3食目、焼き餃子
休憩が終わり夜の部の始まりだ。夜の部の開店時刻になった途端、十数組の客が順番に入店しテーブルへ着席していく。
どうやら、開店するのを待っていたようだ。
「焼き餃子6、生3、大3入りました」
「はーい、ちゃっちゃと作っちゃいます」
餃子は、フェイフェイの担当料理だ。既に仕込みで作ってある餡を「悠」特製のモチモチとした皮に包んでいく。
餃子の餡の内容は、豚挽き肉6:キャベツ3:ニラ1に摺りおろしたニンニクを小さじ1とゴマ油小さじ2、オイスターソース小さじ2、醤油小さじ1を加え混ぜ合わせたモノだ。
キャベツは、塩揉みをし脱水した物を使う。
もちろん、フェイフェイが配合したモノだ。元日本人である悠真よりも完璧な配合だ。
料理人として悔しいが、これ以上のない黄金比率で、これに悠真が自分のみで行き着けるとしてら何年掛かるのやら分からない。
「ほいほい」
「いつも思うのですが、凄い勢いで包んでやがるのです」
「まぁ十中八九、魔法だろう」
だって、両手で包んでる餃子以外は宙に浮き皮に包まれ皿に盛り付けられていく。
フェイフェイのオリジナル魔法の一つ、【見えざる手】という魔法だ。
フェイフェイの背中から魔力で形成された文字通り見えない手が生えてるイメージを頭に浮かんで貰った方が分かり易い。
つまり、実際には【見えざる手】によって餃子を包んでるだけなのだ。ただ、見えないだけで宙には浮いていない。
ただし、二本だけではなく複数あるらしい。それでも馴れた手つきで餃子を目の止まらぬ速さで包んでいく。
ちゃんと餃子の特徴的な形であるヒダも綺麗に出来ており、完璧な餃子の形だ。
餃子を綺麗に包むには、皮に乗せる餡の量を多過ぎても少な過ぎてもダメだ。それと、皮の接着剤として水を皮の端に塗っていく。
「餃子6入ります」
「人気メニューなだけあって、スゴく入るな」
「我輩も焼くであります」
フェイフェイが包み、ガウンが焼いていく。一気に焼けるよう餃子用の鉄板があり、蒸し焼きに出来るよう蓋もセットとしてついてあり、上下に開閉出来る。
「悠」の焼き餃子は羽根付きだ。餃子の底にいくらか焼き目が付いたなら片栗粉を溶かしたぬるま湯を餃子用鉄板に投入。蓋を締め蒸し焼きにする。
水分が全て蒸発したら、蓋を開け皿に盛り付けたら完成。「悠」の焼き餃子は6個で一人前、二人前だと12個ずつ皿に盛り付ける。
羽根が見事にバリバリに仕上がっており、食べなくても見るだけで美味だとイメージが容易い。
「焼き餃子6、大3、生3上がったよ」
「はーい、スンメイ行きます」
熊の獣人よりは筋力は落ちるが、それでも獣人は獣人だ。
見た目10代にも満たない風に見える犬人族の双子の片割れであるスンメイは軽々しく生ビールが入ったジョッキと餃子とご飯が乗ったトレーをバランス良く両手で持ち運んでいる。
一方のレンメイは、お客様が食べ終わった食器の片付けをしている。こちらも、バランス感覚がスゴく落ちないかヒヤヒヤするが、何故か落ちない。
まるで悠真が日本にいた頃、中国雑技団が日本へ来日した時に拝見した雑技に似ている。
「お待たせいたしました、焼き餃子6人前、ご飯大3人前、生ビール3つです」
「おぉ、待ってました」
「やっぱり「悠」に来たら、これを食べずにはいられないな」
「それな、安くて旨いと来たもんだ。それにエールが進んで万々歳だ」
スンメイが餃子を運んだお客様3名の組み合わせが変わっていた。
左から犬人族、人間、鍛冶族が仲良く座ってる。
仕事帰りのサラリーマンみたく、生ビールのジョッキを片手に持ち、カツンとジョッキを軽く当て合い乾杯をしていた。
「ゴクゴク、ぷはぁ~。俺は、このために生きているな」
「それは分かるが、先ずはギョーザを食ってから言おうぜ」
「ゼノンの言う通りだ。ギョーザを食べてから飲むエールが一番じゃないか」
ゼノンと呼ばれた犬人族に同意した人間は、パクっと小皿に移した醤油に餃子を浸し一口で口に放り込み、ゴクゴクとエールを流し込んだ。
「クーッ、これが美味しいんだよな」
人間のこれ以上のない幸福な一時を噛み締めてるような表情に、ヤレヤレと呆れてる風に首を振るゼノン。
「ユーリも分かってないヤツだな。ギョーザには、ショーユに辣油だろよ。このピリッとする辛さがたまんねぇぜ」
人間のユーリを小馬鹿にしつつ小皿に醤油を数mmの厚さに注ぎ、その上から数滴辣油を垂らした漬けタレに、チョコンと漬け口に放り込んだ後、ご飯を一気に口に含んだ。
飲み込んだ後のご褒美に生ビールをゴクゴクと一気に飲み干した。プハァーとユーリと同じ表情となっている。
「ぷっははははは、さっきから聞いておれば話にならん」
「なら、ガランはどうやって食べるんだ」
「そうだそうだ、聞いてやろうじゃないか」
「俺が選ぶのは、〝酢〟じゃよ。ギョーザに酢が最適解じゃ」
ガランが小皿にお酢を注ぐと酸っぱい匂いが、そのテーブル一面に漂う。
「おい、止めろ。匂いがこっちまで来るでないか」
犬人族であるゼノンには、嗅覚が効き過ぎてお酢の匂いが堪える。
「これが良いじゃないか。酢の酸味でギョーザの油を中和し、サッパリして食べやすい」
遠慮無しにお酢に餃子を浸し、パクっと放り込み、ご飯を掻き込み、生ビールをゴクゴクと飲み干した。