暇つぶしにお茶を淹れてみた
朝起きるとまず一杯お茶を飲む習慣があった。
緑色の粉末をカップの底へと落とすと、薫りがふわっと鼻へと通った。
先ほど沸かしたお湯をポットから注ぐと、緑茶はすぐに出来上がった。
いつからか、緑茶派になってしまった。
幼いころは麦茶で、大学生になってからコーヒーを飲んでいたのに、ここ一年ずっと緑茶だったから、いつの間にかすっかり朝は緑茶を飲むようになっていた。
とはいえ今日私が飲むのはインスタントだ。もらった高級そうな葉っぱがあるのだけれど、もったいなくて使えていない。
一口飲んでみるが、インスタントの緑茶はいつも飲んでいたものより美味しくない気がした。というか熱くて味なんかわからない。
「緑茶で重要なのは温度なんだ」
彼が良く言っていたことだ。確かに今回はお湯を沸かしすぎていた気がする。
シンクに淹れたばかりの緑茶を捨てた。流れていく薄緑の液体をみていたら、泣きそうになった。食洗器にあった昨日使ったばかりの急須が目に入る。
「お湯は急須に注ぐんじゃなくて、まず湯呑に注ぐんだ」
テーブルに急須と湯呑を用意しなおし、お湯は湯呑へ。思い直して高かそうな茶葉を量って急須に入れた。
「湯気が横揺れしたら、急須にゆっくりと注いで。それで一杯分だから」
この湯呑はいつもらったんだったか? センスがないと思った。あとで聞いてその値段に驚いたけれど、クリスマスプレゼントに湯吞は、正直ない。
「一分くらい蒸らして葉っぱが開くのを待つ。ゆっくりとじっと待つ時間て、結構現代人には必要なんだよ」
急須を持って円を描くように回す。
1回。
どうしてこうなったのか?
2回。
なんで彼は出ていったのか?
3回。
私の何がいけなかったのか?
「まぁ作法はいろいろあるんだけど、でも一番大事なのは楽しく飲むことだからさ。一緒にこうしてお茶を飲んで、ご飯食べて、話してっていう時間が、当たり前だけどすごい好きでさ、ここんとこ、ずっとお茶が美味しいんだよね。一人で飲んでたときと違って」
最後の一滴まで緑茶を注ぐ。立ち上る香りは、インスタントとは比べ物にならないくらい良い香りだった。でも、飲めないよ。
「ごめん、もう終わりにしよう」
味が、全然わからないんだ。
私はどんな味のお茶を飲んでいたんだっけ?
どんな顔で飲んでたんだっけ?
久しぶりの一人の朝。初めて自分で淹れた緑茶を私は冷めるまで見つめていた。