8食目、回鍋肉
麻婆豆腐を作り終えたガウンは、回鍋肉を作り始める。麻婆豆腐で使用した中華鍋は、最新鋭の食器洗浄機に他の各皿と一緒に入れ洗う。
業務用なので家庭用より数倍入る。それにどういう仕組みなのか不明だが、洗剤と前に作った料理の匂いがキレイさっぱりと消えている。
因みに魔道具に分類されるらしい。電気ではなく、魔力で動いてるからだとか。
こちらの世界では、日常的に電気を使う等の発想がない。そもそも照明は火を使うランタンか【光玉】という魔道具があるらしい。
ウチの店では、ランタンを数個使っている。【光玉】よりは光度は低いが、何処か趣があり俺は好きだ。
こちらの世界にいる限り、魔道具の話なんていくらでもする機会はあるだろう。
そこで話を戻すと回鍋肉は日本風と中国風があるのはご存知だろうか?本格的な中国風の回鍋肉だと野菜よりも肉を食べさせるのに対して日本風の回鍋肉だと、ただ単に豚肉を使った野菜炒めになる。
味付けも中国風だと辛味が強調され、日本風だと日本人に合わせるため甘めに味付けされている。
俺の店では中国風を採用している。この店でしか味わえない方を選ぶとしたら、やはり中国風だろう。日本風は家庭でも簡単に作れる。
まず回鍋肉といえば、豚肉が欠かせない。一般的に日本で食べる回鍋肉は豚肉だけではなく、野菜も細切りにしてるモノが多い。
だけど、本場の回鍋肉は豚肉が大きく野菜炒めじゃなく肉料理だと食べた瞬間そう感じる。
だから、豚肉はバラ肉の塊を用意する。下処理として一時間程、豚バラ肉の塊を、ぶつ切りにしたネギと生姜と一緒に茹でていく。
ここからもう日本風と違うところだ。ただし、ここは大衆料理店という事で、一部の料理を除いて提供するまでの時間は掛けられない。
だから、予め茹でてある豚バラ肉を薄く5~6枚スライスする。
「キャベツとピーマンを一口大、ニンニクを薄切りにするぞ」
キャベツ1/3玉、ピーマン3個、ニンニク1粒をそれぞれ切っていく。
大きな手には似合わずにガウンの包丁捌きは、悠真の背中を追い付ける程まで上達している。
だけど、悠真も料理長の肩書きを背負うからには簡単には抜かせられない。
「キャベツ、ピーマンを軽く焼く」
キャベツとピーマンを少ししんなりするまで油炒めをし、皿の上に取り出しておく。
中華鍋にゴマ油を引き、薄く切った豚バラ肉を一枚ずつ敷き詰めるように底に並べ強火で焼く。
「肉が巻き上がって来たね。油も出て来たよ」
そんなところにネギ、ニンニクを入れ炒める。
肉から出た油の中に豆板醤、甜麺醤、 醤油、砂糖、胡椒、豆豉を入れ、強火で炒め続ける。
そして、最後にはキャベツとピーマンを戻し入れ、全体を混ぜるように炒め、味の調整として砂糖と醤油を味を確かめながら調整する。
ベテランの料理人になってくると、その日の気温や湿度、作物の出来具合により調味料の計量を微量に変えるものだ。
「はいよ、回鍋肉の出来上がりね」
野菜を豚バラ肉の下に盛り付け、如何にも肉が主役という風な盛り付けだ。
料理といえば、やはり味が一番だが見た目も大事だ。そもそも見た目が汚いなら食いたく失くなるだろう。先ずは食べさせないと、味も分からない。
「Cセットの半チャンと餃子用意出来た」
フェイフェイの餃子と先程まで回鍋肉を作っていたのにほんの数秒でガウンは炒飯を作り上げた。
トレーに回鍋肉Cセットが乗り、カナリアがちょうど厨房の前を通り掛かりトレーを持って行く。
「お待たせ致しました。回鍋肉のCセットでこざいます。全部お揃いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では、こちらにお伝票を置いときます」
野菜を隠すように堂々と配置されてる肉を見て、虎人族の女性は肉を一口パクっと口へ運んだ。
猫舌である彼女は、辛さ1でも少し辛く感じる。が、それでも後から来る旨味により箸を持つ手が自然と回鍋肉へと進む。
「ママ美味しいね」
「そうね、美味しくて頬っぺたが落ちちゃうわ」
先に麻婆豆腐を食べていた娘の頭を撫で、自分の回鍋肉を食べ進める。
この親子は、およそ5km程離れた村で種族総出で農家をやっているらしい。
そこだけではないが、定期的に仕入れている。そして、納品する際に食べていき村の者達にも餃子をお土産として買って行くのが通例となっている。
「お待たせ致しました。これがテイクアウトの餃子となります。餃子のタレも付けてあります」
「ありがとうございます」
母親が受け取り、椅子の側へ置いた。娘は、麻婆豆腐に夢中で餃子が来た事には気が付いてない。
母親も娘に負け時と回鍋肉を口一杯に放り込む。でも、苦手な辛さが来るが後から来る旨味とセットで付いてる炒飯により辛さがマイルドとなっていた。