15食目、生馬麺
久し振りに再開した森精族のシャラルラとヴィスティは、自分達が一緒に過ごした期間から今までの事を時間を忘れ楽しそうに話した。
楽しく話してる内に夜更けを向かえる。流石に眠気が襲って来たのか、シャラルラは可愛く欠伸をした。
「いつの間にか、もうこんな時間になっていたのか。寝室に案内しよう」
「お願いするわ」
一人で住んでるためそこまで屋敷は広くない。案内は数分で済んだ。
「ここがシャラルラの寝室だ。客室だから綺麗だと思う」
「ありがとう」
「いやいや、久し振り会えて俺も楽しかった」
また明日と扉を閉めベッドにダイブする。森精族の里では草で編まれたベッドなだけに、ここまで柔らかくはない。
今日、中華大衆食堂「悠」で食べたタンメンの美味しさとベッドの柔らかさを知れただけでも森精族の里を出た甲斐が合ったというものだ。
「うーん、もう朝?」
ベッドの気持ち良さにいつの間にか寝ていたようだ。もう既に窓から太陽の光が射し込み、小鳥の鳴き声が心地好い。
「おはよう。シャラルラ良く眠れたかい?」
「えぇ、森精族の里にいた頃よりは眠れたわ」
「そうか、それは良かった。朝食が出来てるから待ってるよ」
着替えて部屋を出ると何やら芳ばしい香りが、こちらまで漂って来る。お腹が減るような匂いだ。
「ヴィスティ、あなたがこれを作ったの?!」
テーブルに並べられてる料理は、森精族の里で普段食べてる料理と比べるのが馬鹿馬鹿しく思える程に美味しそうに見える。
「ただの見様見真似だけどね。中々ここまで仕上げるのに何度試行錯誤したことか」
「まぁ森精族達は、里だと野菜や果物を精々切る事くらいだしね」
森精族の里にいた頃に食べていたアレを、中華大衆食堂「悠」や目の前に広がるヴィスティが作った料理を見ると料理とは全然呼べない。
「里の野菜や果物もちゃんと調理すれば美味しくなると思うけど」
「それは無理よ。長老達が許さないもの」
森精族の里から出ない森精族の長老達は、けして外部の者を里の中に入れず、外の文化を一切に取り入れようとしない。
森精族の里の伝統の一つとして食材には火を通さないというものがある。
「まぁそうだな。かくいう、俺もそんな考えが嫌で里を飛び出したんだ」
シャラルラもヴィスティと同じ考えを持っていた。閉鎖的な里にずっといたなら、いずれ里と一緒に滅んで行く運命だっただろう。
森精族を狙って里を襲撃する人間もいるにはいるが、その逆に今のヴィスティと同じく里を抜け出して人間に紛れて暮らしてる森精族もいる。
それにこの国なら森精族が住んでいても大丈夫だ。エリュン王国は、多種族国家で森精族の他にも獣人や土精族等々が住んでいる。
「食べた終わったら出掛けようか」
「えっ?何処に?」
「決まってるじゃないか。中華大衆食堂「悠」にだ」
軽く朝食を済ませ、中華大衆食堂「悠」に着く頃には昼間になっていた。
出掛ける前に庭で栽培している野菜を数種採取し、それをアイテムバックという魔道具に入れていたため、この時間となった訳だ。
「いらっしゃいませ。何名でしょうか?」
「二人だ」
「畏まりました。こちらの席へどうぞ」
お互いの顔が見えるよう向かい合うように座る。
「こちらお冷やでございます。こちらがメニューでございます」
相変わらず透明なガラスのコップにキレイな水が提供される。森精族の里の外では、これが普通かとシャラルラは昨日まで思っていた。
「あはははは、そんな事ないじゃないか。この見事なガラスのコップに美味しい水を飲めるのも世界広しと言えど、ここだけだね。それがタダで飲めるなんてサービスが良い証拠だよ」
「そ、そなのか?!昨日、里から初めて出て実感が湧かないが」
昨日も飲んだが、今日ヴィスティからそんな事を言われて飲んだ「悠」の水の方が一段と美味しく感じた。
「さてと何を頼もうか?」
「ワタシはタンメンでも頼もうかしら。昨日食べたタンメン、もう一度食べてみたいわ」
「うーん、タンメンならこれはどうだろうか?注文お願いします」
「はーい、ただいま」
たったっと犬獣人の双子の片割れであるスンメイが早歩きで注文書を片手に満面な笑顔で来た。
「生馬麺を2つ頼む」
「はい、生馬麺を2つですね?畏まりました」
スンメイが離れたところでシャラルラがヴィスティに小声で話し掛けた。
「聞いた事がない料理名だけど大丈夫なの?」
「何を言ってるんだい。ここの料理は、他の料理屋にはない料理ばかりなんだよ?常連客にならない限り、どれも知らない料理ばかりさ。なに、昨日タンメンを食べたのだろう?それなら気に入るはずさ」
名前からしても想像出来ない。麺ってついてるからには昨日出て来たタンメンに似た料理なのだろう。生馬麺が出て来るまで、ソワソワとしてるシャラルラであった。