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「矢水大樹 快挙!」
男がテレビをつけるとやっていたのは、日本人テニスプレイヤーが世界大会で優勝したという微笑ましいニュースだった。
優勝した矢水大樹は、27歳。男と同じ歳。
10代の頃から天才と注目されてた彼のことが男は、気に入らなかった。
理由は単なる嫉妬。
自分と同じ歳の人間が活躍していることが、悔しくて、羨ましくて、めっそうくて。
10代の頃はまだ自分にも何者かになれる可能性があるという希望があったから、気に入らないというレベルで済んでいたが、今は、何も成し遂げられてない自分という存在があるから なお、成功し過ぎている人間のことが大嫌いだ。
男1人が彼のことを嫌ったところで、彼には何1つとして影響を与えることができない。土俵が違いすぎる。テニスコートでバットを振り回してもホームランは打てない。
男がすぐにチャンネルを変えても同じニュースが流れている。矢水、矢水、矢水、矢水とどこもかしこも矢水大樹のニュースばかり。
「はいはい、そうですか~凄いですね~」
「矢水さんは凄いですね~」
男はイライラしながらテレビを消した。矢水もテレビも、男に対して何一つ迷惑をかけるようなことなんてしてないのに。
男には、昔からずっと嫉妬し続けている人間がいる。ごく身近にいる人間だからこそ実在することが証明されているからこそ、余計に腹立たしい。
自分自身の弟
自らの弟に対してずっと嫉妬で、時々弟のことが憎たらしくなる。顔も頭脳も運動神経も、良いところばかりを全て弟に持っていかれた。3つ離れているのに、兄という存在は、下の者から常に尊敬をされるようにカッコいい人間でならなければならないのに、弟にあっさりと越えられてしまっては、兄としての立場がない。
弟は、休憩をするウサギで、男は、休憩をするカメだ。能力が劣っていると感じているのに人並みに休憩するからその差は埋まらない。弟も男に比べたら優れているだけで、対して能力が高いわけではない。弟は、手を抜く癖がある。目的が達成できればいいと思っているため、全力を注がなくても達成できると分かれば、必要最低限の力で達成しようとする。
「金メダルは取れても、新記録には届かない」
そんなタイプの人間か……敵は常に周りに潜んでいる。
「くそくそくそくそっ!」
この怒りをどこにぶつければいいのか、飼っている黒猫にぶつけるか?
その様子を見ている黒猫は男を馬鹿にするかのように、
「そんなにくそがしたいなら、トイレにいっといれにゃ~」
と小もないダジャレを言う。猫の癖に、ダジャレを知っているのか。
「うるせえ、トイレはしたくはねえよ!」
「イライラしてるんだよ俺はな!」
「イライラしたところでお前の立場は変わらないにゃ~」
「そんな暇があったら、新聞でも読んだらどうにゃ~」
黒猫のいうとおり、イライラした所で状況が何ひとつ変わるわけではない。
「何だと!」
「ペラペラと偉そうに。じゃあ 自分はイライラしないのかよ?」
イライラしているときに正論を言われると余計に腹が立つ。自分だってイライラする時はないのかと黒猫に聞いたって小がない。猫と人間では思考に違いがあるから、猫に怒りという感情は存在していてもイライラするという感情はない。
お前なんか相手してられるかよと、黒猫は話すのをやめた。




