自殺の名所に行ったら先輩がいただけの話
全国のいたる場所には、いわくつきの場所があるのを知っているだろうか。
俺はそういった場所に行くことが好きで、親に止められるのだがいつも一人で行っている。まぁ、自己責任ではあるが、行った後はお祓いもしてもらっているため霊的な問題はない。
今日は、地元で有名な自殺の名所に行ってみようと思い準備を進めていた。
お守りに懐中電灯、携帯食料などをショルダーバッグに詰め込む。
「よし、今日も行ってみるか」
家族が寝静まった真夜中にゆっくりとドアを開けて外に出ていく。鍵を静かに閉め、今日は自転車でその場所に向かうのだ。
「まさか、地元に有名な自殺の名所があるなんて思いもしなかったな。灯台下暗しとはまさにこのことなんだろうな」
夜風に当たり、街灯に照らされながら目的地へと進む。
今までは幽霊などが出るという噂を調べて、現地に向かうことを繰り返していた。なので、自殺の名所はあまり眼中にはなかったのだが、調べてみるとそこにも出るという噂がある。
まぁ、噂は噂なので本当に出るのかと言えば、半信半疑なところもあるのだが、俺はこういうことが好きなので文句は言わない。
因みに俺は危険だと思った瞬間に帰ることにしている。
お祓いの人に言われたのだが、勘というものは大切にしたほうが良いらしい。特にそういった霊的な場所に行くときは重要なのだとか。
何度かお墓や断頭台跡地、霊場なんかに行き、そういった経験をしているため、その話は少しだけ説得力があった。
自転車を漕ぐこと15分…目的地の前に到着した。山の入り口なのだが、思ったよりも整地されている。
調べてみるとここは、自殺の名所と同時に観光地にもなっている場所であったのだ。そして、ここには様々な名前がある。地獄の入り口だとか霊の穴場であるとか様々だ。
入り口からは自転車では行けない山道のため、俺は歩きで目的地へと向かうことにした。
懐中電灯で足元を照らしながら階段を登って行き、どんどん上へと上がっていく。
今のところは人の気配もしないし、危なさそうな感じもない。ただ物音しない静かな空間が広がっているだけであった。たまに動物の鳴き声や風で木々が揺れる音が聞こえるだけである。
「静かだなぁ…ん?」
階段を登っていくと段々と水の流れる音が聞こえてくる。
そう、ここは滝が有名な場所なのだ。なので夏であるのにここら辺の体感温度は思ったよりも寒い。
上着を着ている俺でも少し肌寒く感じるくらいだ。
「ひえぇ…寒いなぁ」
階段を登りきると大きな滝が見えた。
俺がいる場所は大きな崖の上で、そこから見事な滝が見えるのだが…暗くて正直あまり見えない。
上を見あげると星々が点々と輝いており、今日の天気が晴れであることを知らせてくれる。
「…ん?」
滝を見るために近づくと柵の向こう側に人影が見えた。
やばいと思って離れようとするが、その人影が着ている服に見覚えがあり、足を止める。
その人物が着ていたのは笹日奈学園の制服であった。つまり、俺と同じ学園に通っている人であった。
スカートを履いているため、恐らくは女子生徒だと思うが、なんでこんな場所に?
