかけたままの表情で固まってしまった。

 あまりにも恐ろしい殺気を向けるイエーガーを前に、それ以上何も言えなくなる。


「……俺の前で……二度とあいつの話をすんじゃねえよ……」


 殺気を放ちまくりで通り過ぎて行くイエーガーの後ろ姿を見つめたまま、仲間たちは何も声をかけられないまま立ち尽くす。


「どうやらプレートメイルとの交渉は決裂したようだな」


 モヒートがつぶやいた。


「相当な修羅場だったみたいだな……」


 カルーアもかすれ声でつぶやく。本気でキレているイエーガーには、さすがのカルーアも馴れ馴れしく話しかけられない。


「イエーガーをあんなに怒らせるなんて……。

 やっぱプレートメイルって相当にヤバい女なんだね……」


 一同は顔を見合わせ、うなづくしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