25食目、味噌ラーメン
カランカラン
「いらっしゃいませ。これはカイト様、ようこそおいでくださいました」
「これを店長に渡して欲しい」
カイト様と呼ばれた男は【収納魔法】から取り出した袋をカパネラに渡した。
「いつもありがとうございます」
「なーに、こちらも美味しい料理を食わせて貰ってるんだ。Win-Winな関係っていう事さ」
「Win-Winとやらは分かりませんが、店長はいつも質が良いものをありがとうと言っております」
カパネラにお礼を言われ照れる。カパネラは森精族だからか?人間にはない美しさがある。こんな美しい女性にお礼を言われ照れない男はいない。
「お席へ案内させて貰います。こちらへどうぞ」
カパネラの後ろを着いていくカイト。一人という事でカウンター席に案内された。直ぐにお冷とオシボリを用意され、メニューを渡された。
「そうだな。今日は味噌ラーメンにしようか」
「畏まりました。味噌ラーメン1入りましたぁ」
「はいよ」
味噌ラーメンは、醤油と塩と同じポプュラーなラーメンの一つ。肝心な味噌は、醤油と一緒で悠真の技術で取り寄せている。
それでも味噌の種類も膨大で一般にスーパーで販売してる品物は論外。専門的に作ってる味噌蔵が丹念込めて作ったの味噌を選んで使ってる。
厳選した味噌をフェイフェイの言う通りの配合したオリジナル味噌を元に味噌ダレを作る。
「ガウンは野菜を頼む」
「了解した」
ガウンと同じく中華鍋をセットし、その中にゴマ油、豚ひき肉、おろし生姜、おろしニンニク、フェイフェイが配合した味噌、豆板醤、縦に切った長ネギを入れ炒める。
炒める事で肉の風味とコクが付いて美味しくなる。そこに俺が丹念込めて育てた鶏ガラスープを投入する。これで味噌ラーメンのスープが出来上がった。
ガウンはというと、中華鍋にモヤシ、水で戻したキクラゲ、短冊切りのニンジン、ざく切りにしたキャベツを豪快に炒める。俺以上に炎を操ってる。
中華鍋だけではなく、上空を舞う際に炎に当てられ余分な水分や油が飛ぶ。上手く中華鍋を扱わないと、野菜や肉に魚等などベタついたような食感になる。
スープとトッピングの野菜は準備OK。スープをラーメン丼に注ぎ入れ、麺がちょうど茹で上がった。
水面張力を切るイメージで、テボを勢い良くジャバンっと上下に一回振る。素人だと、ここでも手間取ってしまうところ。
上手い具合に水切りが出来、麺が輝いて見える。スープの中にダイブさせる。菜箸で麺の形を整え、ガウンが調理した野菜達を乗せ、最後にメンマ、スイートコーン、バターを一切れトッピングして完成だ。
「お待たせ致しました。味噌ラーメンでございます。そして、こちらが先程の料金でございます。ラーメン代は差し引いてます」
「ユウマ、ありがとう。今日も美味しそうだな。では、いただきます」
カイトは、パチンと馴れた様子で割り箸を割る。ズズーッと麺を啜り野菜をパクッと口に放り込む。
「日本人なら醤油も捨て難いけど、味噌も美味しく感じて身に染みるなぁ。ユウマもそう思うやろ」
「えぇその通りですね。まさか、こちらで同郷の方と会うとは思いもしませんでしたけど」
カイトと悠真が出会ったのは今から2年前。カイトがとある女性1人と一緒に入店したのが切っ掛け。
中華大衆食堂「悠」の看板やメニューが日本語に書かれていた事に、その当時心の奥底で驚いたものだ。
転生や召喚された者は例外なく、異世界の言葉や言語が地球のそれと同じく見聞き出来る仕様となってるのに、それがなかった。
「あの当時は驚いたものです」
「それはこっちも同じだ。まぁこの出会いのお陰で、良い香辛料が手に入って助かってるがな」
こちらの世界では、香辛料は高価で地球の大航海時代と同じく高値で取引している。
だが、それではラーメンを含め中華なんて出せない。カイトと出会うまでは自分の技術で取り寄せてはいたが、カイトの作る香辛料を含め他の食材の質の方が断然良い。
「こっちだって助かってるさ。材料は用意出来てもユウマみたいな料理人には敵わないからね」
「中華限定ですけど」
「何を言うか。こっちに来て一番困った事は何か?それは食事だよ。今では、こういう風に食べれるが、それまでは思考錯誤の連続だった」
その一旦が、カイトにとってカレーだ。だが、それでも日本にいた頃に味わっていたカレーには負けてしまう。
それにラーメンもそうだ。スープもそうだが、麺が出来ない。どうしても納得いくものが出来ない。ユウマの中華を食べる度に痛感してしまう。