48食目、三不粘その2
三不粘とは中華の中で、幻のデザートと呼ばれる逸品だ。それもそのはず、中国の中で作られてるのは1店舗しかないからだ。
材料はシンプルだが、作り方が手間暇掛かる上、技術がいる。それ故に作れる人も限られてくるため幻となっている。
材料は、卵黄・でんぷん(緑豆)・水・ピーナッツオイルのみ。
点心担当のフェイフェイが作る。
先ずは、水と緑豆で作ったでんぷんを混ぜる。使用するでんぷんによって味が左右する。良く使われるのが、緑豆だ。本場の中国でも緑豆が一般的。
水とでんぷんを混ぜた液体に卵黄を入れ混ぜたら生地の出来上がり。これを中華鍋に入れ、ピーナッツオイルを加えながら、お玉の底で叩きながら練っていくのだが、これが何気に重労働だ。
「ここからが大変」
フェイフェイは、中華鍋を扱う程の筋力や体力がない代わりに魔力を見えない手の様に扱い調理をする。
中華鍋にピーナッツオイルを馴染ませ、黄金色の生地を投入、固くなり過ぎないようにお玉の底で叩く様に練っていく。
普通は片手に中華鍋とお玉を持ってるので、お玉1つしかた叩けない。だが、魔力で操作すれば体力を消耗せずに複数操れる。
中華鍋を揺らしながら、お玉2つでペシペシと叩きながら適度にピーナッツオイルを加え、またペシペシと叩いていく。
これの繰り返しだが、火加減やピーナッツオイルを加える量だったり叩く回数を見極めるのは至難の業。
手間が掛かるのは当然だが、箸や皿にくっつかないでいて、トロッとした柔らかさを実現させるのは最早職人の域である。
だが、ここは異世界であり魔法が現実にある事を忘れてはいけない。
魔法のプロフェッショナルなフェイフェイなら難無く再現出来るはずだ。本来ならば。
「……………ゴクン」
腕を動かしてないのに額の汗が次から次へと溢れてくる。魔力のみで物を操作するのは地味に見えるが、意外にと集中力と緻密な魔力操作を要する。
動かす物が増える程に難易度は増加し、魔導師見習いがやると頭がオーバーヒートを起こし気絶する。
なので、1日2個までが限界。
「ハァハァ、出来上がり」
カスタードクリームよりも柔らかいながらも箸で掴めくっつかない。皿を傾けると、宙に浮いてるように滑る。
「ゲホゲホ」
「フェイフェイ大丈夫か?」
「だ、大丈夫。魔力を結構使ったから」
「ほら、マナポーションだ」
ゴクゴク……………プハァ
「美味しい」
今までポーションが美味しいという事はあっただろうか?いや、無かったはずだ。
それなのに、フルーツの味がする。これは…………ブドウの味だ。
「最近、冒険ギルドで売り始めたらしい」
これを作った薬師は天才か!今までのポーションは、薬草をそのまま煮詰めたような味でゲロマズだった。なので、いくら回復しようとも不人気商品であった。
「それを作ったのは、カイトだ」
カイトというと、店長の知り合いという錬金術師の常連だ。ここで使ってる香辛料や料理道具等は、その人から仕入れてるらしい。
「まぁ、そのカイトさんという方は天才です」
「味が付いてからものの人気が出て生産が追い付いてないようだと嘆いていたよ。嬉しい悲鳴というやつだね」
ポーションに味を付けるなんて誰が思い付くというのだ。回復量を増やすならまだしも、それ以外に目をつけるなんて、どんな頭をしてるのだろう?
「これは俺が運んで置くから、フェイフェイは少し休んで置くと良い。厨房は少しガウンに任せる。ガウン良いな?」
「オデ分かった。任せると良い」
ガウンは焼き物が1番得意というだけで、他の中華が作れない訳じゃない。誰かがトラブって動けない時には作れるように教え込んだ。
「お待たせ致しました。三不粘でございます。妖精様のスプーンもご用意致しました」
ゴトン置くと、皿の上を滑るように揺れる。まるで皿との間に空間が隔ててるかのようだ。
妖精用のスプーンは、一円玉の長径しかない。力加減を間違えれば折ってしまいそうだ。
「これが…………美しい。まるで宝石のようだ」
『美しい美しい』
『早く食べる食べる』
『キャはハハ』
卵料理は得意ではないが、卵独特の嫌な匂いがしない。それよりも豆のような良い匂いがする。
「さて、頂こう」
『食べる食べる』
『凄い伸びる伸びる』
『フワフワトロトロ』
口に入れた瞬間驚愕した。あんなに伸びたのだから、歯にくっつくものだと思い込んでいたが、何の抵抗もなく、スゥゥゥっとノドの奥へと吸い込まれていった。
飲み込む必要がない。これは正に飲み物と何ら変わらない。
「これが本当の卵の味か」
『美味しい美味しい』
『パクパク』
『これ好き好き』
今まで卵の嫌な匂いが目立ち味は楽しめなかったが、これなら十二分に味が分かる。これ程までに美味しかったのだな。




