二冊目
一冊目は「ビッグタイタン」という怪物をカズナリとロッシーナ という二人の少年少女の力により討伐することが出来たという記述である。ここからカーデルドはまた奇妙なことに巻き込まれる。それが二冊目に記されている。
また、一部ページが破られていたため、解読が不可能であった。
調べてみると カズナリ というのは偉大なる剣士として有名な三崎和成の特徴と一致している。同一人物というのが有力であろう。
ロッシーナについても調べると、あまり記録は残っていないがマーサンギル王国の王直属の魔術師ロッシーナ・デボンという人物が居た。これについても革新的な証拠が無いが同一人物というのが有力であろう。
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僕達は家に帰るとき、一言も話さず歩いた。
とても長く感じた時間だった。
クラスメイト二人が不思議な力を持っていたのだ。
驚きで声も出なかった。
ただ一つ心配だったことがある。
それは、二人の身の安全についてだろう。
知っての通り、この街では魔法や剣を使ったり調べたりすることは禁じられている。
それがいくら子供であろうと、問答無用で牢獄に入れられ、特殊な金属 魔封石を使った手錠で締められる。
最悪の場合は死刑だ。何故そこまでここの住民達が力を怖がるかは分からないが、そこまでする理由があったのだろう。
扉を開ける。向こうは暖かい光で包まれていた。
ただいま。
おかえり。
僕達二人が何かあったのを勘づいたのか、母親は何も言わなかった。
ロナウと僕は自室へ向かう。
しっかりと扉を閉め、椅子に座る。
「カーデルド…。」
「何?」
彼の言いたいことは分かった。
「カッコよかったな。二人共。」
「うん。カッコよかった。」
ロナウは憧れの表情をしていた。
「ヤバかったぜ!!!あのロッシーナの魔法!!俺等守ったり腕ぶっ飛ばしたり!!」
「だよね!!やっぱ魔法っていいなぁ!」
「俺は剣かな!カッケェだろ!ガンガン攻めて敵を斬り殺すんだ!」
その日は母がご飯の支度が出来るまで、ずっと話し散らかした。
え?さっきよ死刑とかの話はなんだ?って?
それはホントだよ。
でもさぁ
男だよ。
こうゆうのはやっぱり憧れてしまうんだ。
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「それで…」
カズナリの机の周りに
僕 ロッシーナ ロナウ キルロン
が集まる。昨日のメンバーだ。
「ねぇ…カズ君。ほんとに言うの?」
ロッシーナが不安な顔で言う。
「言うしか無いだろ。ビッグタイタンを討伐するところを見られてんだし。」
険しいな。カズナリの顔。
いや、いつも険しい顔だけど今日は一段と険しい。
「おう。そうだぜ。俺等は見たんだ。デケェ怪物をブッ殺すのを。」
ロナウは早く教えてほしいという、好奇心の塊の表情をしてる。
「はーやく教えてくれよー!」
キルロンは完全にはやくしろ!って感じだ。
「少し待てよ。」
カズナリはやはり険しい顔
「まあまあ、少し待ってよ。」
ロッシーナは微笑んで言った。
「三年前だ。」
三年前 僕達は13歳。
まだ子供だ。
「あの日、俺とロッシーナは公園で遊んでた。他の友達二人も混ぜてな。」
カズナリが語りだす
「まあそれでも13歳だ。砂場で山を作ったりして遊んでた訳じゃない。していたのは魔法の練習だ。」
魔法は禁じられている。もしかして…
「勘づいてる奴も居るかもしれないが、俺達二人は元々マーサンギル王国に住んでいた。」
マーサンギル王国は世界で最も権力のある王国である。家一つ一つが冒険者用の宿くらい大きいらしい。
が、冒険者用の宿がどのくらいか分からないので凄いのかは分からない。
「外から来たんだ。マーサンギルからこの場所まで。」
「なんでだよ。」
一番最初に疑問をあげたのはロナウだった。
「話の続きだ。」
「魔法の練習をしていたんだ。と言っても簡単なものだ。水を発生させたりする。」
そんなことができるのか、魔法は
「私は得意だよ。魔法はね。」
確かにロッシーナはビッグタイタンを倒したときも魔法を使った。
