44食目、坦々麺辛さ星MAXその3
ゴクゴク、プハァ
あまりの予想以上の辛さに堪らず、グラス満杯の紀州芽台酒を流し込んだ。
「ハァハァ、何ちゅーものを頼んでしもうたんだ」
どうしようかと頭を抱え思案してると、時間差で口の中に言葉で言い表せないような複雑な旨味が広がって来たのだ。
一瞬、紀州芽台酒の味やと過ぎったが、フルーティな味わいとは程遠い。
「もう1口食べてみるか」
パクっ…………モグモグ
「辛っ…………だけど、美味い!辛さの後から来る、この何とも言えぬ旨み。混ぜろと言われた意味が分かった。麺の下に隠れてるタレと辛い肉が混ざると良い具合に調和され、クセになる程に手が止まらなくなる」
ズズゥゥゥゥ
「ここにゴクンと火酒にも負けぬ酒精を飲めば……………ぷはぁ、やはり合う。もし火酒なら、この料理には合わぬかもなぁ」
火酒は、あの強い焼けるような酒精を単品で楽しむもの。ロックでした勝たん。水割りや他の飲み物で割る事は素人がやる事。玄人ならロックだ。
だが、この紀州芽台酒とやらと言う酒精は、火酒と同じでロックなのは変わらない。他の飲み物で割ったら、このフルーティな香りが台無しになってしまう。
だけど、違うのは坦々麺に合うという事だ。坦々麺を啜った後、ゴクンと飲むと口角が上がる程にこの2つは絶妙に合う。
「あっ、無くなってしもうた」
土精族は、本来なら火酒があれば食べる事は二の次になりがちだが、ここに来てシャルルは考えが変わった。
「おい、同じものを頼む」
「はい、ただいまぁ」
ここなら……………この店なら他にも美味しい激辛料理に酒精があるかもしれない。
土精族は、鉱石の武器・防具造りから始まり様々な物作りを得意とする種族。その結果、仕事が趣味となる者も少なくない。
シャルルもその1人だが、今日から新たな趣味が加わった。時間が許される限り、ここに来ようと心の奥底から誓った。
「お待たせしました」
ゴトンと注文した料理が届いた。2杯目になると、躊躇した真っ赤な麺は心地好い色に見えてくる。
「待ってたぞ」
ズズズゥゥゥゥ
「うほぉっ、これこれ。この辛さが堪らん。ここにグビッとやれば最高じゃ」
当分は坦々麺の辛さ星MAXと紀州芽台酒のトリコになったシャルル。この店に来る時は、けして薬師ギルドマスターであるフリュールには見つからないようにお忍びで来ると誓ったのである。




