43食目、坦々麺辛さ星MAXその2
ご注文を取ったお客様が怖かったのか?スンメイが涙を浮かべながら厨房へ来た。
「ヒークッ。た、坦々麺星MAXと貴州芽台酒を頂きました」
地球より外見がファンタジーな種族が多く住んでるアークグラウンドでは、強面な客が来る事は良くある事だ。
「はいよ」
麺類は悠真の担当だが、坦々麺に乗せる肉味噌はガウンが作る。
坦々麺は2種類ある。汁の有りと無しだ。汁無しの方が辛く、坦々麺の原型と言えば汁無しを指す。
坦々麺の名前の由来は、その売り方にあった。天秤棒で担いで売り歩いていた事から坦々麺となった説が有効だ。
「先ずは肉味噌作りダ」
中華鍋に豚ひき肉を入れ、適度な焼き色が付くまで炒め、甜麺醤、しょうゆ、砂糖、酒を加えて更に炒める。
次にフェイフェイに調合してもらった坦々麺用のミックススパイスを入れ入念にかき混ぜ、最後に各種唐辛子を刻み注文されたレベルまで入れる。
辛さ星MAXまで入れたため挽き肉が真っ赤に燃えるようなレベルで、見ただけで辛いと分かる程の色合いを醸し出している。
「うっ…………目が………痛い…………ゴホッゲボっ」
大量の唐辛子から出る辛味成分が空気中を舞い、ガウンの瞳を刺激し涙目になり、思わず咳き込んでしまう。
「ガウン大丈夫か?ほら、ゴーグルとマスクを持ってきたから着けろ」
「ユウマ助かる」
辛さの頂点である星MAXを作るには、やはり瞳を保護するゴーグルとノドを守るマスクが必要不可欠。
辛味という概念が無かったアークグラウンドに辛い料理を出した店として有名なため最早、メニューから辛さを調節出来るシステムは外せなくなっており、その中の星MAXはある意味、店の隠れた名物となっている事は、悠真を含め店員全員知らない事実である。
「もうそろそろ肉味噌は出来るな。俺は麺を茹で始めるか」
中華程に、こんな多彩な麺料理を持つ料理体系はないだろう。中華大衆食堂「悠」での坦々麺に使うのは中太麺だ。
ラーメンよりも太い麺に肉味噌とタレが良く絡み合い辛味の奥底にある旨味が味わえる。
「…………よし、ここだ」
その日によって湿度や温度が違う。
だから、微妙に冠水の量を変えてみたり、茹で時間を長くしたり短くしたりと、毎日変えている。それに太麺だから余計にだ。
タレは、ボールに白ゴマ・水・醤油・酢・砂糖・ごま油・苦椒醤を入れ混ぜて置き、皿の底に入れる。
そこに茹でた麺を円を描くように盛り、その上からガウンが作った肉味噌(星MAX)を麺の中央に盛り付けて完成だ。
「お、お待たせ致しました。貴州芽台酒と坦々麺辛さ星MAXとなります」
「おぉ来たか」
レンメイが、お盆に貴州芽台酒の瓶とグラスに真っ赤な坦々麺を運んで来てテーブルに並べた。
「こちらのお酒は、酒精が高いので一気に飲む事はオススメしませんが、ストレートで飲む事を推奨しております」
「余計なお世話じゃ。土精族は、酒精に愛された種族。火酒を飲めるオレらに飲めない酒なぞないわ」
アークグラウンド全国にて最も度数が高い酒とされるのが火酒だ。それを唯一飲める種族土精族という訳だ。
「し、失礼致しました。こちらの坦々麺は混ぜてお召し上がりくださいませ。では、ごゆっくり」
「これは…………随分と辛そうじゃ」
頼んでなんだが、辛い料理に慣れていてもこれは躊躇してしまう程に真っ赤だ。
「先ずは、酒精と行くか」
トプトプと酒瓶からグラスに注ぐと、水みたいに透き通っており本当に酒なのかと疑いたくなる程の透明度だ。
「これが…………酒精じゃと?」
ゴクン
1口飲んだ瞬間、身体全体に衝撃が走った。火酒とは違うインパクトのある度数とフルーティな喉越しに思わず、口角が上がって微笑みを隠せられないでいる。
「これが紀州芽台酒とやらか。かぁぁぁぁぁ効くのぉ。これを飲んだら火酒など、もう飲めんわい」
そして、恐る恐る坦々麺に手を伸ばす。折角、頼んでしまったものを食わなくては勿体ない。
「混ぜろと言ってたな。こうか?」
箸で麺と肉味噌に底のタレを 混ぜ合わせる。混ぜ合わせる事で、いくらか真っ赤な色合いがまろやかになったように見える。
いや、全体的に真っ赤になっただけかもしれない。だが、食べない選択肢はない。
土精族たるもの、未知な挑戦をしなくては道は進めないというものだ。
失敗を恐れていては素晴らしい武器・防具は作れない。
ズズゥゥゥゥゥ
「辛っ〜〜〜〜〜〜!」
急いで紀州芽台酒を水のように飲み込む。顔を真っ赤にして、ドラゴンのように炎を吹き出すところであった。