「そしたら突然、地面が揺れだした。」
「木が倒れ、地面は割れ、周辺の家が崩壊した。」
表情に出さずに語るが、その奥底では辛い想いがあったのだろう。
「そんな状況だと、逃げ出したくなるものだ。ロッシーナと俺以外は逃げ出した。」
なぜ二人は逃げなかったのだろう。
それは恐怖故だったのか。それとも逃げたくない理由でもあったのか。
「俺達二人以外は死んだ。」
「え?」
思わず僕は声を上げてしまった。
「一人は瓦礫に潰された。俺達の中で一番魔法が上手かった。」
「もう一人は殺された。人間に。」
13歳、まだ子供だぞ。
「混乱していた。みんな…」
「仕方が…無かったのよ。あの状況だと。」
ロッシーナは辛そうだ。
「地震を起こしたのは自然ではなく、人間だ。」
カズナリは表情を変える。
「だからみんな手当たり次第に人間を殺し始めた。魔力で分かったんだ。これは人間の仕業だと。」
魔力は人間と魔物では少しではあるが気配等が違うらしい。それで判断したのだと聞いた。
「冷静な者は、みんなを守ろうとした。家族や、友人、恋人を殺され怒り、悲しみ、狂った者は大量に殺した。」
悲惨だ。想像すると頭の痛くなる光景である。人が人を殺す。昔からあったことだ。だが無実の人々を殺すなんて…残酷すぎる。
「今考えるとこの状況をやつは狙っていたのかもしれない。俺達二人は兵士のトゥルンさんに助けてもらった。」
二人はその後、城に連れて行かれたらしい。そしてしばらくは城で過ごすことになった。
その城で任務を課せられた。一年間世話をした恩返しとして、ノールの街の状況を調べてこい。と
それで今に至る訳だ。だけど何故杖と剣を持ち込めたのか、それを聞くことにしよう。
「なんで二人は武器を持ち込めたの?」
二人は顔を合わせる。
「あぁ!まだ言ってなかったっけ?えっとね、収納魔法ってのがあって。それを使って持ち込んだんだよ。」
教えてもらいたいものだ。
「あ!他の人来ちゃったから一回この話おわりね!」
また退屈な授業が始まり、何時間も経った。
そして帰宅時間。
「なあロッシーナにカズナリ。」
ロナウが二人も誘って5人で帰ろう!と言い出した。
「ん?どうしたんだロナウ。」
「一緒に帰らね?もちろんロッシーナも誘って。」
返信は
「あぁ、いいぞ。そのほうが話もしやすいだろ。」
「やった!」
帰り道 僕達はたまたま同じ道を通って帰った…のではなく、ロッシーナとカズナリに合わせて道を変えた。
「ビッグタイタンってのはなんなの?」
気になる。とてつもなく。あの化け物が何なのか。
「あぁ!ビッグタイタンはとても凶暴なんだ。生息地は不明なんだけど、出現しやすいのは古い街とか!足を斬れば簡単に倒せるよ!」
いや聞きたいのはそうゆうのではなく…ヤツの正体?みたいな。
「聞きたいのは多分アイツがどうゆうヤツかって事だろ。な?カーデルド。」
「そう。あ!でもロッシーナさんも教えてくれてありがとうございます!」
「あ…うん。」
しょんぼりした顔だ。
「うーんと。ビッグタイタンは デッドマンズ っていう化け物集団の一種なの。」
デッドマンズ。聞いたこともない。
「まあ簡単に言うと魔物だね。」
「デッドマンズって呼んでるのは5メートル以上の凶暴な魔物だけ。区別するためにそうしてるの。」
「へー!こうゆうのが聞きたかったんですよ!ありがとうございます!ロッシーナさん!」
「ロッシーナでいいよ!もう私達友達だし!キルロンもロナウもだよ!」
あ、カズナリ嫉妬してる。
「ロッシーナ!また外の話き――――
光だ。
謎の光がこっちに来る。
これは―――
ページが破られていて読むことができない。
謎の光事件から一ヶ月経った
おかしい。
こんなのは…
キルロンが死んだ。どうしたらいいのか分からないが、必死に家まで帰ろうとする。
ロッシーナ、カズナリ、ロナウと共に近くの王国へ向かうことにした。
「なあ、ロッシーナ。」
ロナウは掠れた声で言う。
「お前さ、移動魔法っての使えないのか?」
「無理。私の魔力じゃ足りないし、使えたとしても一人だけ。あんな大規模な移動魔法なんて…偉大な魔法使いでも無理よ。」
