16食目、生馬麺その2
「生馬麺2入りましたぁぁぁ」
「はいよ」
麺系は、悠真の担当だ。生馬麺は、名前からして魚の秋刀魚が入ってると勘違いする人が度々いる。
日本の神奈川県の中華店が発祥とされ、生は「新鮮でシャキシャキとした」、馬は「上に乗せる」という意味があるらしい。
「ガウン、野菜は頼む」
「分かった」
中華鍋に大量のモヤシが投入される。戦時後に食べられ始められたからか、安い食材の代表格であるモヤシを大量に使う。
下手したら一般的なラーメンよりも価格が安く設定されてる店もある。
モヤシが多過ぎて目立たないが、モヤシの他に白菜と木耳をトッピング程度に入れる。
「さてと俺は麺を茹でるか」
悠真は二人前の麺を底が深いラーメンてぼに、それぞれ投入し茹でる。
人によるが、そのまま麺を鍋に投入して湯切りする者もいるが、素人がやると麺が暴れ折角の美味しい麺が台無しになりかねない。
だから、悠真はラーメンてぼで麺が暴れる隙間がないようにしている。
「醤油をどんぶりに注いでと」
中華大衆食堂「悠」では、生馬麺は醤油一択だ。日本で醤油以外に出す店もあるかもしれないが、それはもはや生馬麺ではない。
塩味だとタンメンに、味噌だと普通に味噌ラーメンになってしまう。
「うん、良い香りだ」
どんぶりに醤油を注いだだけで香ばしい香りが鼻まで漂って来る。日本人は、やはり醤油の匂いがすると自然と頬が喜んでしまう。
それにフェイフェイによる醤油の調合も完璧だと言わざる得ない。まるで数十年ラーメン一筋で店をやってきた店主みたいに思えてしまう。
「よし、ここに野菜から取ったスープを注いで」
醤油のかえしにスープで割ると生馬麺のスープの出来上がりだ。
醤油と野菜の匂いが合体し、何とも言えない良い香りを放っている。
バンバン
「自慢の麺を入れると」
これだけでも十二分に美味しそうだが、生馬麺に欠かせないのがモヤシがたっぷりと入った野菜あんかけだ。
これが無くては話にならない。
「ユウマ、野菜準備出来た」
「よし、乗せてくれ」
モヤシの塔が聳え立ち、麺とスープが雲隠れしてしまう。端から見ると大盛に見えるが、これで普通盛だ。
「よし、生馬麺二人前出来上がりだ」
「レンメイが持っていく。よいしょ」
小柄なレンメイが軽々と生馬麺二人前が乗ったトレーを持った。端から見るとハラハラするが、ガウンと同じ獣人であるため子供でも腕力はある。
「お待ちどう様です」
「きたきた、これだよ」
「この白いのはなに?!こんなに食べれないわよ」
山盛りのモヤシに驚愕を隠せないでいるシャラルラ。昨日のタンメンは完食したが、これは完食出来る自信がない。
「お熱いので、お気をつけて召し上がってください」
「さぁ食べるぞ」
「が、がんばるわ」
パクっシャキシャキっゴクン
炒めてあるはずのモヤシが、シャキシャキと新鮮な食感を残しつつネットリと餡が絡み蕩けるような喉越しで口から喉まで幸せに浸る気分になる。
噛めば噛む程に旨味も出て、あんなにあったモヤシの山が低くなり麺とスープが見える程まで減っていた。
たまに出るモヤシ以外の野菜もコリコリと食感を変え楽しい。
「━━━━っ!ヒィヒィ熱ぃ」
「大丈夫かい?」
餡掛けが麺やスープを覆ってるため中々温度が下がらない。初めてで知らないと火傷をしてしまう。
「ゴクゴクプハァ、知っていたなら言ってよね」
「ウェイトレスの女の子が言ってたじゃないか。まぁそんなオレも最初は火傷をしたもんさ」
まるで昨日のように最初に食べた生馬麺の事をヴィスティは思い出せる。
生まれて一番の衝撃だった。こんな美味しい物が存在するなんてと。
「どうだい、昨日食べたというタンメンとどっちが美味しいかな?」
「そうねぇ。決められないわ」
昨日のタンメンは、塩味の野菜スープがサッパリとして食べ易かった。体が欲してるかのように麺を啜っていた。
今日の生馬麺は、醤油味の野菜スープに山盛りのモヤシで食べ切れるか自信なかったけど、不思議とモヤシを食べる速度は落ちなかった。
熱かったのは驚いたけど、山盛りのモヤシを平らげた後も難なく麺とスープを飲み干せた。
どちらを選べと言われてもシャラルラには無理な話だ。それに今決めたらつまらない。まだ、こんなにメニューがあるのに一番を決めるのは速過ぎると内心で思っていた。