14食目、タンメンその2
森精族のシャラルラは、悠真が教えてくれたとある場所を尋ねるところである。
その場所とは、中華大衆食堂「悠」が存在するエリュン王国内にある王都の隣にある二番目に大きい都市━━━━古都グリーデン。
その古都グリーデンに住んでるというシャラルラと同じ森精族を訪ねようとしている。
その森精族は、どうやら中華大衆食堂「悠」で扱ってる野菜達を、どうにか栽培出来ないか研究しているそうだ。
たまに試作品として出来上がった野菜達を中華大衆食堂「悠」に持ち込んでは、その野菜達で料理を作って貰うとかしてるらしい。
「ここの家よね?」
悠真が書いた地図によると、その森精族が住む家屋へ着いたようだ。
レンガ造りで壁沿いに蔦が這い廻っており、そこそこの築年数が経ってると見て分かる。空き家だと言われても納得してしまう。
だが、煙突から白い煙が昇り誰かが住んでる事は明らかだ。フェンスから覗き見ると庭が見える。
「えっ?!」
その庭を見ると、シャラルラは驚いた。中華大衆食堂「悠」で食べたタンメンに乗っていた野菜達に似てる植物が生えてるではないか!
「ゴクン、取り敢えず訪ねましょう」
コンコン
玄関のドアをノックする。煙が立ち昇ってるから誰かいるはずだ。
「はーい、どちら様?」
ギィーっとドアが開き、そこに立っていたのは自分と同じ森精族の男性であった。
「ねぇちょっと聞きたいんだけど、あの庭にある野菜達って、あなたが育てたの?」
「えぇ、そうですが……………あなたは?」
やはり合っていた。という事は、目の前の森精族が、あの野菜達の秘密を握ってる事になる。
「ねぇ、お願いがあるの。あの野菜達を少し分けて貰えないかしら?」
「もしかして、あなたも中華大衆食堂「悠」で、タンメンを召し上がれたのか?」
やはり、この森精族も?あの店主が、ワタシをここに来させた理由が分かった気がします。
あのタンメンに感動を覚え、ここで栽培をしているのだろう。自分で、あの感動を作り出すために。
「えぇそうよ。あのタンメンの味を再現するために、ここを紹介されたわ」
「ここでは何だ、中で話そう」
家の中はテーブルが真ん中にポツンと一卓と椅子が二脚だけあるのみで生活環があんまり感じられない。
「何もなくて済まないね。お茶でも出そう。そこに座って待っててくれ」
「お構い無く」
森精族の男がお茶を入れるため奥に行った隙に周囲を見渡すが、本当に何もない。
本当にここで暮らしてるのか?まぁ森精族自体が元々森で暮らしてるため、森精族の里を出ても物をあんまり持たないと言われている。
「お待たせ。少し気になったけど、もしかして君はシャラルラかい?」
「?!えぇ、ワタシはシャラルラよ。もしかして昔、里にいたのかしら?」
森精族の里と言っても一つだけではない。集落みたいなもので、いくつかに点在している。
「あっはははは、覚えてないかい?シャラルラの従兄妹のヴィスティだ」
「えっ?!ヴィスティ!本当にヴィスティなの」
嬉しい再開にシャラルラの瞳から涙が出る。昔、シャラルラが小さい頃、近所の兄として慕っていたのがヴィスティだ。
かれこれヴィスティが里を出て行ってから百年が経つが、長寿として知られる森精族にとっては百年はほんの数年位の感覚だろう。
「あっはははは、本当に懐かしいな。オレもシャラルラに会えて嬉しいよ。それで訪ねて来たのは、ユウマに紹介されたのだったね」
「えぇそうよ。それで来た時に驚いたわよ。だって、庭先に似たような植物が生えてるんですもの」
そういえば、ユウマって言ってたわね。
シャラルラは同じ森精族以外だと興味を持った者以外の名前を覚えようとしない。
「あぁ研究の成果ってやつだ。だが、まだあの野菜達には程遠い」
庭先を見詰めながらため息を吐くヴィスティ。でも、何処か楽しそうでもある。
「そうだ、久し振りに会えたんだ。狭いがここに泊まって行くと良い」
「ありがと。遠慮なく泊まるわ」
「昔のようにお兄ちゃんと呼んでも良いんだよ?」
「それは遠慮しとくわ」
一瞬本当に呼びそうになるが、ギリギリのところでお茶を飲んだ事で引っ込められた。
「このお茶美味しい」
「そのお茶の葉もユウマから貰ったものだんだ。シャラルラと話していたら久し振りに明日にでも中華大衆食堂「悠」に行こうか。シャラルラもどうだい」
またあのタンメンが食べれると妄想しただけでシャラルラの選択肢は一つだけであった。
「えぇ、ワタシもお供しようかしら」