49食目、油淋鶏
私はセシリー、商業ギルド古都支店で受付嬢兼不動産管理で働いている。最近、出世して給料がウハウハになって余裕が出てきたので、ここ最近気になっていた飲食店の前まで来ている。
それにしても、あれは運命だった。
私が、たまたま店舗にする物件を案内した錬金術が、まだ半年も経っていないと言うのに、この国では知らない者なぞいない程に一躍有名な錬金術の店兼料理屋として繁盛している。
最初はCランク程度の店舗経営から始まったカイトという名の商業ギルドに登録した謎の美少年。その錬金術師の活躍のお陰で出世出来た。
正確に言うと、カイト様の専属受付嬢となった訳である。カイト様が作る魔道具とポーション類は、どれも高品質で、その中にはプレミアが付く物も屡々見受けられ定価よりも数倍の値で取り引きされる事もある。
今では商業ギルドでBランクだが、後にAランクの打診があるのではと噂がある。普通は半年でなれるようなものではない。他のギルドにも登録してるようで目が離せない。
金さえあれば、誰でもCランクから始められるが、Bランクからは信用も大事となってくる。だから、商業ギルドでもルーキーとして注目の的となっている。
「ここがカイトさんが行き付けのお店ですか」
そんな彼から行き付けの店を聞き、今そのお店の前にいる。中から良い匂いが外まで漂って来て、それだけでお腹を刺激され可愛く腹の虫が、グゥーと鳴る。
「噂に聞いてたお店と同じです。カイトさんの尊属受付嬢の地位を獲得したお陰で、ウフフフフ…………つい、笑みが零れてしまいます。早速入りましょうか」
チリンチリン
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
「えぇ、1人です」
つい、同じ女のはずなのにウェイトレスの服装に目がいってしまう。職業柄、目に映る物が売れるかどうか考えてしまう。
あの衣服を売り出せば、貴族のご令嬢に人気が出ると商業ギルドの職員としての直感がビンビンと反応している。
「こちらになります。お冷でございます。こちらがメニューとなります」
噂で聞いていたが、本当に無料で水が出てきた。透明なガラスのコップに氷が入っており、それに冷たい。このコップも売れそうである。
「あの失礼ですが、ここの従業員が着てる衣服は何処で手に入るのでしょうか?」
他国から入ってくる民芸品や民族衣装は全て商業ギルドにて関税を掛け流通量を管理している。
それだけではない、飲食品から調味料まで様々な物を管理しており、商業ギルドが知らぬ訳がない。
もしも、知らぬ商品があったなら、それは裏にて取引されたか、同国の生産職が作製した作品に限る。
「これですか?チャイナドレスと言いまして、カイト様がお作りになられたと聞いております」
「えっ!」
カイト様って、あのカイト様!自分が専属受付嬢となっているカイト様!世間は狭いというより狭すぎる。
「こちらのコップもカイト様の作品らしいです」
素晴らしい。なんと言う運命何だろうか。あぁ神様女神様が見ててくれたのだろうか?感激で涙が止まらない。
「それでご注文はお決まりですか?」
「そうでした。えーと、この油淋鶏をお願いしますわ」
目の片隅に止まったお肉らしき料理にした。この数年間、まともなお肉を食べていなかったので、実に楽しみだ。
食べたとしても硬い筋張った肉で、柔らかい美味しい肉は高級料理店か貴族へ流れて行ってしまう。
~厨房内~
「油淋鶏入りました」
「オデ作る」
油淋鶏は唐揚げの一種で、唐揚げは日本発祥と思っている人々もいるであろうが中華でもある。日本の唐揚げは衣を付けるが、中華の唐揚げは素揚げに近い。
揚げ物は、ガウンが担当してる。
先ず、骨付きの鳥モモ肉を皮を下にして骨に沿って切れ込みを入れる。そして、焼き縮みを防ぐため関節を切り離す。
ここで働く前のガウンは冒険者という職業に就いていたらしい。その生業から解体はお手の物で楽々関節を正確に切り離せられた。
切り込み内部に調味料を摺り込み、下味を付ける。生姜の絞り汁、普通なら絞り器で絞るところをガウンの腕力で、絞り器で絞るよりも汁が排出された。
酒大さじ1、砂糖小さじ1、塩小さじ1/2を摺り込み、パッドの上に乗せラップを掛け冷蔵庫で1時間程寝かせるところを、カイトが発明した時計型の魔道具【時短機】で1時間を1分にする。