俺は声をかけることにした。
「あの~」
「ひゃあっ!?」
俺が後ろから声をかけると少女は驚きながら後ろを向く。
懐中電灯で少女を照らすとその人物は俺、いや全校生徒が知っている人物であった。
「…あれ?向井先輩?」
「なんで、私のこと知っているの?」
少し警戒しながら俺に彼女は聞いてくる。
俺は自分が同じ学校の生徒であることを伝えた。なので、向井さんが生徒会長であることを知っていることも納得はしてもらった。
「そう、私と同じ学校なのね」
「先輩はどうしてこんな場所に…」
「決まっているでしょ?ここは名所なんですもの。夜にこんな場所に来た時点でその人物の目的なんて決まっているわ」
「……」
俺は彼女がそう言って気づく。
そうだ。ここは名所だ。自殺の名所であった。つまり、ここにこんな時間に来るという時点で理由なんか決まっていた。
だが、俺は戸惑う。どうして生徒会長の向井先輩が自殺なんかするのだろうかと。
「君もそうなんでしょ?」
「え?」
「君もここから飛び降りれば楽になれる。そう思って着たんでしょ?良かったら一緒に飛んでくれない?一人だと勇気が出ないのよ。ずっと死にたかったのにね…ここに立った瞬間にそんな覚悟が一瞬で消し飛んでしまうの。でも君と一緒ならできそうな気がするのよ」
俺はどうすればいいのか分からなかった。
眼の前には自殺を決心してしまった人がいる。そんな場合に俺に出来ることはなんだろうかと考える。
「まずはこっちに来ませんか?席に座ってお茶でもどうです?ここって寒いですよね?飛び降りる前に凍え死にしちゃいますよ。それにいきなり一緒に飛んでと言われても覚悟がありますから」
俺は自動販売機で買っていたお茶を見せる。
夏だからと冷たいお茶を買っていた俺であったが、思ったよりも寒かったために、温かいお茶を自販機で買っていたのだ。
「それもそうね。君の覚悟ができたらその時に一緒に居てくれたらいいわ」
向井先輩は、柵を越えてこちら側に来てくれた。
席に座ってお茶を受け取ってくれる。
「温かいわ」
「先輩、俺には先輩が自殺を考えるようには見えないんですけど…何があったんです?」
「そうね。あなた…えっと、名前は?」
「村田です」
「村田くんには私の姿は生徒会長の人って感じでしょうけど…私は弱い一人の女子生徒なのよ」
向井先輩が話す内容は学校内で自分の身に起きていることだった。
友達からは嫌味を言われる毎日、知りもしない男子生徒からの告白とそんな男子生徒を好きだった女子生徒からの嫌がらせ…いわゆる嫉妬だ。
教師に助けを求めても自分でなんとかしろと遠回しに言われ、親に助けを求めてもあと1年なのだから我慢しなさいと叱られる。
そんな日々を送っているうちに向井先輩はどうしてこんな苦しい思いを自分がしなければいけないのだろうと考えるようになってしまったようだ。
辛い日々を生きるくらいなら、今すぐに死んで楽になりたいと思ってしまったようだ。
「私ね?はじめは薬で死のうと思ったの。市販の薬でも大量に接種すれば死ねるらしいから」
「そうなんですか?」
「えぇ、でも駄目だったの。途中で吐き出してしまって、死ねなかったわ」
淡々と向井先輩は今までどうやって死のうかと考えてきたことを俺に伝える。
薬の次は首吊りで死のうと思ったようだ。だが、ロープを首にかけた瞬間に怖くなってしまったようだ。
「それで次に考えたのが飛び降りだったの」
「なるほど…それでここに来たんですね」
「そう。村田くんはどうして?」
向井先輩は俺がここに来た理由を尋ねてくる。何かを期待しているような目だった。
俺は非常に言いにくいと思い、なかなか話し出すことができない。嘘を伝えればきっと今の彼女はそれを信じてくれるだろう。だが、俺はそれでは駄目だと感じてしまった。
「俺は……ここに自殺をしに来たわけではないんです」
「え?」
向井先輩は裏切られたかのような反応をする。
「ここには幽霊が出るという噂がありました。なので、それを確かめようと思い、やってきたんです」
「そう…そうだったのね」
向井先輩はお茶を飲み、何かを考えるように頷く。
そして、お茶を椅子に置き、席を立つ。
