伝説の剣を抜いた勇者のパーティー
編成事故。という言葉がある。
ゲームなどで、ランダム性のあるマッチングの結果、編成が極端に偏ったときに使われる。
そして似たようなことは、異世界でも起きていた。
「じゃあまず、自己紹介しようぜ! まずは俺から。俺は魔術師だ。近接は苦手だが、火力なら任せてくれ!」
「お、奇遇だな! 俺も魔法系……俺は魔導師。同じく近接は苦手だが、サポートは任せてくれよな!」
二人が各々の役職を名乗った瞬間に、私ともう一人は、嫌な予感がして顔を見合わせる。
お互いに首を小さく横に振って、ならばと私から先に名乗ろうとしたところで、彼女が先に口を開いてしまった。
「あの……えっと、私も、です。私は呪術師……近接はちょっと、でも、殲滅力なら任せてください!」
うん、そうだろうなとは、思ってた。
だって彼女も、身長より長い呪術師用の杖を持っているんだもの。
そして最後に、残された私に視線が集まる。
「えっと……私は、空気を読めなくてごめん。私のジョブは、勇者……です」
その言葉を聞いた瞬間に、三人は胸をなで下ろす。
緊張が弛緩して……本当に、申し訳ない気持ちになる。
だけど、言わなきゃいけない。
「うん。勇者ではあるんだけど……いわゆる『伝説の剣を抜いたビルド』っていう奴で……」
三人のうちの一人、ウィザードを名乗った男の人が「おい、まさか……」という言葉を漏らす。
うん、申し訳ない。そのまさかなんだ。
「つまり僕は、勇者という職業の素のMPの高さを利用した、魔術型の勇者……なんだ、ごめん」
「……え、マジマジの、マジ?」
「嘘だろ、四人も集まって、近接戦闘できる奴が一人もいないのか? なあ、紛いなりにも勇者なんだろ? なんとかならないのか?」
「うん。なんともならないね、剣術はある程度できるけど、防御力はないから。みんなには申し訳ないんだけど、このステータスで前線を任されるつもりはない。僕だって命が惜しいんだ」
とても勇者の台詞とは思えないようなことを言うと、三人とも全てを察したように肩を落とした。
勇者というジョブがある。
これは、非常に優秀なジョブだ。
全体的にバランスの良い基礎ステータスで、能力の上限値もかなり高い。
伝説の剣と呼ばれるアイテムを持つことで、基礎能力を限界突破することができる。
それこそ、たった一人で前衛を支えることもできるほどに。
だけど僕は、勇者というジョブを手に入れておきながら、剣を振るのが好きになれなかった。
手にタコができるほど毎日剣を素振りして、体中傷だらけになりながらみんなを守る。
そんな姿をみても「ああ、すごい人もいるんだな」と、どうしても自分事になれなかった。
結果として、今の僕がある。
剣の代わりに魔術用の杖を持ち、サポートから回復から攻撃まで、あらゆる魔術を使いこなし、後方から仲間を支える。
いわゆる『伝説の剣を抜いた勇者』というやつだ。
こう見えて、剣士や闘士などの近接職が他にいるパーティーでは、僕の存在は活躍できることが多い。
ただ、今回は駄目だ。
あまりにもバランスが悪すぎる。編成事故にもほどがある。
「だから、みんなには悪いんだけど、今回のクエストはやる前から失敗。運が悪かったと思って……」
失敗の報告を出しに行こうよ。
そう口にしようとした瞬間に、魔術師の人が机を拳で叩いた。
机の上に載っていた料理がこぼれ、僕は慌ててお酒の入ったグラスが倒れないように支える……
「ふざけんな! 俺は諦めないぞ! 諦めることが……出来ないんだ!」
悔しそうな顔をする彼の気持ちも……いや、僕はあの人のことをよく知らないから、簡単に「気持ちはわかる」なんていえないんだけど。
そんな彼の肩を、魔導師の人が優しくなでる。
「まあ、落ち着けよ。気持ちはわかるが、この編成ではどうしようも……」
「気持ちはわかる、だと!? 俺はこのクエストに失敗したら、ランクが降格するんだぞ? せっかくここまで這い上がってきたのに……それをお前、気持ちがわかるだと!?」
「いや、だがどうしようもないだろう……」
「どうしようもない!? やる前からどうしようもないといって、諦めろというのか!? 俺はランク降格がかかっているんだぞ!?」
うわ〜、面倒くさい奴だ、絡み酒って奴だ!
僕が「気持ちはわかるよ」なんて言わなくて良かったー! ……でも、どうするんだろう。
もう、帰っても良いかな……いや、ここで帰ったら、絶対あとで面倒くさいことになる……