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レシピ12 ハーブが香る濃厚ソースのパリパリ☆チキンソテーの完成です



 何故イエーガーが怒って帰ってしまったのか理由が理解できないままシャルトリューズは帰宅した。

 家ではエプロン姿の父がラーカスの肉を焼いているところだった。


「ただいま父さん。これから焼き始めかしら? じゃあ私、サラダを作るわね」


 すぐに裏口から庭へ出ようとするシャルトリューズに、父が声をかけた。


「お帰りシャルトリューズ。ついでにルーディーも一緒に摘んできてくれる? 今日のラーカスはちょっと臭みが強いみたいだ」


「ねえ、それ大丈夫? それもしかしてマイルラーカスじゃなくて、ティーラーカスなんじゃないの?」


「んー、どうかな。ま、食べてみてから判断しよう」


 裏庭から数種類のハーブとサラダ菜を摘んできたシャルトリューズは、皿に見栄えよく盛りつけていく。


「イエーガーくんには会ったかい?」


「ええ、すごく疑問に思っていたキャロルのクーポン券のことも教えてもらえたわ」


「あはは、今朝のシャルトリューズすごくよそよそしかったから心配してたんだけど、父さんが原因だったかあ」


 困ったように笑う父を見て、シャルトリューズはさっきイエーガーと話していたことを父にも伝えた。


「イエーガーが、父さんのことかっこいいって褒めてたわ」


「ええ? こんな歳とったおじさんをかい? なんでまた」


「母さんのことを、ずっと愛してるって言ってたのがかっこよかったみたい」


「あはは、そうかい。でもね、あれは実はちょっと嘘なんだ」


「え?」


 シャルトリューズの手が止まった。

 嫌な予感がした。


「イエーガー君にはああ言ったけど、僕には他にも愛してる女性がいてね」


 聞きたくない。

 言わないで。

 そう言いたいのに声が出なかった。


 父はそんなシャルトリューズの胸中に全く気づかず言葉を続ける。


「シャルトリューズのことも愛してるし、もう嫁いでから全然顔もみせなくなっちゃったシャルトリューズの姉さんたちのことも愛してるし、あの子たちが産んだ子たちのことも孫としてとっても愛してるんだ。

 ははは……なかなかなプレイボーイだろう? 恥ずかしいからイエーガーくんには内緒にしておいてね」


 シャルトリューズはたまらず父の胸に飛び込んだ。


「おっと、どうしたんだいシャルトリューズ。珍しくスキンシップしてくれるんだね」


「父さんはとってもかっこいいわ。私も、父さんのこととっても愛してる!」


「ありがとうシャルトリューズ。さあ、いい具合にラーカスが焼けたみたいだ。食感でラーカスの品種が特定できるか実験してみるとしよう」


 父と娘はいつもと変わらず、むしろいつもよりも仲睦まじく幸せな時間を過ごすこととなった。


・・・



 ベッドに入ったシャルトリューズは今日やり遂げた実績について振り返った。


 謎のキャロル半額クーポンの謎も解けた。

 父の交際相手の存在は否定された。

 ぴぺたんの生存を確認した。

 山奥の聖域の存在について情報を入手した。


 今夜のラーカスはティーラーカスの肉である確率が38%、マイルラーカスの肉である確率が32%、まだ食したことのない未知のラーカス類である可能性が30%……結果、判別は困難であるということが判明した。


 あと――。


 引き出しにしまおうとしたが、なんとなく枕元まで持ってきてしまったセンジュの実。

 木彫り部分も丁寧に艶出しがされてあって、なでると感触が心地いい。


(イエーガー、最後なんであんなに怒ってたのかしら)


 思い当たりそうな仮説を考えてみる。


(もしかして――)


 ある仮説が浮かび、シャルトリューズの動悸が亢進する。


(もしかして、イエーガーにはもう好きな人がいるってこと?

 好きな人がいるのに、私が好きな人を見つけたらみたいなこと言っちゃったから「もういるんだよ失礼な!」って怒ったのかしら。

 誰なのかしら? この村の人? どうしましょう、私、全然周りに興味がなさ過ぎて全然気づかなかったわ! それならそうと言ってくれればいいのに! それなら――……)


 そこまで考えて、思考が停止する。


 それなら、もう邪魔をしちゃいけない。


 父の不祥事的な負傷の度に山に連れ出し、野良仕事の手伝いをさせるのもイエーガーの恋路を邪魔してしまう。

 イエーガーは優しいから、頼めば応えてくれる。

 その優しさに甘えていた。


 イエーガーが好きな人と過ごすための時間を奪ってはいけない。


 頭では理解している。


 でも勝手に涙が流れてしまう。


 違う。これは恋じゃない。

 イエーガーのことが好きかもしれないなんていうのはただの錯覚だ。

 たまたま動悸が亢進するタイミングに限ってイエーガーが一緒にいるだけだ。


 イエーガーに好きな人がいても、その人と結ばれたとしても、そのことが自分自身に影響を与えるようなことではない。


 そう自分に言い聞かせる。


(……イエーガーの好きな人って、誰なのかしら……?)


 シャルトリューズの眠れない夜が始まろうとしていた。

次回のシャルトリューズのレシピはシャルトリューズのライバルが出現します。

来年の春ごろに投稿できたらいいなと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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