レシピ2 香辛料を揉みこみ、ハーブオイルに浸けておきます
「お……おい、イエーガー、イエーガー」
カルーアに視線すら向けず、イエーガーが冷たい返事を返す。
「邪魔すんなカルーア。俺はこいつらにどうしてもはっきりさせなきゃいけないことが……」
「プレートメイルがすんげーこっち睨んでる」
「あ?」
イエーガーがカルーアの指さす方向を見ると、『顔面プレートメイル』のあだ名がつくほどの無表情で有名な女――シャルトリューズがものすごい眼力でこっちを睨んでいた。
そのあまりの眼力にイエーガーは思わずたじろぐ――が、かろうじて動揺を隠しつつ、睨むシャルトリューズに向かって叫んだ。
「なに睨んでやがる! こっちは取り込み中なんだよ! お前の相手は後でしてやるからどっか行け!」
しかしシャルトリューズは毅然と言い返してきた。
「私の用事の方が確実に重要案件よ! あなたこそすぐに来なさい!」
予想外にも言い返されたことによる驚きと少しの嬉しさを覚えつつ、しかしあまりにも偉そうな物言いに怒りも湧き、複数の感情処理が追いつかなくなったイエーガーは言葉に詰まった。
「……こっの……っ! 『来なさい』じゃねえよ! 何様だてめえは!
どう考えたってなあ! 俺の! 今の! 用事の方が! 大事なんだよ! 帰れ! 消えろ!」
つい勢いで言い過ぎてしまった。しかし後悔してももう遅い。
仲間たちにはシャルトリューズとの仲については何も話していない。
もともとシャルトリューズとは口論の多い関係だったこともあり、つい今までの習慣で必要以上にきつい言葉をぶつけてしまった。
ちなみに現在のイエーガーの胸中は焦り50%、申し訳なさ30%、怒り10%、ちょっと嬉しい10%である。
少しずつシャルトリューズとの距離が近づいている実感はあるが、それを知られてしまうと仲間にからかわれることが確実なので敢えて黙っていた。
結果、今回はそのことが災いした。
内心動揺しまくっているイエーガーとは対照的に、シャルトリューズは全く動じていなかった。
「絶対にそんなことはあり得ないと断言するわ! 私の用件の方があんたの案件の何倍も火急かつ重要だって断言する! 今すぐこっちに来なさい!」
全くもって遠慮のないシャルトリューズの物言いに、イエーガーの心のパラメータが怒り70%、パニック30%になった。もはや制御不能状態である。
頭で考えるより先にイエーガーは叫んでいた。
「ああんっ!? 勝手に断言してんじゃねえよっ! こっのクソアマァ! さっきから偉そうにしやがって! 何様のつもりだコラア!!」
「今私の話を聞かなければあんた100%後悔するわ! 断言する! 聞かなくていいのね?」
「おー! 言ったな! じゃあ聞いてやろうじゃねえかよ! 大した話じゃなかったらお前、ただじゃ済まさねえからな!」
怒りで顔を真っ赤にしたイエーガーがシャルトリューズに向かっていくのを仲間たちは呆然と見送った。
「た……助かった……」
リッキーがへにゃへにゃと地面に座り込んだ。その隣でモヒートが汗をぬぐっている。
ただ一人実害がないため余裕だったカルーアは、不思議そうにシャルトリューズの立っている一角を見つめた。
「おれ、あの女があんなでかい声出すの初めて聞いたぜ……」
モヒートが静かにうなずく横で、リッキーが心配そうに仲間たちへ視線を送る。
「ねえ、二人とも~……ボクさあ、顔面プレートメイルの超怪しい噂知ってるんだけどさ~。
……イエーガー、大丈夫だよね……?」
モヒートがリッキーへうなづきながら返事をする。
「危険な組織に違法な薬物を流してる話だろう? それはオレも聞いたことがある」
カルーアが興奮気味に二人へ詰め寄った。
「おいおいおい! なんだよそれ! じゃあもしかしてプレートメイルの持ってきた話ってやつはイエーガーのスカウトか? なんだよそれ! おれも混ざりてえ! おれもスカウトされてこよっかな!」
声の大きいカルーアにリッキーが注意する。
「しーっ! カルーア! 静かに!」
声を潜めたモヒートが提案する。
「どんな話してるか聞いてみよう。ヤバい話じゃなかったら近づいても気にしないはずだ。オレたちが近づいて警戒するようなら、ヤバめの話の可能性が高い」
「よし、さりげなーく接近だ!」
3人は悪い笑みを浮かべて作戦を決行した。