無機質な不快感 ラジオ
同タイトルで投稿あり、連載しています。
【改訂版】無機質な不快感
純文学です。
鈴木 祐は、深夜番組のラジオを捻った。
兄のお下がりであるラジオは、年代物だった。スピーカから流れる音は、基地局を探している。
ハウリングを起こしながら、音が止まる。
ザザザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
音は無機質に流れ出す。
カチッ。
『え〜〜、今迄のは序盤でして……。ここからが、話の本筋となります。』
自宅の部屋にある勉強机で、大学受験の勉強をしていた祐の指が止まる。
時計の針が1時44分を指している。
『まあ、もしかしたら話を聞き終わった人は、同じ体験をするかもしれないと云う安直な話でして……。』
祐が参考書のページを捲り、流し読みをしている。
『四人の男女が曰く付きのラブボテルに肝試しに行くのですが、二組のペアで回ろうとなって、先に投稿者さんから女の子の乳を感じながら、懐中電灯を持って歩き始めました。投稿者さんをAさんとします。Aさんは所謂、見える人で……。』
ザザザザザザーザザザーーーーーーーーーーーーーーーー
『視界の角に、黒い棚引く髪が見える訳です。Aさんは流石に不気味に思いまして、後ろを振り返りました。ですが、誰も居ません。女の子も肌で感じるのか、同じ所を見ます。足元には散乱しているガラスと、一番怪しいと云われている奥の部屋しかありません。扉は外され部屋の内部が露わになっています。しかし、黒くて見えません。この部屋は、不倫の末に身籠って、別れ話が拗れ、男を刺した後、放火して多数の死傷者が出たと云われています。しかし、Aさんは今迄、焼跡等見なかったと……。』
グググググーーーーーグググーーーーーーーーーーーーー
祐がラジオを見た。
赤いランプが点滅している。
誤作動ではない。
バン
と音がする。
「何やってんだ?受験生は大変だな……。」
驚いて祐は扉を見た。本を片手に立ち上がり、扉を閉めた。
「驚かせないでくれ。」
祐は心臓に手を当てている。
「夏の怪談を聞いてるのか?」
「はあ……、ありきたりの話だな。」
兄は鼻を鳴らし、ベットに座った。
『部屋は何でもないのです。ただ、黒いススの壁紙が一面に貼られていて、それを隠す様に朱色で書かれた御札が張り巡らされているのです。女の子は悲鳴を上げ、Aさんに抱きつきます。細い指を指した方から、……ガリガリ、……ガリガリ、……ガリガリと音がします。Aさんは懐中電灯を音のする方へ向けます。そして……。』
グルルルーーグルルルーーグルルルルルルルーーーーーー
「おい。これぶっ壊れてねえか?」
兄が立ち上がり、ラジオの上部を殴った。
グルルルーーグルルルーーグルルルルルルルーーーーーー
音は止まらない。
二、三発殴る。
祐は舌打ちした。
「うるせーな。あれ、音がとまった。」
『一目散に女のコの手を取り走り出した。後ろを振り返る余裕はない。後から来たペアが合流して、泣いてる女の子を介抱している時に振り返りました。誰も居ない。話しかける暇を与えず、帰るぞしか云わないAさんをよそに、友人のB君は興味を持ってしまいます。その部屋へ一人おもむく事になりました。Aさんは何度も止めたそうです。仕方なく、三人は車で待つ事にしました。夜が白み出し明るくなり始めても、B君は戻りません。時間だけが進みます。Aさんは懐中電灯を持たず、あの部屋へ向かいました。』
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
「何だよ。また、変な所で、ハウリングをおこしやがる!」
兄がラジオの上部を一発殴ると、部屋が静まる。
夜の静けさが肌に伝わる。
チコチコと時計の秒針が、2時を知らせる。
『足取りも重く、部屋に向かいます。ラブホテルだからか太陽の日差しは壊れた窓からしか入りません。足元も悪く歩いて行くと、……ガリ、……ガリ、……ガリ、と音がします。それは奥の部屋から聴こえます。Aさんは恐る恐る部屋を覗きました。そこには、女と同じで眼球を見開き、涎を垂らしながら壁を引っ掻く、B君の姿がありました。一心不乱に、爪が剥げているにも関わらず、壁を引っ掻いています。Aさんは、B君を羽交い締めにし、部屋から引きずり出しますが、正気に戻りません。馬乗りになり、顔面を殴ります。そうすると、B君の呻き声が聞こえました。』
しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんとした祐の部屋の空気が伝わる。
その時、りりりりりりりりりりりりりりりりりりりとスマホの音がした。
祐は画面を見る。
恋人のひとりである“ゆり”から電話だった。直ぐにハンズフリーで答える。
「どうした?」
「あのね。あのね。偶々、付けたラジオで会談が流れてて聴いていたの。そしたらね。ドアをノックされたり、壁から変な音が聞こえて来たの……。でね。怖くなって、ラジオを他の局に回したのに、騒音しかしなくて、今、CDのクラシック流してるの。でもね。壁から音がするの……。今、家に、一人しかいないのお盆で皆、実家に帰っちゃったの。怖いよ。家に、来て……。」
「分かった。家の鍵だけ開けておいてくれれば、直ぐにいくよ。」
「部屋から出るの怖いよ。」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ラジオから音が聴こえる。
「そう。そのラジオの音が段々女性の悲鳴に聞こえてきて、女の悲鳴になるの。もう、怖くて、怖くて。」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
「はあ?何いってんだ?何も聞こえないだろう?」
祐が首を傾げた。
兄がラジオから電源を抜いた。
「聞こえないのは、俺に感謝しろよ。」
兄は微笑んで、ベットに座った。
祐はジーンズに履き替えると、部屋から出る。一緒に兄も出てきた。
二人は階段を降りた。
台所で水を飲む母が、祐を見た。
「あら?どこに行くの?」
「コンビニ。」
「受験生はお腹空くものね。いってらっしゃい。」
「あのさあ。兄貴のラジオ壊れてるよ。赤いランプが点滅してから、音がならなくなった。」
母が、訝しい顔をした。
「何をいってるの……。貴方、一人っ子でしょ……。」
祐も驚いた顔をしている。何故か、小さい時から兄が話しかけてくる感じがしていたからだった。
「確かに、小さい時、胎教の為にラジオの音楽は聞かせていたけど……。もしかして……。」
母が悩んでから伝えてきた。
少し躊躇った顔をしている。
「祐の前の、死産した赤ちゃんの事を話してるの?貴方に話した事なんかないでしょ?何で知ってるのよ……。」
「いや?兄貴のラジオな気がして……。」
「確かに、その子にもラジオは聞かせていたわよ。お盆だから帰ってきたのかしら?でも、もう昔の事ね。」
兄は仏間に歩いて行って、母と祐に少しだけ手を振った。
「俺は、着いて行けないからな。お前しか守れない。ごめんな。」
祐は家を出る。
恋人のひとりの“ゆり”の元へ急いだ。自転車に跨り、夜の街を駆ける。
家に着いてからラジオのAさんと同じ体験をするとは知らずに…………。
ザザザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
完結
宜しければ、ブクマ、☆☆☆☆☆をクリックして頂けると嬉しいです。
同タイトルで主人公同じす。
無機質な不快感 純文学です。
https://ncode.syosetu.com/n2752hg/