40食目、麻婆茄子星5
「ここが中華という料理が食える店よね」
扉を開ける前なのに香りが外まで漂って来る。他の料理屋とは、そこが段違いに違う。ここまで香りが来る事なんて有り得ない。
それに看板には見た事のない言葉で書いてある。これが探究心・好奇心の塊であるワタクシ、黒森精族である薬師ギルドマスター、フリュール・リングランドには堪らなくワクワクして仕方ない。
「ゴクン、入ってみましょう」
未知の探求こそが黒森精族の本能。それがなければ、黒森精族ではない。何のための黒森精族なのだ。
「いらっしゃいませ。何名でしょうか?」
「1人よ」
「ご案内致します」
話に聞いていた通り、この店の下女の衣服は変わっている。身体のラインがハッキリと浮き出ており、男共が好みそうな衣装だ。
それに下女と言ったが、下女の割には綺麗どころを集めてるようだ。ワタクシも身体には自信はあるけれど、ここの下女を見ると自信を無くしてしまいそうになる。
「お席はこちらになります。ご注文はお決まりでしょうか?」
「ええ、あのね、中華の名物料理があるって聞いたんだけど、何がおすすめ?」
「そうですねぇ、今日は良い茄子が入ったとシェフが言ってたので、麻婆茄子がオススメです」
「じゃあ、その麻婆茄子とやらを注文してくれる?」
「はい、かしこまりました。辛さはどうしますか?」
「そうねぇ、☆5で頼むわ」
注文が終わると、店員が去っていく。黒森精族は大抵辛い物好きが多い。フリュールも大の辛い物好き。
だけど、慎重派である彼女は辛さMAXである☆10は行かず、真ん中である☆5を注文した。これで、どれくらいの辛さレベルなのか凡そ分かると考えた訳だ。
「麻婆茄子☆5入りました」
「はいよ、ガウン調理頼む」
「分かった」
焼き担当のガウンが作る。
先ずは長ナスのヘタを取り、半分に切り上半分を1/4、下半分を1/6に櫛形に切る。
次に油で揚げるのだが、一気に揚げるとナスがベタベタになってしまう。そこで3回に分けて揚げるとベタベタになることを防げる。
「次に肉味噌」
挽き肉をバラバラになるよう炒め、ひき肉がカリッとしたら、生姜のみじん切り小さじ1を加えて炒める。香りが出たら、紹興酒小さじ1、ショーユ少し加え、水分を飛ばしながら炒め合わせる。
全体に味がなじんだら甜麺醤小さじ1/2を加えてサッと炒め、器にいったん取り出す。
次に豆板醤小さじ2、しょうが、にんにくのみじん切り各小さじ1を入れて弱火で炒める。香りを出すために念入りに炒める。
香りが出て来たら鶏ガラスープ、肉味噌と揚げナスを加え、さっと炒めたらフェイフェイが調合した麻婆茄子専用のミックススパイスを星5の辛さになるまで投入。
全体的に馴染んだら、水研ぎ片栗粉を回し掛け、トロミが出て来たら完成。茄子が目立つように皿に盛り付ける。
「出来た」
しばらくすると、黒森精族のフリュールが注文した料理が運ばれてきた。
「わぁ、すごく美味しそう!」
フリュールは目を輝かせ、料理を食べ始めた。口に入れると、辛さと甘さと旨みが絶妙に調和している。その味わいに、彼女は感動していた。
「これが茄子という野菜かしら?」
野菜とは思えない程にトロッと蕩け、まるで肉のよう。口に入れた瞬間にスーッと無くなる。噛む必要がない。
本当に野菜なのか!どう調理したらこうなるのか?想像出来ない。仕事病というべきか?色々と調合方法を……………いや、調理法を考えてしまう。
それに病み付きになる辛さ、ただ単に辛いだけの料理ならいくらでもある。だが、これは違う。いや、辛さの中に深みがある。
つい、手が止まらなくなる。ワタクシは、そこまで大食漢ではないが、あっという間に皿が空になってしまった。
「この店の料理って、こんなに美味しいんだ。もっと早く来れば良かったわ」
☆5が、どの程度の辛さなのか分かった。この程度なら余裕で食べれる。むしろ、もっと辛さのレベルを上げても良いくらいだ。
でも、やはり暑い。額から汗が流れ頬を伝い落ちる。だが、嫌な暑さじゃない。心地良い暑さだ。
「ふぅー、オカワリをちょうだい。今度は☆6で」
あれだけでは足りない。今度は、辛さのレベルをワンランク上げて挑戦する。どれくらいの辛さまで食べれるのかは、また別のお話。