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わたしはどこに

作者: 小野島ごろう

 小説ばかり読んでると、馬鹿になると言われた。

 テレビばかり見ていると、頭が空っぽになると言われた。

 外で鬼ごっこや縄跳びなどして遊んでいると、勉強しなさいと言われた。


 女の子は口答えするな、かわいげがないと言われた。

 あんまりいい学校に行くと、幸せになれないと言われた。

 男を立てろと言われた。


 結婚したら、幸せになるはずだった。


 飲み歩いて帰ってこない夫。

 家事も子どもの世話も何一つしないどころか、酔っぱらって邪魔ばかりしてくる夫。

 それでも仕事で頑張っているのだから支えてあげなさい、あんたも頑張りなさいと言われた。


 紙おむつでは、ロクな子に育たないと言われた。

 母乳が一番と言われた。

 三歳までは母親が育てなさいと言われた。


 天気の悪い日には、狭い部屋に布おむつをずらりと部屋干しして、その下で子どもをあやした。

 誰もわたしを助けてくれなかった。

 子どもはむずがり、何もかもを乱した。言葉なんて通じない。

 夫はやっと寝かしつけた子を起こしてから、あとは任せたと言って自分だけ先に寝た。

 ただ、良い子育てをしようと、それが自分の仕事なのだからと、歯をくいしばって耐えた。


 子どもはまったく思い通りにならず、自分がみじめになった。

 お金を稼げないのに、子育てもうまくいかない。

 お前の育て方が悪い。

 注意されはしても、だれもほめてくれない、いたわってくれない。

 愚痴をこぼし、べそをかいても、

 だれも肩代わりなんてしてくれない。

 だって、あなたが望んだことでしょう? 母親なんだから。しっかりして。

 いつまでたってもため息をつかれる存在。

 口答えをせず、笑みを絶やさず、家庭を切り盛りし子どもを育て、男を快く送り出す。

 数えきれない女たちがしてきたことが、どうしてできないの?



 わたしは、どこにいたのだろう。

 世間と言う名の、きれいな白い繭。

 同じような女たちを育てる、丸くて狭くてきれいな繭。


 

 ただ、誰かに言ってほしかった。

 そんな繭なんて、無いのよと。

 

 よくがんばったね。

 あなたがしたいようにしてごらん。

 よく考えてごらん。きっとすばらしいことができる。応援しているよ。

 苦しい時は、がまんしないで。

 我慢強いあなたが苦しいのは、よほどのことだから。

 きっといい方法がある。一緒に考えよう。


 わたしはそう言ってあげる。

 過去のわたしに。そして、これからのあなたたちに。


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