47食目、三不粘
『『『『キャキャキャ、クスクスクス』』』』
「私の可愛い可愛い子供たち、店に着いたよ」
『着いた着いた』
『黄昏さまが言ってたお店』
『着いた着いた』
『やっと着いた』
悠真のお店である中華大衆食堂「悠」の看板を見上げるのは、見目麗しい顔立ちに気品溢れるオーラを纏い堂々たるただずまいであるこの男は、この世界で御伽噺にて1回は誰でも聞いた事のあるその名は『精霊王オベイロン』その人である。
そして、精霊王オベイロンの周囲を飛んで回る光の玉は妖精であり、精霊王オベイロンが統べる世界樹であるユグドラシルに住む住人である。
「さぁ入るよ」
チリーンチリーン
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
「うーん、ワタシは1人だけど妖精はどうなるんだい?」
「妖精様もお客様ですので…………5名様ですね。席へご案内致します」
動物のように『匹』で数えてたら怒ってやろうかと考えていたが杞憂に終わったようだ。
「黄昏様に貰ったお金で食おうか」
妖精や精霊は普段、世界樹ユグドラシルから出ないため種族間でやりとりされている貨幣を使う機会がない。
だが、たまに世界樹ユグドラシル周辺の素材を売る対価としてお金でやりとりしてるため、溜まりに溜まって今や知る人ぞ知る大金庫と化している。
「こちらへどうぞ」
通らせた席は、妖精達が十二分に寛げるよう広いテーブルだ。
ゴトン
「お冷でございます」
「小さいグラスもあるのか」
「はい、いろんな方がいらっしゃいますので……………こちら、メニューになります。お決まりになりましたら、お呼び下さい」
相変わらず妖精達は、席というよりテーブルの上に来てもキャキャっと戯れているがオベイロンは驚きを隠せないでいる。
グラスが見事にガラスで精巧に作られているのにも心底驚いてるが、まさか妖精達の体型に合わせたグラスを用意してくれるとは驚きと共に嬉しさが溢れて来る。
「ふふっ、黄昏様がオススメするだけは…………あるか」
『キャキャ、オベイロン様が笑ってる』
『笑ってる』
「私の可愛い可愛い子供たち頼もうか?」
『頼む頼む』
『何がいいかな?良いかな?』
オベイロンがメニューを開くと、1番目を引いたのはデザートの項目。
世界樹ユグドラシルでの甘味といえば、周辺に生える花の蜜でしかない。それでもアークグラウンドでは、結構な糖度を持つ甘味といえよう。
その証拠に貴族の間で高級品として扱われている。だが、普段から食してるオベイロンや妖精達は内心飽きてきている。
だから、別の甘味が目の前にあったなら目が離せなくなるのは自然なことだ。
《オベイロン様、これが良い》
《これが良い》
《これが食べちゃい》
《何かトキメクの》
他にも色んなデザートがあるというのに妖精達が一斉に同じメニューに指を差した。
ゴクン
「それにしようか」
妖精達が選んだメニューを見るや自分でも良く分からないがノドが鳴った。
妖精達が選んだものだ。妖精の直感はバカに出来ない。何故なら、未来視染みた効果があったり無かったりと曖昧だが、当たる時はめちゃくちゃ当たるのだ。
「これを押すのだったな」
《ボクが押す》
《ワタシが押すのぉ》
《押すぅ》
「こら、ケンカするでない」
オベイロンがケンカする妖精達を制止させ、一緒に押せば良いのではと説得した。ここでケンカすれば、ここら一帯焼け野原になる。
ポチっ…………ピンポーン
「はーい、ただいまぁ」
テチテチとやってきたのは可愛いらしい犬獣族の女の子だ。
「ご注文をお伺いしますぅ」
「これを頼む」
オベイロンがメニューの写真を指す。
「三不粘ですね?」
「あぁ」
「かしこまりましたぁ」
尻尾を振って去って行く。つい目で追ってしまう。世界樹ユグドラシルの外には関心を持たないオベイロンだが、これを俗に言う黄昏様が言ってた癒しと言うのだろうか?
《オベイロン様、笑ってる?》
《笑ってる》
《笑ってるぅ》
「おや?ワタシは笑っていたのか?」
妖精達に指摘されるまで気付かなかった。黄昏様が推奨するだけはある素敵なお店ということだろうか。




