13食目、タンメン
カランカラン
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
「ここは中華大衆食堂「悠」で合ってるか?」
「はい、こちら中華大衆食堂「悠」で合ってます」
ちゃんと店外にデカデカと中華大衆食堂「悠」と書いてあるが、書いてある文字が日本語なのだ。
常連や悠真と同じ異世界転生・転移した者じゃないと読めない。
「そうかここがそうなのか。すまない一人だ。席は空いてるか?」
「はい、ご案内致します」
レンメイが耳が尖ったお客様をカウンター席へ案内する。この席からだと、うっすらと厨房が見える。
「こちらお冷やとオシボリで御座います。これがメニューで御座います。お決まりましたら、お呼びください」
「いや、もう決まっている。何か肉を使ってない料理を出して欲しい」
「畏まりました」
注文を受けたレンメイは厨房へ消えていった。たまに食せる食材を指定して注文するお客様もいる。
そして、今回来店したお客様は耳が尖ってる事が一番の特徴である森精属だ。
肉が食べないのは好き嫌いではなく、種族上の理由で食べれない。肉を口に含んだ瞬間、排泄物に似た匂いが鼻に付き、ゴーヤ以上の苦味を感じてしまうらしい。
そして、もし食べられたとしてもお腹を壊してしまい、数週間はお腹の調子が治らないとか、そんな理由で肉類は食べれない。
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「肉を使ってない料理を御所望です」
「分かった。俺が作ろう」
「ガウンは野菜を炒めてくれ」
「了解だ」
ちょうど悠真が仕込んだ野菜で出汁を抽出したスープがある。これで数種類の塩で調合した塩タレと合わせ、茹でた中華麺にガウンが炒めてる野菜達を盛り付ければタンメンの出来上がりだ。
因みに醤油味にすると違う料理名になるが、それは後程出そう。
野菜スープが入ってる寸胴鍋には、様々な野菜の切れ端が入ってる。
タマネギの皮と頭、ニンジンの皮と頭、キャベツの芯、シイタケの軸、ネギの青い部分が底に沈んでいる。
普段食べないところでも出汁になって実に美味しい。食べる箇所よりも栄養価は高い。
ガウンが炒めてる野菜達は、キャベツ3枚、ニンジン1/4、もやし30g、キクラゲ5gをゴマ油で炒めてる。
野菜達は宙を舞い、均等に火が通り余計な油を落としている。それでいて、野菜達の食感は残している。
最高と言える中華鍋使いと火入れだ。これだけならガウンに抜かされるのも時間の問題か。
「スープOK」
ラーメンどんぶりに特製塩タレと悠真が丹念に煮出した野菜スープを注ぎ入れる。
バシバシ
茹でた中華麺を水面張力を切るように湯切りし、菜箸を使いラーメンどんぶりのスープ内に浸し盛り付ける。
その上からガウンが炒めた野菜達を乗せてタンメンの出来上がりだ。
「タンメン一丁」
「はーい、タンメン通ります」
カパネラが出来立てで湯気が立つタンメンをトレイに乗せ注文された森精族の女性に提供する。
「お待たせ致しました。こちらタンメンになります。お熱いですので、ご注意下さいますようお願い致します」
「えぇ、分かったわ」
予想以上の器の大きさで驚きつつも頂く事にする。
「先ずはスープからですわね」
山盛りに盛り付けられてる野菜達の下からスープが覗いている。金色に輝き美しいスープは、200年は生きているこの森精族の女でも初めて見るものだ。
どんなに美しい自然の景色よりも心を奪われ味わう事を一瞬忘れてしまっていた。
「これで掬えば良いのかしら?」
ラーメンどんぶりに備え付けられたレンゲを手に取りスープを一口、口に含んだ。
シャキムシャ
飲んだはずなのに、新鮮な野菜を歯で噛んでるような錯覚に陥る。
「なんという濃厚な野菜の味がする。どれくらい煮込んだら、こんな風になるの?ワタシの体が喜んでるのが分かるわ」
血管を通り野菜の成分が体の隅から隅まで行き渡ってるのが実感出来る。これは魔法の料理なのだろうか?
魔法が得意とされる森精族にとって気になるが、今はそれよりも麺の上に乗ってる野菜達が気になってしょうがない。
自然と共に生きる森精族には知らない植物はないとされるが、目の前にある野菜達はどれも見た事がない。
一体どんな味がするのか想像が出来ない。そう考えるだけでゴクンとノドが鳴る。
今まで食事なんて、ただの空腹を満たすだけの行為しか思ってみなかった。
だが、今日この時を持って考えが180°ガラリと変わった。この店なら毎日でも来たいと思ってしまう。
「これは確か麺という食材であったか?」
野菜達の下には細長い、一見虫に見えるが虫ではない黄色い物体が姿を現す。
麺を知らないと、虫に見え驚く者がいる。だけど、森精族の女は博識で、これは虫ではないと看破する。
ズズゥゥゥゥ
「野菜の旨味を吸って旨い。旨過ぎる。済まない、店主を呼んでくれないか」
カナリアに呼ばれ、森精族の女の前に立つ悠真。
「そなたがここの店主なのかしら?」
「はい、中華大衆食堂「悠」の店主、悠真です」
「ワタシは森精族のシャラルラよ」
人間である悠真が店主だという事実に驚きを隠せないでいるシャラルラ。
偏見も混ざってるだろうがシャラルラの知識には、人間はもっと野蛮で、もっと質素な食事ばかり取っていると思っていたからだ。
「済まない、少し驚いだけよ」
「いいえ、それでお楽しみして頂けましたでしょうか?」
「美味しかったわ。それで頼みがあるのだけど、この上に乗っていた野菜を少し別けて頂けないかしら?」
「えぇ、良いですよ。それよりも良い情報を教えましょうか?実はですね」
悠真から聞いた情報に目をパチクリと瞬きをし驚愕したのである。