4食目、焼売
餃子を食べてる三人組の隣のテーブルで食べてる一人の龍人族が、三人に向けて呟いた。
「くだらぬ、文言が聞こえるのぉ」
龍人族の方へ視線を向ける餃子三人組。バカにされたようで一回席を立つが、場所が場所だけに再度席に着いた。
ここ中華大衆食堂「悠」は、暗黙のルールでケンカはご法度となっている。軽い口ケンカまでならまだ許容範囲内だが、手を出したり暴力沙汰に発展したら当分の間、出禁となってしまう。
ただし、店の外でやるなら構わない。「悠」に迷惑を掛けないなら料理長兼店長である悠真は許している。
それに、その方が客も盛り上がり「悠」の売上にも貢献させてもらってる。
「あんたは誰だい?ここら辺では見ない顔だが?」
「ふぉっふぉふぉふぉ、家が遠くでな。仕事でないと「悠」には中々来れないのじゃよ。前に来た時は、かれこれ3ヶ月ぶりかのぉ」
龍人族は前回「悠」に来店した記憶を実に懐かしそうに思い出し、自然と笑みが溢れる。
「悠」の料理は、どれも美味であり、ここにしかない料理ばかりだ。
「そんな前なら俺達が会わないのも無理もねぇか」
「それで、えーと」
「儂は、ルーカス。龍人族のルーカスじゃ」
「ルーカスは、何を頼んだのだ?」
「儂はな………………おっとちょうど来たようだ」
ルーカスが、答えようとした瞬間に料理が運ばれて来た。
「お待たせ致しました。こちら焼売セットです」
「カパネラの嬢ちゃん、今日もキレイだのぉ」
「ありがとうございます。ルーカスさん、店長からの伝言です。今回の食材も素晴らしい物でしたと」
「おっほほほほほ、店長にお褒めに預り光栄じゃとお伝えるようお願い申す」
「では、失礼致します」
ルーカスにお辞儀をしカパネラは去って行く。カパネラの後ろ姿は、男性客の8割が自然と目で追ってる。
キャバクラではないが、カパネラはその美貌から「悠」のNo1人気の高い接客員だ。
「カパネラと話せるなんて運が良いな」
「それで何を頼んだのじゃ」
「うっほほほほほ、これじゃよ。シューマイセットじゃよ」
三人ともシューマイは知ってるが、その後のセットは知らない。頭の上に???が浮かんでいる。
この店に通い続けて長い三人だが、セットという言葉は初めて聞いた。
「シューマイの他にご飯とチュウカスープが付いて来るのじゃよ。単品で頼むよりお得なのよ。おっほほほほほ」
「「「な、なんだと」」」
今までそうとも知らずに餃子単品とご飯単品で頼んでいた。セットで頼めば、そこに中華スープなるものが一緒でお得だという。
つまり、今まで損をしていたという事になる。三人ともため息をついた。
「儂は、今回シューマイを頼んじゃからAセットにしたが、メインを他のにしてBセットにすれば、メインにギョーザ一人前が付いてくるのぉ」
「「「な、ななななななんだと!」」」
ルーカスの先程の発言より衝撃であった。餃子とは別に他の料理が楽しめる事実に三人の頭はパンク寸前である。
それと餃子の浸けタレの言い合いがくだらないと言われた事は、何処かに行ってしまった。立て続けの衝撃で、それどころではない。
「シューマイは、こうして食べるのが一番じゃよ。シューマイをポンズに浸け、ご飯の上で、真っ二つに割るのが良いのぉ」
箸で真っ二つに割れた焼売から肉汁が溢れ、ご飯に染み込んでいく。
貴族や王族が食べるなら食事のマナーとしてだらしないと敬遠されるだろうが、ここは大衆食堂。多少のマナー違反なら許される。
というより、食事のマナーなんてクソ喰らえと思ってる輩が多い。
余程汚く食わない限り自分の好きに食える場所が大衆食堂だと、こちらの世界では、そういう認識をされている。
「ゴクン、旨そうだな」
「やらんぞ。シューマイはギョーザと似て非なる物じゃ。材料は似てるというのに調理の仕方によって、こうも味に差が出来るとはのぉ」
ルーカスは、半分に割いた焼売をご飯と共に口に頬張った。口の中で、ご飯と焼売が混ざり合い単品では味わえない旨さが産み出されている。
焼売は点心なのでフェイフェイの担当だ。豚ひき肉にキャベツの代わりに微塵切りにした玉葱や長ネギを加える。
餡の黄金比率は、豚ひき肉5:豚の脂身1.5:クワイの微塵切り2.5:玉葱の微塵切り0.5:長ネギの微塵切り0.5に砂糖大さじ1、胡椒少々、醤油小さじ1、塩小さじ1/2となる。
肉→野菜→調味料の順に入れ粘りけが出るまで混ぜていく。
餃子の皮と違って焼売の皮は、正方形で包み方も少しコツがいる。
焼売用のヘラを使う料理人もいるが、フェイフェイは餃子同様に【見えざる手】で包んでいく。
正方形の皮の真ん中に餡を適当な量を平らに乗せ、人差し指と親指で作った和っかの上に皮を乗せると、和っかの中に押し込む形で焼売を形成する。
最後に形を整え、蒸籠で蒸すと出来上がりだ。焼く餃子よりも肉汁が中に閉じ込められると言う者もいるという。
餃子を食べていた三人が凝視する中で、ルーカスは我が物顔で焼売を堪能していた。