三冊目
「 悲惨 」
一言で表すなら
その言葉だろう。
カーデルドはかけがえのない友人を二人も失った。
キルロンの死因は不明だが、ロナウは人に殺された。
カーデルドの精神状態はおかしくなっていたと思われる。
我々には本当の事は分からないが、二人も友人を失えば人は狂ってしまう。
その証拠として、大切な友人だったはずのロナウを
自分が生き残るための駒としてみていた。
よし、これで最終巻だ。
これにて、カーデルドの冒険は終わる。
―――――――――――――
35日目 続
夜はいい。
一人になれるし、それに落ち着ける。
街中の人々は死んだのかと思うほど、街は静かだった。
「皆…良くやったよな。」
不意に後ろから声が聞こえる。
「あぁ…カズナリか。」
声の正体はカズナリだ。
「こんな真夜中に何してんだ?」
わからない。
ボーッと何かを考えているだけだ。
「少し…考え事をしてたんだよ。」
「そうか…まあ、色々あったしな。」
あぁ、色々あった。
転移した先は洞窟で、魔物がたくさんいた。
その時はもちろん、キルロンも俺もロナウも
戦う術なんて持ち合わせていなかった。
でも
カズナリとロッシーナが全力を尽くしてくれたおかげで生き残ることができた。
とりあえずマーサンギル王国に向かうために旅をすることになった。
その1ヶ月後にキルロンが死に
数日でロナウも死んだ。
そして近場の王国についた。
濃い1ヶ月だった。
今まで生きてきた中で一番だ。
「でも…これでやっと、安心して寝られるんだな?カズナリ。」
心配だった。もし俺だけ省かれて追い出されたら、とか考えると。
「あぁ、必ずお前も寝させてやる。」
36日目
食料を買い、船旅の準備をした。
水はたくさん持っといたほうがいいらしい。
旅の記録を記したものがなにかあったらそれがいい と言われたので、この日記を渡すことにした。
日記をつけていて良かった。
「やっとだね。家に帰れる。」
ロッシーナは少し陽気な声で言った。
「そう…だな。」
カズナリも何かを考えるように言った。
「まだ油断は禁物ですから!最後までしっかりやりましょう!」
俺も注意喚起しておく。
船から降りて3キロのとこに王国はある。
連絡はとれないから、自分たちで向かえとこのこと。
仲間を殺しておいてその態度はなんだ。と思ったが国同士の連絡というのはあまり取らないらしい。
莫大な費用がかかるから。
船はお世辞にも大きいと言えるものでは無かった。
だが、航海士 俺たち3人 医者 の5人を乗せるには充分であろう。
船旅は順調に進んだ。
ベテランの航海士を乗らせたから当たり前だけどな。
船酔いした者は医者に見てもらって安定させる。
俺は船酔いしなかったけど…
カズナリとロッシーナの二人はキツイみたいだ。
外見は質素な船だが船室は結構綺麗で、しっかりしたベッドもある。
最上級クラスなのか。これは。
目的地まで半分の時に、トラブルは起きた。
接近してきた魔物に気づかなかったらしい。
魔物にも水中で生きるヤツがいるのをすっかり忘れて寝ていた。
航海士も四六時中見ていたから疲れてんだろう。
まあ魔物程度、たくさん狩ってきた。
すぐに終わらせる。
一旦近くの孤島に船を止め、休めることにした。
「ふぅ…まさかスピルビッツが襲ってくるなんてね。」
スピルビッツとは魚のヒレがついた水中で動く鳥のような生物だ。
「まあ俺らならなんともないだろう。」
その通りだ。だって何百体もこっちは相手にしてるからな。
「まあ、しっかり休んでもらいましょう。航海士さんにも。」
37日目
思ったよりも早く朝はやってきた。
寝心地は最悪だったが、マーサンギルまで行けば熟睡できるに違いない。
皆が起きてから食事を取り、一時間後に航海は始まった。
「俺が今は周辺を監視してるよ。二人は船室にいてくれ、医者も、一応ここにいてくれ。」
カズナリがここを守るみたいだ。いざとなったら飛んでいこう。
「ロッシーナ…」
ロッシーナと船室で二人になった。
「なに?カーデルド。」
ロッシーナは最初 全く学校に来ない不登校の陰気臭い女子だと思っていた。
だが旅を始めるとそんな印象は薄れ、明るく可愛く、そして強い女子。という印象になった。
別に、彼女を恋愛面で見ているわけ…決してない。
俺だって勘づいてる。
一ヶ月以上いれば
「彼女」はカズナリのことが好きなのだと。
多分それはつい最近のことではない。
二人で王城に住み始めた時からか、それとも
もっと前からなのか。
それは分からない。
「ロッシーナさ、カズナリのことが好きなんだろ?」
そう聞く。
「え?私カズ君はただの親友として見てるよ。」
え?
