⑤
「1回 6500円、私に投資しませんか、透視します!」
怪しいキャッチコピーの占い屋敷に男はいた。茶髪の若い女の占い師がこちらを見て、笑っている。格好だけはいかにも占い師だが、男の中での占い師のイメージは、無口で真顔、笑顔など見せずに多くを語らないというものだったのに。しかも年齢も自分よりも若く見える。こんな人が本当に人のことを占えるのか?
「あれ、こいつ占い師っぽくないな~って思ってるでしょう?最近はこれくらいポップにしないと、キャッチーにならないんですよ。この業界も結構不景気みたいで……」
「でも、大丈夫ですよ。それでもちゃんと見えてるんで!それだけは保証しますよ」
何も口にしていないのに、占いっぽくないなと思っていたことを当てられると、そう言われるのは、彼女がみえている証拠か?
「どうします?投資します、私に?」
「6500円ですよ、結構安いと思います」
「じゃあ、お願いします」
6500円ちょうど持っていたので、渡すと彼女は嬉しそうに受け取った。彼女のせいで男の財布の中身は空だ。6500円あれば美味しい食事を取ることが出来ただろうけど。
「私は、占い師のマリン よろしくです!」
「よろしくお願いします」
「ダメだ、マリンは当たらんやめておけ!」
どこかでそんな声が聞こえたような気がしたが、ただの気のせいか?
「あなたが、視てほしいのは分かってま。飼っている犬のポチのことですね?」
「は……?」
「違いますよ……」
「てへっ、やっちった!」
「ドジっ子 マリンの大失敗!」
「ちゃんと、お願いしますよ、自分 6500円払ってるんですからね!6500円あれば色々出来ますからね」
「はい!分かってま、分かってま!」
「あなた自身のことですよね?分かってま、分かってま」
6500円とはいってもこちらの世界だし、詳しくいえば俺のお金ではないか。だからあんなに簡単にお金を渡せた。それにしても、分かってま 分かってま ってイライラするな、ちゃんと分かってますと最後まで発言しろ!
「あなたは、あなたの思うように生きたらいいと思う。周りの目なんて気にしなくていいわ……好きなように生きればいいの、いいの。信じた道を進めばきっと」
「はい?」
これでは占いでも何でもない、ただのカウンセリングだ、そう思った男。カウンセリングに6500円払ったつもりはない。
「今のあなたは運気の流れからいったら低いところにいるけど、これから徐々に徐々に上昇していくの、とはいってもあなたの行動次第だけど」
「そうですか……」
「いやいやいや、まったく解決してないというか、それだけなら誰でも言るようなことですよね?」
占い師の中には逃げの言葉を使う人ほど能力がないと聞いたことがあった。自分の力に自信がある人は、直近のことについて助言をするし、自分の言ったことを断定する。自信がない人ほど、長く期間を設けたがるし、発言をあやふやにする。
「でも、本当なんですよ。信てもらえないなら運気の色とか、いります、私見えてるんで!」
「今 あなたの運気の色は錆納戸色なんです。錆納戸色っていうのは、くすんだ深い緑がかった青色で、正直 きれいな色ではない。だけどその先に、藍鉄色と水浅葱色の運勢が流れ込もうとしていて、どちらの運勢が勝つかはあなたの行動にかかっているの」
男が分からないと思って、難しい言葉をわざと使っているのか、彼女にはそう見えているのか、どちらかは分からない。
まだ、始まったばかりだと思っていた男、彼女の方はもう終わらせようとしている。
「ありがとうございました。これて終わります」
「いや、待って終わらないでください!」
「え?占いって初めてだから分かんないけど、ざっくり過ぎないですか?」
「もう少し こ~具体的な改善案とか、身に付けた方がいいアイテムとか?」
「アイテムとかいってもつけないでしょ?」
「あなたはそういうタイプじゃない?だから言っても無駄かな~って、教えるだけ無駄」
「まあ、それは……」
男は星座占いとかおみくじとかあまり信じていなかった。自分にいい結果が出たとしても、何も変わらないと思っているからだ。
「ま、いいや言っとくよ」
「ピンク色のカチューシャ、ピンク色のカチューシャを身につければ運気を少し上げることができます。まあ、つけないでしょうけど」
「つけませんよ、ピンクのカチューシャはつけたくないですよ」
「柔軟に考えることも大切だと思いますけどね、ピンク色、カチューシャ、それだけで判断しましたよね、実物みてないのに想像だけで」
図星だった。
ピンク色のカチューシャと聞いて何となく女物っぽいなと思い、男の自分がつけるのはどうだろう?変人と思われるのは嫌だな、恥ずかしいなと思いつけないと答えた男であった。




