2食目、炒飯
そして、俺━━━悠真は麺類と汁物(鍋も含む)を担当している。
普通なら料理長である俺が中華鍋を振るうところだが、俺よりも数倍は力が強いであろうガウンに任せている。
というより、数日の内に中華の命でもある火力を使いこなしていた。
例えば、中華のご飯物と言ったら炒飯であろう。冷飯の一粒一粒が中華鍋を離れ宙を舞い、米一粒一粒が直火に晒され余分な油が飛びコーティングされていく。
だけど、これが難しい。中華の腕を見るには炒飯が一番とされる理由もそこにある。
炒飯が不味い中華店は、他の料理も不味いと言える。中華の基本が全て詰まってるのが炒飯だ。
「ガウンさんのチャーハン毎日食べても飽きないのです」
「ガウンさんのチャーハン、ウマウマなのよ」
ガウンが賄いで作ったチャーハンを頬張ってる犬獣人の双子の姉妹は、左が姉のレンメイ、右が妹のスンメイ。
双子の証拠に顔が瓜二つで体型もほぼ一緒。初対面だと先ず見分けがつかない。
悠真も当初間違えたものだ。今では、何となく声のトーンや仕草で解るが、たまに間違えそうでドキドキしてる。
一応、頭の団子の向きでも解るようにしてるが、この二人は悪戯好きで、たまに入れ換えっこをしお互いを演じる事がある。
これが、たまに間違えそうになる理由だ。間違えたら、当分の間弄られてしまうので、注意が必要になる。
「見事なパラパラ加減、良い仕事してますね」
「カパネラ、ありがとうございます」
ガウンが褒められ礼を返した長身な女性は、森精族のカパネラだ。
長身でスレンダーな体型であり、美女とイケメンが両立してるような顔立ちで悠真から見ても美しいと思えてしまう。
そして、最も身体的特徴と言えば耳にあるだろう。ファンタジー小説に出て来るエルフと同じく尖ってる。
素肌も真っ白であり、まるで西洋人形を思わせる程に色白だ。俺は男だから羨ましく思わないけど、もしも女なら羨ましく思ってしまうと確信してる。
「あら?店長、ワタシを見てどうしたの?」
「いや、何でもないよ」
見惚れていたと口に出して言えない。
「店長、ホールの清掃終了した」
「カナリア、ありがとう」
彼女は、人間の少女に見えるが人間ではない。そもそも生物でもない。機械人と呼ばれる古代魔道具の一種だ。
古代魔道具は、迷宮と呼ばれる度々発見される魔道具の総称である。
作製方法は不明で謎に包まれており、迷宮で発見される事だけが共通してる。
大半が使用方法も不明で届け出も無しで所持されてる物以外は厳重に国で管理されている。
発見者には、莫大なお金が舞い込む事もあり、古代魔道具の発見は冒険者の夢の一つである。
その内の一つがカナリアという訳だ。ご飯要らず休憩要らずで、教えた事は直ぐに覚え応用も利く。
ただし、ご飯要らずと言ったが就寝する際に血を一滴与えるだけだ。
カナリアがパクっと俺の人差し指を加えチューチューと吸う。痛みは殆んどない。これだけで一日中働けるという。
最初は見た目が少女の姿なので戸惑ったが、地球で言うところのロボット的な物と分かり、そう接する事にした。
ただし、ここはファンタジー世界だ。魔法があるならロボットに心があっても不思議ではない。
だから、ロボットだと解った後でも俺は無理をさせず、出来る範囲で良いと言い付けているのだが、どうやら仕事好きのようで、ほっとくと何時までも動き続けている。
「では、仕込みを致します」
「いや、今は休憩中だ。カナリアも休め」
「でも、マスター」
「「でも」も「しかし」もない。みんなで休んでるんだ。一人だけ働いてると、逆に心が休めなくなる。だから、休め」
「マスター了解です。全力で休憩致します」
「はぁ~、休憩に全力もないんだが」
ため息をつくが、フェイフェイによると機械人はそういう物らしい。
マスターと登録された者のために休まず働く事が生き甲斐なのだそうだ。
普通の魔道具ならば酷似し続ければ、どんなに大事に扱おうともいつか壊れてしまう。が、古代魔道具は、どういう訳か壊れないらしい。
今現在も解明出来てないが、そういう魔法が付与されてるらしいという事。魔法陣を解明しようにも複雑過ぎて再現出来ないでいる。
そして、誰が何のために作製したのかも不明で世界七不思議の一つとして数えられている。
とうのカナリアは、俺の忠誠心以外は人間となんら変わらないように見える。フェイフェイによると専門の機関に持っていかない限り機械人とバレる事はないそうだ。