もう希望はないのか。いや、ある。ロッシーナとロナウの故郷。マーサンギル王国へと向かうための船をここで手に入れれば俺たちは帰ることができる。
「一旦ここの岩陰で休むぞ。水もあるみたいだし、ここで補給しよう。」
一週間くらい、何も食べていない。水だって2日ぶりに飲んだ。
「剣を使えるようになって半月か…。」
ロナウは剣を扱えるようになっていた。
「俺の剣もそろそろ刃こぼれしてきた…くそっ。」
カズナリの剣ももうそろ駄目みたいだ。そりゃそうだ。デッドマンズや魔物に大量に遭遇した。
実を言うと俺も魔法を使えるようになった。これで移動魔法を使えるようになれば…完璧なんだが…
「カズ君。ここ…やばかったかも…。」
ここは魔物の住処だった。カズナリの刃が折れた。
そして、ロナウも足を負傷した。
「回復魔法は魔力消費が激しいから…今の私の身体じゃ…」
ロッシーナは魔力を序盤に使い過ぎた。体力回復もできないのにだ。
「じゃあ俺がやるよ。ロナウ、足を出せ。」
「俺は置いてけ。こんなとこで魔力を消費したら、王国まで持たない。」
なにベタなセリフ言ってるんだ。こんなに短期間に仲間を二人も失えばこっちも不味い。
近距離戦闘がふたりからひとりになるのではだいぶ違う。
ロナウを殺すわけにはいかない。
生き残るためにロナウを“生かす”ことにした。
34日目
ロッシーナから詳しく聞くと、あの光は 転移魔法
というものらしい。
転移魔法とは、移動魔法よりも使うのが困難な魔法である。
移動魔法自体は使える魔法使いはまあまあ居るそうなんだが、距離の問題だ。
俺が使われた トラス・フェリメント は距離1km以内のどこへでも移動できるらしい。
そんだけの距離移動できれば対して困らない。
普通ならな。
今の俺等は迷子の子猫みたいなもんだが、一応冒険をしている。
まあ冒険者の類だ。
冒険者にはあまりこの魔法は好まれない。何故かというと、魔力消費が激しいからだ。
冒険者は剣士と魔法使いさえいればいい!みたいな感じなので、その魔法使いが魔力を消費しすぎると剣士が一人や二人で戦う。剣士の体力が減る。
だがその剣士の体力を回復させるためには回復魔法がいる。
魔力が減る。
剣士がまた戦う。
体力が減る
回復。
魔力が減る。
ループだ。いつかは魔力が尽き、剣士も死に、魔法使いも倒れる。
だが移動魔法でこれだ。あれ程の大規模な転移魔法になると命を引き換えにしても撃つことができない。
どうやったのか?
そんな疑問を考える暇も無く
ロナウが死んだ。
突然の出来事だった。
殺されたのだ。人に。
俺達は近くの王国まで着いた。
その時に銃で撃たれて死んだ。
魔物だと思われたらしい。
身なりは確かに魔物のように汚かったし、よろよろ歩いていたけど…それでも…撃つことは無かったんじゃないか。
35日目
ロナウを殺した国とはいえ、久しぶりの安全な場所だ。
王国からは金も貰えたし。新しい剣も、杖も、魔法書も貰えた。
そして、王国からは船が贈呈された。航海士付きだ。
ロナウが死んでしまったとはいえ、これでもう大丈夫だ。
やっとキルロンとロナウを墓に埋めることができる。
故郷には戻らない。
いや戻れない。
「なぁ…」
カズナリは疲れた声で問いかける。
「なに…?カズ君。」
ロッシーナも疲れてるみたいだ。
「ん…?」
同じく俺も返答する。
「もう、疲れたよ。」
「今日は…もう寝よう。明日に備えて、ロッシーナもカズナリも…」
二人は小さく頷いた。
夜中に目が覚める。
もう外は暗い。空は星々が綺麗だ。
「二人にも…見せたかったな。」
不意に声が溢れる。
自分はこの旅の中で、何が起ころうと冷静にいようと思った。
でも無理だった。
ロナウは血は繋がっていないけど兄弟だ。
母も心配だ。転移に巻き込まれていないだろうか。
キルロンは親友だ。たまに頼りないけど、カッコよくて自慢の親友。
こんな時に頭に浮かぶのは、猫女だ。
あの猫を助けて!と言ってきた彼女、今はどうしているだろう。転移に巻き込まれたのか。
「なんでこんな時に…」
一目惚れというやつだったのかもしれない。
名前も知らない彼女、どうやって国に入ったのかは分からないけど自分と同じ茶髪の彼女。
あぁ…帰りたい。
――――――
2巻 終了