「マジ?この一ヶ月間ずっと…そう思ってた。」
キルロンとロナウと…話していたんだ。二人の関係性について…
「カズ君は婚約者いるし!」
そうなのか…知らなかった。
「ちょうどノールに行く少し前かな。そのあたりに婚約したんだ。」
へぇ…そうなのか。
「俺は…」
猫女のことが
いや
好きでは無いのかもしれない。
憧れの気持ちなのか。いや、容姿は可愛らしいけども…
いや 好きな人は他の人だ
俺はずっとこの気持ちを隠していたのかもしれない。
この一ヶ月。
ずっと
彼女に
「ロッシーナ…」
そう言ってから考えが及ぶよりも先に、俺の身体は動いた。
「ありがとう。私もだよ。」
俺はロッシーナのことが好きだ。大好きだ。
コロコロ好きな人を変える嫌な奴って思うかもしれない。
俺はあの日 ロッシーナとカズナリが付き合っているって噂を聞いたとき、気になった。
ロッシーナと出会い、自分の気持ちに気づいた。
そうして、俺とロッシーナはキスをした。
「ロッシーナ、ありがとう。俺の…僕の気持ちに応えてくれて。」
「私も、カーデルド…君が大好きだよ。」
こうして、僕らは付き合うことにした。
結婚を前提に。
深夜
気づいたら僕の隣にはロッシーナが寝ていた。
あ、変なことはしてないぞ。
キスはしたけど…。
まだできたてホヤホヤのカップルだ。関係を悪化させるようなことはしたくない。
船室から出て、カズナリの方へ向かう。
そこには目を疑う光景があった。
「はぁ…はぁ…」
カズナリは一人で闘っている。
船に載せた、あの国最強の剣「魔剣マーザック」を持って。
その周りには航海士が、医者が、倒れている。
遠目からでも分かる通り、死んでいる。
「カ!!」
彼の名を呼ぼうとしたその時、声が出なかった。
なんで…助けなければ…駄目なのに…
僕の友よ…すまん
「魔王…か。」
魔王。
この旅の中で何度も耳にした名だ。
復活した。
魔王が。
杖を取りに行かなければ!
ロッシーナはどうなる。
このまま殺されるのか
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
戦え、
もう誰も
失わないために
医者が持っていたであろう杖を掴む。
力いっぱい。
「カーデルド…か!?何故ここに…!逃げろ!!!!ロッシーナの為に!」
彼はきずいていたのか、僕らの気持ちに。
「いいや。逃げませんよ…。僕は!」
魔王に向かって杖を向ける。
隣にカズナリが来る。
「そうか…!ならやろう!魔王を倒して!マーサンギルへ!!!!」
「ハッハッハッ!!!!!!いい気味だ!人間風情が魔王
ザルビノアを倒そうと言うのだな!!!」
「だが面白い!その心意気、気に入った!勇敢なる者よ!!!我が糧となり!英雄として名を刻むがいい!!」
護るための闘い。
今、始まった。
「ガァァァァア!!!」
地面を蹴り、魔王ザルビノアは宙高く跳ぶ。
「剣では…届かない!カーデルド!やれるか!」
30メートル程度か。やつまでは。
ならこの魔法だ。
「ギアムーチョ!!!」
氷の破片が魔王へと跳ぶ。
「氷魔法!!いい精度だ。だが!!!」
俺の氷は打撃によって砕け散る。
船へと落下する!!頼む!カズナリ!
「ハァァア!!!!」
剣を構え
「 蛇足炎邪 !!!!」
蛇のようにうねる炎を巻き、振りかざす。
「蛇足炎邪カッ!!???予想外の技!!!」
魔王の右手は蛇足炎邪によって切断された。
「クックックッ!ここまでやるとは!人間を舐めていたみたいだ。」
即死魔法は…使えるなら使いたい。
だがあの魔法は、相手の力が物凄く弱っていて、自分の魔力総量よりも一定数低くなければいけない。
なら…どうすればいい。
この状況で、繰り出せる魔法。
「てやぁぁぁあ!!!」
援護しなければ!!!!
「クリアキュール!」
カズナリの姿が透明になり、見えなくなる。
「なっ!!!!!透明化!!!」
喰らえ!渾身の一撃だ!
