①
男は、狭い部屋の中に隔離されていた。家具・家電どころか、箱ティッシュさえも置かれていない。ただの部屋で、ここは刑務所なのかと男は感じる。気付いたらこの部屋、ドアすらない。この部屋からどう脱出すればいいのか?
「何だここは、誰か 助けてくれ!」
と男が叫びそうになったとき、壁をすり抜けて女性が部屋に入ってくるやいなや、変な挨拶と変な自己紹介を始める。
「こんにんば、シラキと申します。この部屋の……いいえ、この世界の管理人をしております。生命の命を全て、握っております!」
「ああ、ええ……」
男がこの状況、シラキの言葉が理解できず、対応に困っていると、シラキが質問を始める。
「あなたは、死にたいんですか?生きたいんですか?死にたいのならどうして死にたいんですか? どうして、生きようとしないのですか?」
まだ、答えていないのに、男が死にたいを選択するていで、話が進む。実際、男は死にたいを選ぶのだが……
「死んでもいいとは思ってましたよ。痛くなかったり怖くなければ、死ねば終わるじゃないですか、何もかも……生きていても面白くもないし、幸せでもないので、生きている意味もないですよ。だから、死ねるのなら死にたいですよ」
「死んでも、終わりませんよ」
「あなたは、死後、天国か地獄に行けると思ってます?行けませんよ!」
「死後、今生活しているような世界に、自分としてもう1度生まれて、同じように生活を送るんです。物のネーミングが少しだけ違う世界で、冷蔵庫はコンフィー、スパゲティーのことをポルセーノと呼びます」
「生まれ変われる訳ではありませんよ。死後の能力が引き継がれるので、今と変わらぬ生活を再び送るだけです。人は簡単には変われないので、やり直すことも難しいでしょう」
「何だ、その怖い世界は!」
「あるわけないでしょう、そんな世界!」
「どうして?どうして、あるわけないといえるんですか?あなたまだ、死んでないでしょう?死んでないのに、分かるんですか、死後にどうなるのか?」
「そ、それは、あなたも同じでしょう?」
「あなたも死んでないのだから分からないでしょう?」
「分かりますよ…… 私は言ったでしょう」
「この世界の管理人をしておりますと。ですからあちらの世界の管理人ともそれなりに親しくしておりますので」
シラキの設定も光一の存在で耐性がついているからか、特に指摘をしない男。指摘しても長くなるだけだろうから諦めているだけかもしれないが。
「ていうか、ここはどこだ?ここから出せよ!」
「あなたは死んでもいいですと答えました。ということはこの部屋であなたは死んでもいいというわけですよね?」
「なのに、ここから出してくれと言ってる、それは命乞いですか?矛盾してますね。私は少し手を加えるだけであなたのことを死なせることが出来るというのに」
ああ、面倒くさいやつに捕まってしまった
と思う男。何を言っても言い返して、人の揚げ足ばかりとっては、自分に知識があることを自慢したがる。シラキの場合は少し違ったタイプだが、どこにでもこういう人間はいる。実際に中学、高校、職場にも1人は、存在していた。
「死んでもいいとはいったけど、意味不明な部屋で、いきなり死ぬっていうのは不本意だ、そしてこれは殺人事件になるでしょう?それは嫌です、何かと面倒なことになりそう」
「心配はいりません、殺人事件にはなりませんよ」
「何度も言ってますが、私はこの世界の管理人をしております。生命の命を全て、握っておりますので、あなたという存在の命をなくすだけです、それはすごく簡単なことなのです」
「私があなたに触れて、15 数えるとあなたの命はなくなります。とはいっても、1つめの世界での話になりますので、そのまま、次の世界に行ってもらいます。死因は病死とでもしときます」
「はい?結局あなたは何がしたいんですか?」
「要求は?金ですか?謝罪ですか?それとも俺ですか?」
「私はただ、管理をしているんです、退去したい方がいれば残念ですが、快く送ってあげたいと考えているんです。突発的な衝動でいなくなるのではなく、全てを理解し、全てを納得した上での選択をしてほしいのです」
「い、意味がわかりませんよ。早く、ここから出してください」
「あなたの考えが立派なのは分かりましたから!もういいでしょう?」
「違いますよ。先程から出してくれと、あたかも自分が閉じ込められた、あたかも私が閉じ込めているかのように言ってますが、ここへ来たのはあなた自身です、あなた自身の足で、あなた自身の意思で、ここに来ているんですよ」
「体をロープで縛られているわけでもなく、私が武器を保持しているわけでもありません。そんなに叫ばなくとも、逃げようと思えばいつだって逃げられました。なのに、逃げようとしなかったのはあなたです、あなたがあなたの意思でここにいるのですよ」
「それは、この部屋にドアがないからで、出られないからですよ。出ないんじゃなくて、出られないんですよ!」
「ドア?ドアならそこにありますけど、見えてないふりをしてもダメですよ。ちゃんとその目で見てください!」
シラキがそう言って指差した方を男が見ると、
「えっ、ええっ……」
さっきまでなかったはずのドアがそこにはあった。見間違いか?いや、そんなはずはない、さっきまではなかった。
男は、急いでドアの方へ行っては、ドアを開けて逃げた。ここでは死にたくはない、それが男なりの答えか。ドアを開けて外に出ると、何が起こるは分かっていた。きっと目は覚めずにどこかへ行くのだろう。




