23食目、小米粥
日本での粥と中国の粥とは根本的に違う。日本の粥は水だけで煮込むシンプルのに対して、中国の粥は出汁で煮込みバリーエーションが豊富なのが特徴だ。
「土鍋を用意して」
お粥を作るのに適した鍋は、やはり土鍋だ。普通に中華鍋で作ったら焦げてしまう。
中華は火力が大事だが、じっくりとコトコトと煮込む必要な中華もある。寸胴鍋なら兎も角、中華鍋は長時間の調理に向いて無い。
その一つが中華粥で時間が掛かる所以だ。土鍋に一時間前に水に浸していた粟と鶏ガラ出汁を粟がドップリと浸るまで入れ火を掛けた。
沸騰するまで15分、その後は弱火でコトコト40分程じっくり煮込めば完成だ。
「米じゃないが、この匂いを嗅ぐと日本人なら頬を緩めてしまうな」
日本でのお粥のイメージは病人食だ。風邪を引いた時に母親が作ってくれた記憶が悠真にもある。
ただし、子供の舌でも美味しく感じられるものではなかった。病人食のため味は薄く米の本来の甘味もあんまり感じられない。
その上、中華粥は毎日のように朝食として食べる家庭も多く美味しい。中国の家庭の味の一つだろう。
中華大衆食堂「悠」では一時間程で作るが、お粥専門店だと4〜5時間程煮込むという。中華粥は煮込めば煮込む程、穀物の原型が無くなり美味しさに深みを与えると言われてる。
「焦げないように適度に掻き回してと」
コトコトと弱火で掻き回す度に粟の甘い香りが鼻に付く。匂いから分かる。これは絶対に美味しく出来上がる。
中国人が朝食に選ぶだけの事はある。こんなの食べたら元気が出るの分かりきってる。
「うーん、良い匂いだ」
煮込む時間が過ぎ去るに連れて、サラサラだった鶏ガラ出汁がトロトロにトロミが出て来た。
鶏と粟の匂いが融合して、下手に香辛料を調合するよりも香りが更に強く厨房に漂ってる。
グツグツコトコト
弱火にし土鍋に蓋をした。蓋の空気穴から湯気がモワモワと立ち登り、蓋がリズム良くコトコトとメロディを奏でる。
これでジックリと粟に鶏の旨味を吸収させ、赤子でも噛み切れる程に柔らかくなるまで、煮込み続ける。
「よし、出来上がりだ」
テイクアウト用の耐熱容器に移し、クコの実をチョコンと4粒乗せ、冷めないように蓋をする。
「カナリア、これを持って一緒に坊主の家に着いて行ってやれ。俺の予感が的中したなら、危ない事が起きるだろうからな」
「店長、了解しました」
カナリアが持つ機能の一つ【アイテムボックス】に小米粥を収納した。
「ユーリ様、お待ちしました。お料理が出来上がりましたので、さぁ行きましょう」
「行くって何処へ」
「あなた様のお家でございます」
【読心】により、ユーリが何処に住んでるのかカナリアには分かってる。
ユーリと手を繋ぎながら、ユーリの母親と妹がいるとされる家へと向かう。
「えっへへ、何かお母さんと歩いてるみたい」
「…………ユーリ様のお母様が、どんな方かは存じ得ませんが、とても光栄でございます」
こういう時に、どう返事したら正解なのか?カナリアには分からない。一応、それっぽい事を口にしてみた。
そっとユーリ様の横顔を拝見すると、カナリアには真似出来そうにない満面な笑みを浮かべている。
どうやら正解だったようだ。だが、まだまだ店長の元で人間らしさを勉強する必要はあると感じるカナリアである。
「お姉ちゃん、もう少しで僕の家に」
「おっと、止まって貰おうか?」
賑やかな中央区から離れ街の外れ、スラムと呼ばれるナラズ者達が住む無法地帯がある地区に足を踏み込んでから直ぐ盗賊顔の男共に囲まれた。
「カナリア達に何かご用でございますか?」
金棒や鉈を肩に構え、こちらを威嚇してくる。カナリアの分析によると、カナリアよりも弱いと判断した。
「お嬢さんは顔が良いし、そこら辺の貴族共に売れば良い金になりそうだ。そこのガキは、奴隷商に売れば良いだろ」
「ぎゃはははは、親分、貴族に売る前に味見させてくださいよ」
「そうですよそうですよ」
「たく、しょうがねぇ奴らだ。先に捕まえた奴にヤラせよう」
愚かな奴らですね。カナリアに勝てると思ってるのですから。それに、ゲラゲラと煩いですね。
「殺られても自業自得でございます」
「あぁん」
「何だって?」
カナリアは自分の背丈よりも長い大剣をアイテムボックスから取り出し軽々しく片手で持ち上げた。
「これから殲滅作業に移行します」
男共の悲鳴が、そこら中に響き渡った。助けを求めるにしても、ここは無法地帯であるスラム。誰も見て見ぬフリで、男共を助ける者は誰も居なかった。




