39食目、八宝菜その2
「どれ、頂こうか」
「いただきます」
先ずは野菜から食べる。
モグモグ………シャキシャキ
「炒めてるはずなのに食感が新鮮みたいだ」
それと調味料が良い働きをしている。何の調味料を使っているのか皆目検討つかないが、数種類の調味料を使い熟しているのは間違いない。
それに適度なトロミで上手く絡み合っており、まるで男が女をけして離さぬような…………イチャイチャしてる恋人同士のようでないか。
いや、俺は何を思ってるのだろうか?つい、あの席を案内してくれた森精族と俺が仲睦まじく身体を寄せ合ってるような風景を妄想してしまった。
俺には愛してる女房のアイリがいるんだ。俺は首を振り、妄想の森精族を頭から追い出す。そして、クルンと老婆の背のように丸まった食材を箸で掴む。
「これは海のものか?」
昔、冒険者をやっていた時に1回だけ海を見た事がある。青白い水が大量にあり驚いた。
その時の市場で似たような食材を見掛けたような気がするが、なにせ1回限りだったのだ。名前が思い出せない。
クンクン
「美味しいのか?」
パク………モグモグ
「何だ?!これは!」
プリンと口の中で弾け野菜とは違う味わった事のない旨味が広がる。それに冒険者の時に嗅いだ海の匂いを思い出した。
あぁ懐かしい。あの時には食べなかった事が悔やまれる。こんなに美味しい食材なら早く知りたかった。
「この白いものも海のものか?」
先程の丸い物体とは違う弾力でいて噛む程に旨味に深みが増加され飲み込むのが愛しい。
だけど、飲み込む時にノドへ通る際にも旨味が拡がって行く気がする。
「次は…………これは山で似たようなものあったな」
丸い傘みたいなものが付いてて、これもまた旨い。こんなに旨いものだったのか!食感も好きだ。今度山で見つけたなら採取しよう。
「最後に肉をいってみるか」
やはり虎の獣人、肉が一番の大好物。調味料で匂いが掻き消され何の肉か判別出来ない。
だが、美味しいに決まっている。肉より先に食べた食材が美味だった。だから、美味に決まっている。
「はぐっもぐっ」
これは……………豚肉か!調味料で味付けされても肉の味は分かる。でも、俺の知ってる豚肉とは違う。とてつもなく柔らかくて味が中まで染みている。
他の野菜や海のものと一緒に食べるとなお良い。益々食欲が増加してる気がする。これは米とエールが欲しい。
「無くなってしまった」
折角、米とエールが欲しいと思った矢先に皿が空となってしまった。
「パパ、お代わりする?」
「なに?!」
お代わりという発想がなかった。ウチの娘は天才か!エリンも平らげたようでお代わりをご所望のようだ。
よし、今日は納品した野菜のお金があるし、お代わりをしよう。
「これを押すんだったな」
ポチっ
「はーいただいまぁ」
「さっきと同じものとご飯大盛りにエール、エリンはどうする?」
「私も同じのとご飯大盛りとオレンジジュース」
「畏まりました」
お代わりをご所望してから待ったのは5分も経ってない。
「お待ち致しました。八宝菜とご飯大盛りに生ビール、麻婆豆腐辛さ5とご飯大盛りとオレンジジュースでございます」
「パパ、エールの事をこの店では生ビールって言うんだよ」
早い!もう来たのか!お代わりを頼んでからそんなに時間は経ってない。それに生ビールと呼ばれるエールは冷えてるように見える。
「このオレンジジュース、甘くて酸っぱくて好き」
「なにっ!」
エリンの言葉に、ちょっとオレンジジュースとやらが気になる。甘味は村でも貴重な食べ物だ。手に入る甘味としては果物で、その次がハチミツだ。
「ニヤニヤ、もしかしてパパもオレンジジュース飲みたいの?生ビールがあるのに」
「ぐっ…………そんな事ないぞ。パパは生ビールで充分だ」
ゴクゴク……………プハーッ
「何だこれは!これがエールというのか!」
旨い!美味すぎる!八宝菜とご飯を口に放り込んだ後に飲むと尚更旨く感じる。こんなの飲んだら今までのエールは、ションベンを飲んでるようなものだ。
「もう無くなってしまった」
だが、満足だ。このままの余韻で帰りたい。そして、また来ようでないか。エリンも丁度食べ終わり、満足そうにお腹を擦ってる。
「こちらお持ち帰りの餃子と炒飯でございます」
タイミングがバッチリだ。餃子と炒飯を受け取ると帰路に着いたのであった。