32食目、麻婆茄子星MAX
「ここがカイト殿が美味しいと仰有る中華大衆食堂「悠」であるか」
優真の店の前に紳士風の衣服を身に着けたご老人が看板を見上げ立っていた。
「ふむ、人間の料理なぞ、くだらないと思っているがカイト殿のオススメなら食べる価値があるか」
紳士風なご老人の正体は黒龍という龍種の中でも8匹しか存在しないとされている龍種の王の1人。
それぞれ黒・白・黄・緑・赤・青・紫・虹の色を冠している。紳士風なご老人クロウは黒を冠しており黒龍をやらせてもらってる。
チリンチリン
「いらっしゃいませ」
「1人だが大丈夫でござろうか?」
「はい、大丈夫ですよ。席に案内致します」
「うむ、よろしく頼む」
良く見渡すと人間だけではなく、色んな種族が席に座り食べてる。クロウから見てもこの光景は驚いた。
本来なら種族毎に開いてる店に行くもの。他種族の店には、けして行かないというのが常識。
例外として、我々みたいな龍種と同じように山の僻地や森の奥に住んでる者などは、めったに街や都には行かない。
それなのに、ここまで多種多様な者が一緒の場で食事をしようとはカイトがオススメする訳だ。
「こちらへどうぞ。これがメニューでございます。文字は読めますか?」
「読めるから大丈夫だ」
メニューを開くと色々ある。カラフルな写真は、どれも美味しそうで自分が食べてる様子を、おもわず妄想してしまう。
だが、やはりカレーみたく辛い物が食べたい。カイトのカレーを食べてから辛さのトリコとなってしまった。
「やはり辛くないと食べた気がしない。んっ?これは」
星が書いてある料理がある。ふむふむ、星の数程に辛さが増すとな?なら、これにしようでないか。
「注文を頼む」
「はーい、ただいま」
「我輩は、これをご所望だ」
「辛さはどうしましょう」
「もちろん」
星MAXだ。それしか我輩には選択肢は存在せぬ。どれだけ辛いのか挑もうではないか。
「MAX………ですか。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。我輩は激辛に目がなくてな」
「かしこまりました。麻婆茄子星MAX1入りました」
名前は知らぬが良く通る声だ。厨房にも届いたようで返事が返って来た。それにしても、他の席から何とも言えぬ香ばしい香りが漂って来て食欲が唆る。
「か、香りだけでもここまでとは!」
カイトのカレーも凄まじいが、この店も負けじと香りが立っている。早く来ないかとヨダレが次から次へと溢れてくる。
――――厨房――――
シュゴーシュゴー
「ガスマスクは着けたか?」
「着けた」
「着けたよぉ」
「よし、ガウル頼んだ」
星MAXの料理が来た時は、ガスマスク着用するようにした。そうしないとノドと目がやられる。
先ずは、メインの茄子とピーマンを縦に8等分、ニンジンを短冊切りにして、中華鍋に油を引き茄子を先に炒める。
茄子が程よい紫色になったら、ピーマンとニンジンを炒め火を通す。十二分に火が通ったら、一旦皿に移して挽き肉を炒める。
挽き肉を炒めたら、酒と甜麺醤を入れ炒めたら、次にすりおろしニンニクとショウガ、豆板醤に特別にブレンドした各種唐辛子の粉を匂いが立つまで炒める。
まぁガスマスクを着用してるので匂いはしない。そのため経験と勘で見極める。
「ここで野菜を投入」
最初に炒めた野菜を入れ、十二分に馴染ませる。炒めてる間、星MAXな辛さになるようブレンド唐辛子で調節する。もう挽き肉と野菜が真っ赤で、見た目だけでヤバさが伝わってくる。
最後に水溶き片栗粉を回し掛け、トロミがついてくれば出来上がり。提供する前に周囲のお客様に影響出ない様、クローシュを被せる密閉させる。
「お待たせ致しました。麻婆茄子星MAXでございます」
クローシュを開けた瞬間、カプサイシンなどの辛味成分が宙を舞う。ただし、そこは対策済み。その席にしか舞わない様、換気する魔法が掛かってる。
ただ運ぶ際に注意すれば良い。
「これは随分と辛そうであるな。ゴクリ、頂くとするか」
パク、モグモグ、ゴクン
辛ぁぁぁぁぁ、美味ぁぁぁぁぁ、辛ぁぁぁぁぁ、美味ぁぁぁぁぁ
「カイト殿のカレーより辛いが、ただ辛いだけではない。辛さの奥に複雑な旨味がある。カレーとは違う意味で、これはクセになる」
それに、この茄子という野菜も一役買っている。細かい肉がチラホラあるが、茄子は野菜とは思えない程に弾力があり肉と錯覚してしまう。
それにさっきから暑い。我輩の身体から湯気が立ち昇ってくる。汗が止まらない。でも、嫌な気分ではない。清々しい気分だ。