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9食目、杏仁豆腐

 中華料理にはデザート呼べる項目ジャンルはないけど、けして甘味がない訳ではない。

 ただ、他の料理と比べると圧倒的に種類が少ないからか?デザートじゃなく他の項目ジャンルに統一されてしまっただけのこと。

 その一つが━━━━


「杏仁豆腐3入りました」

「さっさと作ります」


 中華料理屋で甘味だけを注文されるのは珍しい。だが、ここは異世界だ。元々悠真がいた日本の常識は、ほぼ通用しない。

 豆腐と名が付いてるが、杏仁豆腐は豆腐でない。もしも、豆腐の一種であったなら甘味やデザートとは呼ばないだろう。

 その色合いと形から豆腐と名が付いてるに過ぎない。ただし、一度口に含めば、その仄かな甘味が広がり、砂糖が高いこの世界では自然と口角が上がり笑顔となっていく。

 日本で言うところの餡蜜に近い甘味だろうか。


 甘味に関してもフェイフェイが担当している。でもまぁ、甘味は注文を受けてから作るとなると予想以上に時間と労力が消費する。

 だから、仕込み時に8割程度作り置きしておき、注文を受けたら果物をカットと盛り付けだけで提供出来るようにしている。


 フェイフェイが冷蔵庫から取り出したのは、60cm×60cmはある四角い容器で白い物体が入っている。これが杏仁豆腐、これを適度な大きさに切り盛り付けする。

 中には立方体に切って提供する店もあるが、ウチでは、菱形に切って提供する決まりだ。


 この杏仁豆腐の作り方は、牛乳1Lの内適量で寒天を11gを入れて寒天をふやかす。

 牛乳500mLに杏仁を入れるのだが、杏仁にも種類があり苦味がある北杏と甘味がある南杏をフェイフェイの黄金比率で配合したものを入れ、ミキサーに掛ける。少し杏仁が粗めになる程度で良い。

 残りの牛乳と混ぜ合わせ、火に掛け杏仁の成分を抽出する。この時に沸騰しないギリギリの90℃までにしとくのがポイントだ。

 冷めたら濾過用のガーゼで力を込めて濾過をし、杏仁の成分を抽出する。ここは力仕事なので、ガウンにも手伝って貰う。

 この液体に牛乳でふやかした寒天と混ぜ合わせ、冷蔵庫で3時間程固める。


 こうして固めた杏仁豆腐を菱形に切り分け、ガラスの容器に盛り付けし、シロップとフルーツも一緒に盛り付けたら出来上がりだ。

 シロップは、甘酸っぱいあんずジャムに砂糖水でのばしたものだ。

 あんずジャムは、フェイフェイの手作りで砂糖とレモンの配合もバッチリと味見した俺が頬を緩ます位に美味しい。食パンがあったら塗って食べたい。

 盛り付けするフルーツに関しては、皮をキレイに剥いたミカンを数個に真ん中にサクランボを、ちょこんと乗せる。


「杏仁豆腐3出来上がりました」


 トレーに杏仁豆腐を3皿乗せ、スンメイが運ぶ。注文したお客様は、スンメイよりも2~3歳程に年下な人間の子供二人に獣人の子供一人といった変わった組み合わせであった。

 衣服は、三人とも麻で編まれており、ずいぶん洗濯してないからか、薄汚れ裕福とは思えない様相だ。


「お待たせ致しました。杏仁豆腐三人前です」

「きたきた」

「……………これが、あんにんどうふ」

「あまいのかな?」


 三人ともガラスの容器の中を凝視し、噂で杏仁豆腐を甘い食べ物だと又聞きで知り、どうしても食べたくなった。

 お金は、もちろん持っている。給料は高くないが、ギリギリその日暮らしはしていける程度、働いて稼いでいる。

 この世界では、歩いて言葉が話せる程度になったら子供でも大抵貴族や大商人の子供ではない限り、みんな少なからず働いている。

 だから、この日のために節約し、杏仁豆腐が買える程まで貯まり今日食べに来ている。


「…………パク」

「アキ、美味しい?」

「ねぇ、美味しいの?」


 最初に手を出したのは、アキと呼ばれた獣人の子供だ。スプーンで一口食べた瞬間、杏の酸っぱさと砂糖の甘さが程よく混ざり合い、口の中でツルンと吸い込まれるようないつの間にか失くなってしまう。


「……………コクン」


 無言で頷くアキは、再びスプーンで口に運び始める。本当に美味しい物を食べると無言になってしまうものだ。


「レナ、アタシ達も食べよう」

「アナそうだね」


 人間の子供は、どうやら双子のようで食べる仕草や表情が、ぴったりとシンクロしている。


「ほわっ、酸っぱいのに甘い!」

「ふわっ、甘いのに酸っぱい?」


 獣人の子供に続けて双子も一口二口とスプーンが止まらない。仄かにアーモンド臭がするが、これがまたアクセントになっており、日々の仕事の疲れが吹き飛ぶように三人とも感じている。

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