「お茶、美味しかったわ。あと、こんな話に付き合わせちゃってごめんなさいね」
「全然、良いですよ」
「そう、少しだけど…スッキリしたわ」
そう言って柵の方に向かおうとする。
俺は無意識に向井先輩の手を取る。なんでかはわからない。別に自殺が悪いことだという短絡的な道徳心からではない。俺は何かを伝えたかった。
「何よ、離してよ」
「…先輩、俺はどうも先輩が死んでいい人には見えないんです」
「は?何よそれは」
「人はいつか死ぬんですよ?ある人は言っていました。人間は常に死へとあるき続けているって…先輩はいつか絶対に死ぬんです」
「何よ、そんな当たり前のこと…わかってるわよ」
「じゃあ、今じゃなくても良くないですか?」
俺も考えたことはある。
それは別に誰かに虐められたとか、親からの家庭内暴力があったとか、バイトや仕事で非道な仕打ちを受けたなんてことはなくても考えてしまう。
気分が何か小さな出来事で一時的にマイナスの方に著しく傾いた時に、ふと死にたいと思ってしまう自分がいる。だが、その時に思うようにしているのはまだ早いのではないかということだ。
今の世の中はいつでも死のうと思えば死ねる。それに寿命でも死ねるのだ。寧ろ生きようとする方が圧倒的に難しい。向井先輩は多分、生きようと頑張っているから苦しいんだと思う。でもそれは当たり前で、誰だって苦しんでいる。でも、そんな苦しみの中にちょっとした嬉しさや楽しさに出会えることでみんなは生きようと頑張れる。向井先輩にはそれが足りていなかったんだと思う。
「私はいま死にたいの!…もう嫌なのよ、誰かに陰口を叩かれるのも、嫌がらせをされるのも」
「でも、先輩言ってたじゃないですか。勇気が出ないって…本当に死にたかったら勇気なんて出さすとも死んでいるんですよ」
「じゃあ今すぐに死んでやるわよ!飛び降りれば良いんでしょ!?」
俺は向井先輩の腕を強く掴んで離さない。
「俺が先輩の話をこれからも聞きます」
「…は?」
「先輩が困ってることがあれば手を貸します。悩んでいることがあれば聞きます。それでスッキリしてください。今すぐに楽になりたいから死ぬなんて…そんな悲しいことを言わないでください」
「何よ、何なのよ…今日、始めて会ったのよ?今まで喋った機会もないし、顔を合わせたこともないのに…」
「だって、眼の前に自殺しようとする先輩がいたら精一杯止めるのが良い後輩でしょ?」
俺は少しだけ笑いかける。
「…馬鹿じゃないの?」
「え!?」
意外と良いこと言ったつもりが真顔で罵倒されるとは思わなかった。
俺は思わず手を離してしまった。だが、向井先輩は柵を越えようとはせずその場に座りこむ。
「もう死ぬ勇気なんて出ないわよ」
「…ほっ」
向井先輩のその言葉に思わず胸を撫で下ろす。
一まずは自殺を止めることに成功したということでいいんだろうか。
「でも、許さないわ」
「え?」
「私が死ねなかったのはあなたのせいよ。この責任はしっかりと取ってもらうから覚悟してよね?」
とんでもない事を言いだしたと思ったが、俺は不思議と笑顔だった。
向井先輩と一緒に階段を降り、入り口へと戻る。温かったお茶も既に冷めきっていた、
自転車を押しながら帰り道を進む。今日の目的は果たせなかったけど、それでも良いかと俺は思う。
「それにしても、村田くん、あの台詞は何?」
「え、格好良くないですか?」
「あれを格好良いなんて思う人はあまり居ないと思うわよ?寧ろ痛々しいわ」
「そう言われると恥ずかしいので止めて」
「でも…私は嬉しかったわよ」
「そうっすか。じゃあ、良かったすね?」
やがて分かれ道につく。向井先輩は俺とは別の道に進み、振り返りながら手を振る。
その顔はさっきとは全く違う表情をしていた。
「じゃあ、また明日ね?村田くん」
~END~
読んでくださりありがとうございます。
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頑張って書いたので何卒何卒…。
今回のテーマは『自殺』になっております。少し嫌な思いをした方がいたら申し訳ありません。
では、次の投稿を楽しみにお待ち下さい。O_0