30食目、揚州炒飯
炒飯と言っても色々ある。中華の基本となる料理なだけであって奥が深くて料理人の腕の良し悪しが表に出やすい。
それに店によって千差万別であり、味はもちろんの事、色合いや香りに具材など地方が変われば種類がグーンと増える。
ご飯の前に卵を入れるルールだけ守れば、中華で最も自由な料理といえよう。
「どんな炒飯を作れば良い」
ユウマに中華のいろはを教わり、一番奥深いと感じたのは炒飯だ。ほかの料理だとアレンジはききにくい。
既存の料理を超える事は容易ではない。だが、炒飯はどうだ?様々な具材と和える事が出来、肉から野菜に海鮮と不味くなる要素など皆無だ。
それ故にガウンは悩んでしまう。
「ふむ、揚州炒飯にする」
相手は、まだ子供らしい。それなら、色んな具材が入ってる揚州炒飯にして栄養をつけさせよう。
そういえば、揚州炒飯を聞いた事がない者の方が多数かもしれない。いわゆる五目炒飯の別名だ。
先ずは中華鍋に葱油を投入し馴染ませたら余分な油を切る。そこにラーメンに使われる叉焼を1cmのサイコロ状に切って炒める。
細かく切ってあるから数秒程度で良い。その上から細切りにしたニンジン、ピーマン、シイタケを次々に投入させ炒めていく。
ある程度炒めたら一旦皿に移して置く。
葱油を再度引くと、炒飯の肝となる卵を投入する。ふわトロまで固まって来たら、冷や飯を投入。お玉でかき混ぜながら、中華鍋を上下に揺らしご飯を宙に舞わせる。
ご飯一粒一粒がくっつかないようにパラパラと余分な油を飛ばす。素人には、これが難しい。これが出来て始めて中華料理人と呼べる。
力強い熊人族であるガウンは、難なく中華鍋を扱ってるが、この域まで達するのに、悠真は5年は掛かった。
「ふん、ふん」
舞ってる途中で調味料を入れる。醤油、ウスターソース、清酒、その他の炒飯用としてフェイフェイが配合した調味料をお玉で目分量にて投入。
その日の気温や湿度によって分量を変えるのはプロの料理人のは当たり前。
最後に炒めた具材を入れて、ラストスパートだ。ご飯粒、一粒一粒に調味料の香りと味を移すイメージで中華鍋を揺らす。
ご飯粒と一緒に具材も舞い、均等に混ざり合う。白色だったご飯粒にも色が付き始め、匂いも炒飯ぽくなってきた。
これぞ、炒飯の王道である揚州炒飯もとい、五目炒飯が出来上がった。
オタマいっぱいに入れ、器に合わせて反転させ、ドーム状の形へと盛り付ける。でも、ユウマの炒飯には、まだ程遠い。
身近で中華を習って来たオデだから分かる。ユウマなら褒めてくれるだろうが、まだまだだ。
「ユウマ、これで良いか?」
「上手く出来てると思うぞ。もっと自信を持て」
焼き物を任せて貰ってから、久しくユウマの中華鍋を扱ってるところを見ていないが、今炒飯で勝負したら負ける。
外見では判り難いがユウマは良い身体付きをしている。こんな細い腕で中華鍋を難なく汗を掻かずに振り続ける事ができるのだから。
オデでさえ、汗は掻くというのに。
「うん?何をしてる?冷めてしまうじゃないか」
「あっわるい。揚州炒飯出来上がった」
いかんいかん。急いでデシャップに置いた。待っていたと言わんばかりにカナリアが満面な笑顔で持っていく。
「お待たせ致しました。ユナ様、揚州炒飯で御座います」
まだ湯気が立っており、食欲の唆る香りにテーブルへ置いた瞬間、ユナはレンゲを持ち口にかき込む。
「家で食べた炒飯と味は違うけど、これも美味しい」
ハムハムモグモグ
一人前の量だが、それは大人に合わせた分量だ。まだ体の小さいユナには多過ぎる量のはずなのだが、既に1/3程を胃に収めてる。
嫌いなはずの野菜も細かく切ってるからか避けずに食べている。ガウンの作戦が上手くいった結果だ。
「……………ユナ」
「ダメ」
「まだ何も言ってないよ?!」
「お兄ちゃん、ユナの炒飯を食べたいって言うの分かってるよ?」
ギクッ
図星だっただけに何も言えずに、大人しく自分の餃子を待ってるのであった。