1食目、中華大衆食堂「悠」
おそらく昼頃の時間帯、昼食という文化は特にない世界だけど、飲食店らしき店内は活気に溢れる。ほぼ満席になってる。その店内の広さは、ざっと見積もってテニスコート12面分はある。
そんな中で一際忙しく店内を歩き回ってる女性達がいる。その女性達が着飾ってる衣装は、この世界では見ないものだ。
赤を基色としほぼ金糸で旗袍の柄が刺繍されている。9割方素足が見えるまでのスリットが入ってるチャイナドレスと足元は赤いパンプスで着飾り、髪をお団子で纏めてる。
その女性達の主な仕事は、お客様の注文を聞き、出来上がった料理を運んで、食べ終わった食器を片付け、最後にお会計と外までお見送りまで徹底してる。
彼女達の容姿を見て勘づいた者もいるだろう。そう、ここは中華料理を専門に出す中華料理屋である。
だが、この店がある場所が普通じゃない。地球の何処でもない場所。異世界にあるのだ。
この店が出来たのは、およそ5年前。そして、今厨房でお湯を張ってる寸胴鍋で麺茹でてるのが料理長兼オーナーを勤める林田悠真だ。悠真が召喚されたのも、およそ5年前だ。
悠真が異世界に来た経緯を軽く話して置こう。
悠真が召喚される前は、日本という国にある横浜という場所で中華料理店を経営してたような記憶がある。
だけど、記憶にあるのはそこまでだ。自分自身死んだのか?ただ単にこの世界に転移したのか不明なのだ。
それでも異世界に来てしまったものは仕方ない。悠真自身、良く異世界ファンタジー物のラノベを読んだ事があるので、そこまで驚きはない。むしろ、ワクワクの方が勝ってる。
そして、悠真が今立ってる場所こそが、現在悠真が料理長兼オーナーを勤めてる中華大衆食堂「悠」の前であった。
「これは俺の店?」
初めて見る建物なのに、頭の中で『ここは自分の店』と認識した。恐る恐る自分の店らしい建物の引き戸を開けると、中華風の内装でテーブルや椅子が全て揃ってる。
肝心の厨房を覗いてみると食器は食器棚に整頓されており、鍋や包丁等の料理器具は全て揃ってる。後は材料さえあれば、直ぐにでも開店出来る状態であった。
「これは一体?誰が何のために用意したんだ?」
つい店の中へ入ってしまったが、そんな疑問を浮かべる。そんな時に、ピコーンとゲームでビックリマークが浮かぶ時の効果音にそっくりな音が頭の中に鳴り響く。
「な、なんだ?」
ふと、目の前に携帯のメールのマークがちらつく。それを何となく指先でタッチしたらパソコンのウィンドウらしきモノが開いた。
そこにはこう書かれていた。
『やっほー、林田悠真くん元気かな?
ボクは信じて貰えないだろうが、君達で言うところの神様だ。名前は、そうだね。リオウと呼んで貰おうかな。
回りくどい事は苦手だから単刀直入で言おう。地球の神様が誤って君を━━━━悠真くんを死なせてしまったんだ。
同じ世界では蘇らせる事は出来ない決まりでね。そこでボクの世界で蘇らせる事にしたのさ。
違う世界だけど、神様が死なせてしまった事には変わらない。悪いと思ったけど、悠真くんの頭を覗いて一番の願いを叶えさせて貰った次第だよ。
その悠真くんがいる店もその一つと捉えてもらっても構わない。まだ、あるけど全てを教えちゃつまらないからな。
ヒントをあげよう。ステータスオープンと唱えてごらん。頭の中で思うだけでも良い。じゃぁね、また会うその時まで。
神様リオウより
追伸、ボクも下界に降りて食べに行くかもしれないから、その時は宜しく頼むよ』
神様リオウのメールを貰ってから、およそ5年の月日が経った。
毎日、昼夜問わずほぼ満席になる程の賑わいを見せ、忙しい日々を過ごしてるが楽しくてしょうがない。
蘇らせてくれた事と店をくれた事にも神様リオウには感謝しかないが、まさか従業員まで用意してくれるとは思いもしなかった。
「昼の部は終わりだ。長くはないが、各々休憩を取ってくれ」
中華大衆食堂「悠」は、昼の部(12:00~15:00)夜の部(18:00~21:00)に分けて営業してる。
休憩がてら従業員を紹介しよう。
余り物の食材で賄いを作ってるのが、俺以外で唯一の男であるガウンだ。熊の獣人らしく筋肉はガッシリした2mを超す大男だ。片手で中華鍋を難なく振り回し火力を使いこなす。中華大衆食堂「悠」の焼き物担当をしている。
今となっちゃ、中華大衆食堂「悠」の戦力となってる。おそらくガウンがいないと、中華大衆食堂「悠」は回せない。
だけど、頭上に熊耳があり、それがギャップ萌えになる。のは本人には内緒だ。
そして、もう一人の厨房担当が職業:魔導師であるフェイフェイ・ルーファン。
黒髪で本来腰まであるが、お団子に纏めスッキリしている。スレンダーな体型で、魔導師でありながらカンフーが似合いそうな女の子だ。
ガウンとは対称的に150cmと小柄に加えその細腕では、中華鍋を奮えない。その代わりに揚げ物や点心を担当してる。
それに加え、魔導師であるため調合が得意な事を生かし、香辛料の調合や料理に適切な食材の配合を担当してる。
これに関しては、悠真自身も舌を巻くしかない。自分が配合する時よりも美味しく出来上がる。嫉妬心を覚えるが、料理人として尊敬の念の方が勝ってる。