11食目、麻辣火鍋辛さ星10その2
「麻辣火鍋辛さマックス4人前入りました」
「り、了解」
辛さマックスと聞き、厨房内は不穏な空気に包まれた。他の辛い料理でも辛さのレベルがマックスが注文されると、今のように暗い空気となる。
料理長である悠真が提案した事なので、フェイフェイとガウンは従うのみだが、毎度辛さマックスの料理が注文される度に嫌な顔をする。
中華料理人をやっていると、職業病というべきか辛さを追及したくなってくる。
辛味成分であるカプサイシンが、主な辛い原因であり、気体になり難いため唐辛子を砕いた程度では辛味は減らない。
それが鍋やカレー等の汁物を煮ると、水分と共に空中へ舞い目やノドに入ると、大変な事になる。
まるで阿鼻叫喚状態となり、目から涙が溢れノドがやられると暫く声はまともに出せなくなり咳き込んでしまう。
ただし、このために水泳で使うようなゴーグルと簡易的なマスク、手に触れても良いようにゴム手袋を用意してある。
俺を含め厨房にいるフェイフェイとガウンも完璧に装備し、調理開始だ。
「浸けダレだな」
腐乳4個を匙で良く潰しペースト状にする。そこに胡麻油250ccを入れかき混ぜる。お好みで芝麻醤を入れても良い。
店では、上から掛け回す程度にしている。それと腐乳の匂いが苦手なら塩を少々入れると良い。
「これで浸けダレは完成だな」
「クンクン、少し臭いんだな」
俺にとって腐乳の香りは芳ばしい。肝心の料理人が専門料理の匂いが嫌いであっては仕事にならない。
ただし、中華にはないクサヤやブルーチーズの匂いは逆に苦手だったりする。
獣人であるガウンには、鼻が他の種族よりも利くようで匂いが強い食材は基本的にダメらしい。だけど、ガウンも料理人になった以上慣れようと日々頑張っている。
「次は香味油」
スープに香りを付けるため香味油を作った後、スープを作る。中華料理は、香りも大事にする。
香味油は、胡麻油大匙5に花椒大匙2、大蒜三片を微塵切り、ネギ一本を微塵切り、豆板醤大匙6を焦げないよう4分程に炒める。
「ここにスープの材料を」
水1000cc、八丁味噌大匙2、ラーメン用のスープとして煮出した鶏ガラスープ1000cc、フェイフェイが調合した五香粉小匙2、老酒大匙3、オイスターソース大匙2、鷹の爪10本微塵切り、ブート・ジョロキア(辛さ世界一位にもなったことがある。別名:ゴーストペッパー)10本微塵切り、八角2輪、干棗5粒、クコの実大匙1、茴香大匙2、陳皮2片,生姜薄切り4枚、桂皮大匙2を入れる。
だけど、注意が必要がある。唐辛子である鷹の爪とブート・ジョロキアを微塵切りする時はゴム手袋が必須だ。
余りにも辛さの単位:スコヴィル値が異常に高いため、粉が皮膚に触れただけで痛みが生じる事があるのだ。
「入れて強火で煮詰めればスープの完成だ」
メインの具材は、ラム肉、魚介類、葱、玉葱、白菜、水菜、大根、人参、豆腐、春雨、茸を適度な大きさに切り分け大皿に盛り付ける。
そして、〆としてラーメン、うどん、ご飯等色々あるが、今回はうどんを用意した。
「料理長、スープが沸きました」
「よし、火を消して……………さっさと運ぼう」
早く運ばないと、厨房に辛さ成分が充満して他の調理に影響出かねない。
スープを注がれた鍋に蓋をし、具材を盛り付けられた大皿をカートに乗せレンメイが運ぶ。
「お待たせ致しました。こちら麻辣火鍋辛さマックスでございます。具材をお好きに入れ、煮詰まりましたらお食べになってください」
鍋の下にガスコンロを引き、ボンと練習通りに火を点けてから、レンメイは蓋を開けられる前に部屋から退散する。
「よし、開けるぞ」
隊長が鍋の蓋を開けると、プハァーっと湯気が立ち上ぼり、それと同時に辛味成分が宙に舞う。
「ゲホゲホ、隊長何ですか?!これは」
「何かのトラップですかい」
「きゃぁぁぁぁ、目が…………目に染みるぅぅぅぅ」
「そんな訳なかろう。良い匂いではないか」
隊長以外の隊員には地獄のような苦痛の表情をしている。辛い物好きにとっては頬を緩ます程に食欲を祖剃る香りにしか思えないが、初めてだと耐えられない。
「それにスープが真っ赤だし、隊員これ本当に食べられるんですか?」
まるで血のような、魔女が鍋を掻き回す様子が容易に想像出来てしまう程に真っ赤に染まってるスープ。
いくら王国に支える騎士でも尻込みしてしまう。まだドラゴンと戦った方がマシというもの。
「食べる前から難癖付けるのは良くないぞ。旨い不味いは食ってからにしろ。ほら、早く具材を入れろ」
隊長の言う通りに大皿に盛ってある具材を次から次へと投入する。