24食目、小米粥その2
「ユーリ様、大丈夫でしょうか?」
「うん、オレは大丈夫。それにしても、お姉ちゃん強いんだね」
ユーリーの瞳がキラキラとカナリアを見詰める。まだ年端も行かない男の子が、カナリアみたいに強い女性に対して尊敬してしまうのは必然の事。
「さぁ行きましょうか?」
「うん」
まるで、本当の姉弟みたく手を繋ぎ歩を進める。カナリアの戦闘を見ていたからか、誰も二人には近寄ろうとしない。
むしろ、畏怖の念を抱いて目すら合わせようとしない。前を通る度に家の扉やカーテンが閉まって行く様子が伺える。
「お姉ちゃん、ここが僕の家だよ」
例外に漏れず、ここら辺スラム街にあるボロ屋と同じ外装をしている。不衛生で、ここで寝泊まりしてるなら病気の一つや二つ貰っても仕方無いと言える。
「母さん、ユナただいま」
ギィーっと建付けが悪い扉が開くと、そこは湿気がありホコリが舞う。貴族の屋敷に宿屋や飲食店なら兎も角、一般家庭ましてやスラムの家屋で掃除という概念が希薄なのは仕方無い。
菌やウイルス等の目に見えない生物なんて信じられていない時代風景なのだから。
「お兄ちゃん、おかえり」
「母さんは?」
「寝てる。お姉ちゃんはだーれ?」
「カナリアはカナリアと申します。この度、ユーリ様が私達の主である優真様のお店、中華大衆食堂「悠」にご来店なさりまして、このカナリアがユーリ様の護衛を兼任なさった次第で御座います」
「ぽへぇー」
まだ3〜4歳の女の子には難しい話だったようで、ポカーンと口を開けて呆けている。
「カナリアお姉ちゃんは凄いんだぞ。こう悪漢をバッタバッタと投げ飛ばしたんだからな」
「へぇー、凄いんだぁ」
呆けていたのがウソのように太陽のように眩しい笑顔を振り撒く。
「それで、ユーリ様のお母様はどちらに」
「あっ、そうだ。母さんはこっちで寝てる」
ユーリの案内で寝室に案内されると、そこには痩せこけた女性が一人ベッドに横たわってる。
顔には生気が感じられず、本当に生きてるのか怪しい。それに二人の母親とは思えぬ程に老け込んで、二人が孫と言われた方がしっくりくる。
「母さん、ただいま。今、帰った」
「…………ユーリかい」
ユーリの声に反応して瞼を開け瞳だけを向ける。よっぽど体を動かすのがしんどいのだろう。
唇を数mm動かしただけで、近くに寄らないと聞こえない程に小声だ。
「母さん、買って来たよ。食べて」
「カナリアも手伝いますので、ゆっくりと体を起こしましょう」
カナリアがユーリの母親の背中を支えながら上半身を起こした。背中や片腕を触ってるから分かる。これは、もう少し遅かったら危なかった。
肉はほぼなく皮と骨だけで、八十代の老婆みたいで三十や四十代には見えない。
「ゆっくりで良いので、お食べくださいませ」
アイテムボックスから小米粥を取り出し、スプーンでゆっくりとユーリの母親の口元へ運んで行く。
最初は本当にゆっくりと飲み込む程度だったが、徐々に瞳に生気が宿り始め小米粥を飲み込む速度が早くなっていく。
ゴクンっゴクンっ
「……………ありがとうございます」
「いえ、ユーリ様は大事なお客様でございます。そのお客様が困っていれば、助けるのは当たり前の事でございます」
今度は、ハッキリと声を発する事が出来てる。それに顔や腕に水分が戻るようにスベスベな肌艶になって行くのを見て取れて分かる。
ここに悠真がいれば、きっと突っ込んでいる。あまりにも効果がでるのが早過ぎる。
「…………ご馳走さま………でした」
「お粗末さまでした」
容器の中は空っぽ。小米粥を全て平らげ、再び横になり眠りにつく。
少し生気が戻って来ても、まだ体力や肉が付いてない。これでは、まだまともに動けないだろう。だけど、死ぬ事は無くなった。
「これでお母様は安心でございます」
「あ、ありがとう。お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、ありがとう」
「どう致しまして」
二人にニッコリと微笑む。まだ人の心は分からないですけど、ちゃんと笑えたかしら?
「ユーリ様とユナ様お腹空きませんか?我が店長から預かって来てます」
テーブルに置かれたのは、大盛りな炒飯と焼き餃子だ。アイテムボックスに入れていたので、まだ出来たての状態。
「さぁどうぞ、お召し上がりくださいませ」
「「い、いただきます」」
ハグハグモグモグと、相当お腹空いてたのだろう。掻き込むように二人の口へと吸い込まれていく。
そんな二人の様子にカナリアは、密かに笑みを自覚なしに浮かべていた。




