10食目、麻辣火鍋辛さ星10
全体に甲冑を着込み、腰にはロングソードを差してる人間の男性四人組が店を訪れた。
一人は隊長と呼ばれており、甲冑の胸元にこの国のシンボルマークが刻印されている。
おそらくこの国に仕える騎士団なのだろう。因みに勝手に国のシンボルマークを使用する事は犯罪となり、最悪死刑となる重罪だ。
「いらっしゃいませ。4名様でしょうか?」
「あぁ、個室は空いてるか?」
「はい、空いております。銀貨二枚となりますが、よろしいですか?」
「あぁ、頼む」
4人の騎士をカンパネラが個室へ案内する。
他の者に聞かれたくない話をする客や重役の貴族、お忍びで来る王族等が個室を利用する。利用料金として銀貨二枚を取っている。
高いと思われ価値だが、個室部屋には魔法が掛けられており一切外に音が漏れない仕組みとなっている。ここ以上に安心して話せる場所は中々ない。
「こちらになります。呼ぶ時は、こちらの鈴を鳴らして下さい。では、失礼致します」
テーブルの片隅に給仕を呼ぶための鈴、調味料が入ってる小瓶、美味しそうな写真が貼られてるメニューが置いてある。
部屋の片隅には、衣服を掛けるハンガーや剣等の武器を置く壁掛けに甲冑を置くためのロッカーまでついている。
冒険者も多く「悠」の料理目当てで訪れるため、こういう作りになっている。
「まさか隊長が奢ってくれるなんて、空から槍が降ってくるんじゃないか?」
「いやいや、空の彼方からドラゴンがきっと来るぞ」
「魔王復活とかが一番ありえるっす」
「おい、お前らなぁ。なら、割り勘にするぞ」
「「「そりゃぁ、ないですよ」」」
わっははははと隊長の冗談に部下達は高笑いをする。隊長は、一回した約束を反故にしない主義だと部下達は知ってるので、こんな風に冗談だと笑っている。
だけど、それが阿鼻叫喚な事には思いも知らずに。
「そうか。なら、取って置きの料理を頼むとしよう」
隊長がテーブルに置かれた鈴をチリンっチリンと数回鳴らした。
そうすると数秒後にカナリアが個室のドアを開け現れた。
「失礼致します。オシボリとお冷やでございます。ご注文はお決まりでしょうか?」
「あぁ、麻辣火鍋を四人前頼む」
「繰り返します。火鍋を四人前ですね。辛さのランクはどうしますか?」
「全員、辛さマックスで頼む」
「本当に宜しいのですね」
「あぁ、大丈夫だ」
辛い料理には辛さランクという辛味のレベルがあり、星の数が多い程に辛くなる。マックスは星10個だ。
カナリアがドアを締め、去るのを確認した後にガブガブと水を飲み干した。
今まで甲冑を来たまま訓練をしていたので、ノドがカラカラで仕方なかった。
「この水、美味しい」
「ほれ、このオシボリで顔を拭くと気持ち良いぞ」
「隊長は、このお店来た事あるんですか?まるで常連のようでした」
「あぁ、嫁と娘で来たことあるな」
あれは娘であるラピスの誕生日から少し経った日に来た。ラピス誕生日間近は、陛下のご息女であらせられる第二王女アテナ様の誕生日に呼ばれており、娘の誕生日を祝う時間がなかった。
それで久し振りに外食をと少し遠出をした時に、このお店を見つけた。
その時、ラピスはチャーハンとなるものをいたく気に入っていたのを覚えている。
それからというもの、隊長は時間が許す限り通い詰めた。どの料理も美味しく、それに加え庶民にも払える程に値段がリーズナブルだ。
「隊長は、娘さんに滅法甘いですからな」
「そりゃぁ、違ぇねぇな」
「訓練の休憩中にも娘さんの話ばっかだ」
「でも、隊長が娘さんの話をする気持ちも分かる。だって、まだ祝福を受けてない時で既に強かったのに、祝福を受けてから益々強くなられたからな」
「それは当たり前だろ。俺の可愛い娘だからな。あっははははは」
部下四人は、既にまだ5歳にも満たなかった頃の隊長の娘であるラピスに、ぼろ負けしている。
最初は油断していたが、徐々に他の仲間達が次々とラピスに負けるところを目にすると、既に油断という気持ちは失くなり、絶対に負けられないという勢いが先走った。
そのせいもあり、動きを読まれてはカウンターを喰らい、あっさりと負けた四人組が、この四人である。
「それで隊長、火鍋という料理ってどんなものですか?」
「まさか、魔法で火を食べると言いませんよね?」
「バカか。それじゃぁ、ただのバツゲームじゃないか」
「なら、どんな料理か知ってるのですか?」
バチバチと部下の間に火花が散る。だが、口は悪いがケンカまでは発展しない。
それは自分の立場が解ってるからだ。冒険者ならケンカになり得るが、彼らは王国に支える騎士隊の隊員だ。
自分らの仕事は、けして民を困らせる事ではなく護る事にある。ここでケンカしては、この店を経営してる悠真が困る事になる。
今となっては、悠真も立派な王国の民であり、護られる対象となる。
それに、隊長のお気に入りの店となった今では、誰もこの店を壊す事は出来ないだろう。