バコン と嫌な音を立てて何かが後方へ飛んでいく。
カズナリの透明化が溶けた。
カズナリは海の中に飛んでいった。
「な、なんで!!」
助けに行こう…
船室にはまだ
ロッシーナがいる。
俺が、魔王を
殺らなければ、
また失う。
「一対一だなぁ!ザルビノアァ!!!」
「もう一人の人間は死んだか!!!ガーハッハッハッ!!無様だったな!」
ピキン と何かが切れる音がした。
「魔力総量はどのくらいか」
おもわず口に出る。
「そうか…。」
「なんだ!人の子よ!!」
「魔王って言っても、この程度の魔力総量…。」
少しの沈黙の後、魔王がこちらに飛んでくる。
風を切る音がして、
「スパッザレ・ヴィア!!!」
痛々しい音がなり、魔王は声を上げる。
「グヴッッ!!」
「小僧め!!!!クレパァァァア!!!」
これは
不味い。
死ぬ。
「ディフェンデレ!!!」
自分の周りが光に包まれる。
「ごめん。待たせたね!カーデルド!」
「ロッシーナ!」
「私の魔力を注ぐ!そしてあなたは!」
「分かってる!!頼む!」
「小賢しい魔法を使いおってェエエエエエ!!!!」
ディフェンデレによって護られる僕たちは3分の間無敵のバリアで護られる。
「どうやって魔力を注ぐの!?」
「それは…」
「こうよ!!!」
彼女は僕に抱きつく。
そして唇と唇が触れ合い。
魔力が注がれるのがわかる。
幸せだ。
「行くぞ!!!!ザルビノア!!!」
「小僧メェエエエ!!!始末する!!!!」
「くらえ!!!!!!!!!」
クレパァァァア!!!
「ゲホッ…ゲホッ…。」
咳をしただけだ。
「死の魔法には耐久がある。我こそが死を操る魔王だからな。」
しくじった。
ロッシーナも俺も、死ぬ。
魔王の後ろに、頼もしい存在がいた。
「喰らえ。蛇眼刃剣。」
魔王の身体が真っ二つに切れる。
「ヴァガゥッ、、!!」
魔王は、復活したばかりで力がなかったのがよかった。
全盛期であれば、確実に勝てなかったであろう。
僕達はマーサンギルにつき、事情を説明し、僕も泊めてもらうことになった。
そしてカズナリは無事結婚し、
僕たち二人も結婚することになった。
転移から3年半後
「ロッシーナ。」
「カーデルド…」
誓いのキスを交わし、無事結婚した。
その一年後には二人の子供に恵まれ、
男にはロナウ
女にはセーニャ
と名付けた。
僕の母は、まだ見つかっていない。
全力を尽くし探すが、手がかり一つ見つけることができない。
一年後
母を見つけた。
ずっと近くにいた。
マーサンギル王の側近、
ララティーナ・ボラッズ
実の名を、アーメルト・ボーンズ といった。
ロナウが死んだことはわかったらしい。
生活が安定するまでは、自分の正体を明かさないようにと、王から言われていたらしい。
僕の血には、特殊な力が含まれているらしい。
魔力増大の力だ。
生存本能が働くと、魔力総量が10倍にも膨れあがるそうで、そのせいで僕は幼少期、王族に狙われていたのだとか。
それを母さんに助けてもらい。皆と出会えたのだからよかった。
同居することにした。
13年後
カズナリの息子
キルロン
僕たちの娘
セーニャ
二人が付き合い始めた。ロッシーナと僕と同じように、結婚を前提に、
親友の息子なら文句あるまい。
50年後
カーデルドが先に逝ってしまった。
私はロッシーナ、彼の妻。
この日記を見たとき、涙が溢れた。
あ、そうそう。
曾孫が産まれたのよ。
セーニャとキルロンの息子の子供
名前はカッシーナ
私に寄せてますよね?まだ死んでいないのに…
カーデルドとロッシーナ、合わせてカッシーナ
ですって。いいお名前よね。
100年後
この日記はなんだろう。
名前を入れてみる。
「アメイル・ボーンズ」
はあ、お父さんが昔々うちの先祖が受け継いできた大事な本だって言うけど…
ただの古びた本じゃない。
ムカつくから書き込んでやるわ。
あー、最近は彼氏がうざいの!ほんとにさぁ!
魔法魔法って!そんなのいいからデートしたいっつーの!
「ねぇ君、」
誰かの、声?
「僕はカーデルド・ボーンズ」
え?この日記の…
「この日記を、君が世に出してよ。カーデルド・ボーンズの冒険の書として」
こうして、私はカーデルド・オブ・ストーリー 古の日記を書くことにした。
――――――――
第3巻 完結