42食目、坦々麺辛さ星MAX
「ここが、あのクソ黒森精族が通ってる店かい?」
見た目は10歳代の人間の女の子に見える外見だが、これでも百年は生きてる土精族であり、鍛冶師ギルド筆頭のギルドマスターであるシャルル・キティー・ローランド。
「たく、あのクソ黒森精族だけなら来なかったが、ルーと錬金術師ギルドマスターの婆さんもご贔屓にしてるんじゃ仕方ないか」
最近話題に挙がる飲食店、中華大衆食堂「悠」。今時珍しく様々な種族が一緒に食える店だ。どの料理も他の店では先ず見かけないし、それでいて美味しいらしい。
土精族は、鍛冶師の次に酒ばかり飲んでるイメージが着いて回るが、まぁ半分はその通りだ。
もう半分は、舌が肥えており、けして土精族全員が酒精が強い酒が好きという訳ではない。美味い酒が好きなのだ。
いくら酒精が強くとも不味い酒なら飲まない。料理もそうだ。美味い料理なら食べるし、不味い料理なら食べない。
だから、確かめてみよう。オレが唸るような酒や料理があるのかを。
チリーンチリーン
「はーい、いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「1人だ」
「席にご案内致します」
店内は意外に広く噂通りに様々な種族が混在となっている。それに見た事のない衣装を着た女中。物作りなら(ポーション以外)何でも興味がある土精族らしく材質が気になって仕方がない。
「こちらになります。メニューをどうぞ。お冷となります。お冷は無料となります」
「おっ!これもガラスか?」
店の扉にもガラスがはめられていた。あんなに均等に薄く加工出来る技術は少なくともエリュン王国内にはいない。
これ程のガラスのコップを、こんな店で見れるとは運がある。売るとしたら数百の金貨が飛ぶこと確実だ。
それに……………ゴクゴク、プハァ。水も美味しい。十二分に冷えており一気に飲んでしまった。この水も気になって仕方ない。どうやって、ここまで冷やしたのか?
1番考えられる方法としては氷魔法を扱える魔法使いを雇用してる事だ。だが、それが出来るのは貴族や王族だけだ。
あの女子は無料と言った。だから、現実的ではない。うーん、分からない。魔道具という線もあるが、どれくらい働けば元を取り戻せるのか?こちらも現実的に薄い。
グーっ
色々と考えていたらお腹が空いて来た。厨房らしき場所から良い匂いが漂って来る。オレは、あれこれ考えるのは止め自然とメニューを開いていた。
「本当にどれも見た事のない料理ばかりだ。酒もあるじゃないか」
やはり、ここは酒を頼むしかないだろう。酒を飲まない土精族は土精族ではない。
「食べる物はそうだな」
土精族は、どちらかというと辛い物好きだと知られている。
「この坦々麺とやらが気になる」
辛さが調節出来ると書いており、最高が星10がMAXと書いてある。これは挑戦しなくては土精族の名が泣くというもの。
「問題は酒をどれにするかだ」
迷う。どれも見た事のない酒ばかりだ。酒精が強い酒は多くあれど、本当に美味しい酒に出会ったことは生まれてこのかたない。
ただ酔っ払うだけの味がないアルコールを飲んでるような感じであった。
「これにするか。何でも試してなんぼだ」
良し決まった。
「注文を頼む」
「はーい、ただいま」
尻尾を振りながら犬人族の女子がやって来た。客だけでは店側も多種族を雇っておるのか。
「ご注文をお伺い致します」
「坦々麺辛さは星MAXだ。それとな、貴州芽台酒を瓶ごと持って来てくれ」
「初めての方だと辛さ星MAXは自殺行為だと存じえます。それと、この酒は酒精が高い酒になっておりますので、小さいお子さんにはご提供出来ません」
「はん、オレは土精族だ。こう見えて100歳はとうに超えておる」
「し、しししし失礼致しました」
少し涙を浮かべさせながら引っ込んでしまった。少し声を荒らげ過ぎたか?
まぁあちらも悪い。いくら背が低いとはいえ、子供と見間違えられるとは心に傷がつく。
それは些細な事だ。今は料理とお酒が楽しみで仕方ない。ここまで料理とお酒に心躍る事は生まれこの方無かったと思う。




