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6食目、ラーメン丼ぶり

「このラーメンという料理に出会って儂は衝撃であった。まるで儂の作品のイメージと合致したのだからな」


 ☆★☆★☆★


 まだラーメン各種を底が深い皿に盛り付けて提供していた頃にジャンクと出会った。

 あれは凡そ3年前の今頃、そこそこ雨が降ってる昼頃に「悠」のガラス戸を開けて入店したのがジャンクであった。

 雨に打たれたのか?びしょ濡れであり親切心からタオルをジャンクに貸した。

 宿屋ではないが、お風呂でもどうかと勧めたが流石に悪いとジャックは断った。

 その代わりに何か体を温める物をと注文を受け、その時に作ったのが醤油ラーメンだ。

 ジャックは醤油ラーメンを一口食べた瞬間、我を忘れ年配とは思えない程の勢いですすり、ものの数分でスープまでも飲み干し完食した。


「ふぅ、そこの女衆さん。店主に話があるのでな、呼んでくれぬか」

「はい、ただいま」


 カパネラが悠真を厨房へ呼びに行く。たまに美味だと店長兼料理長である悠真に直接言いたくて呼ぶお客様がいる。

 その中にはビジネスに繋がる話が舞い込む事がある。今回は正にそれだ。


「お待たせ致しました。料理長であります悠真と申します」

「料理長?儂は、店長と言ったはずだが?」

「あぁ、店長も兼任しております」

「何と!」


 普通は店長と料理長を兼任なんてしない。料理を作りながら経営管理なんて余程小さな店じゃないと常識的に出来やしない。

 せめて家族経営じゃないかとジャックは考えたが、種族はバラバラで家族じゃない事は一目で分かる。


「ゴホン、失礼した。悠真殿と言ったな」

「はい、悠真です」

「悠真殿に頼みがある。これを見てくれないか?」


 ジャックは手提げカバンから逆円錐形に近い底が深い皿を取り出しテーブルに置いた。

 悠真がそれを見た途端、驚きの余り目を真ん丸になる。何でこんな物があるのか頭が追い付かない。

 なにせ悠真の目の前にあるのは、正しくラーメンどんぶり鉢そのものであったのだから。

 そもそもこの世界では、食器というと木の皿か陶器しかなかった。磁器なんて時間が空く時に探し回ったが見つからず、諦め掛けていた。

 リオウ様によると料理器具は希望通りに揃えられたが、食器の内━━━磁器だけがどうしても入手出来なかった。

 それが今目の前にあるのだ。驚かないというのは無理だ。やはりラーメンは、このラーメン丼に限る。

 それに加え、ラーメン丼のふちには雷門と呼ばれる模様も書かれている。


「これは磁器ですね。これを何処で?」

「ふむ、知っておったか。なーに、儂が作ったのじゃよ」

「えっ?作った!これを!」


 まさか目の前のお客様がお作りになられたとは思わずに甲高い声を出してしまった。

 今は雨で客入りは少なく誰にも聞こえてない様子だ。


「このラーメンとやらにピッタリと思ってのぉ。どうじゃ、買ってくれぬか?数はそこそこ用意出来る」

「分かりました。それでご相談があるのですが」


 ラーメン丼の他に磁器は作れるのか?それと定期的に卸してくれるのか?を聞いてみた。


「どんな物をご所望で?」


 悠真は丁寧に説明した。

 餃子に合うようアメフトのボールみたいな楕円形の平皿と大人数用の大皿、ご飯用の茶碗を大~小、調味料を注ぐ小皿等を事細かに注文を付けた。


「ふむ成る程成る程、これは面白い仕事になりそうだ。儂が作った磁器に、ここまで食い付いたのはソナタが初めてだ」


 陶器だとどうしても厚くなり重くなる。ラーメンは、スープまで入れると相当な重量感を覚える。

 それに陶器だとラーメンのスープでシミが出来安く落ち難い。磁器だと、それがない。


「よし、その仕事引き受けよう。そうじゃな、お代は出来上がったもんを見せてからで構わん。これから一週間後でどうじゃろうか?」

「そ、そんなに早く!はい、お願いします」


 魔法はあるが、科学がない世界でそんなに早く大量生産が出来るとは思わず、甲高い声を出してしまった。

 まるで小学生が遠足を楽しみにするように一週間後が楽しみでしょうがない。


「うむ、こんな楽しい仕事滅多にありつけんのでな。楽しみに待っておるが良いぞ。わっはははは」

「こちらはサービスです」

「ふむ、これがギョウザとやらか」


 一口目はそのまま、二口目は醤油に浸して口に運んだ。自然と笑みが零れ、飲み込んだら次へ箸が餃子を掴んでいる。


「むぅ、もう失くなってしもぅた」

「お口直しにこちらを。こちらもサービスです」

「これはスープかい?」


 汁を啜った直後、驚きの表情で固まった。これはスープではない。冷たいし、それに甘い。

 白い菱形の何かは箸で挟むと固く思えるが、口に含むと固過ぎずに蕩けるようだ。

 それに黄色い物は、果物か?粒々としており、弾けるようで面白い。


「あぁ、甘い物は何年……………いや、何十年と口にしてなかった。まるで体の芯まで染み渡るようだな」


 ガタっ、ジャンクは立ち上がり帰る支度を始めた。


「金はここに置いとくよ。ごっちそうさん。さぁ、創作意欲が消えぬ内に取り掛かれねば」

「ありがとうございました」


 これが長年の付き合いになるとは悠真とジャンクも思いもしなかった。



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