表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/63




「ちょうど1週間前に、子どもが生まれてね、結婚したんだ 西園 郁実と」


「西園 郁実って?」

男は、少女漫画に出てきそうなその名前に聞き覚えがあった。


「そう、郁実とは、中学は一緒だったよ。覚えてない?その時はほとんど話したことなかったけどね。で、高校は違ったけど、大学生の時に運命的な出会いをして、気付いたら、できちゃった結婚 へへへ」

「まさか、僕が結婚できるとは、思っていなかったよ」


「へえー、結婚で、赤ちゃんか~いいね~」

「もしかして、子どもの名前って美香ちゃん?」


「えっ?違うよ。男の子だし!」

「名前は隆之介、郁実が好きな芸能人から付けさせてもらった」

そこは夢とは違ったようで、彼の子どもは男の子だった。夢と同じだったら、彼の職業は宇宙飛行士ということになる。そこまで当たっていたら正夢だといって笑えなくなる。それは予言という1つの才能だ。


「仕事は、何しているの?」


「僕は、印刷機の営業。小さな会社だけど、残業が無くて土日休みだし、小回りがきくから家族の時間を大切に出来るから満足してる」

彼の口からは会社のいいところばかり出てくる。自分には考えられない。男は、会社のことを聞かれれば、悪い所ばかり言っていた。


「君は?どうしてるの?」


「普通の いち サラリーマンだよ」

求職していると恥ずかしくて言えずに嘘をついた。男の場合、求職というより休職か。探していないから。結婚を考えている2年付き合っている彼女がいるという嘘もついた。完全勝利宣言されるのが嫌で、出来る人間をこの時だけは装った。少しどころか、大分と背伸びしている。


「へ~頑張ってるんだね よかったよ」

「でも君は、もっと大きなことをすると思ってた。それで君は、世界に名を轟かすような人になると」


「それは、買いかぶりすぎだよ」

「ただの凡人だよ、凡人」

男は、不器用で、何を覚えるにも人よりも遅い。

名を轟かす?それどころか凡人にすらなれそうもない。


「本当だよ。中学2年生の時、君の職業調査の研究発表を聞いて、僕はそう思ったんだけどな。着眼点が人とは違う。天才ってこういう人のことを指すのかもって思ったんだけどな」

職業調査……

自分が興味がある職業について調べ、まとめたものを1人1人が発表する授業があったことは何となく覚えている。ただ自分がどんな職業を選んだのかは覚えていない。母か父に相談して決めたか、適当にあみだくじか何かで決めたのだろう。


「ごめん、外回り中だった。また、電話ちょうだい」

「中学の時から、番号、変わってないから」

良くんはそう言うと、駆け足で去っていった。背負ってる多くのものを落とさないようにするためか、彼の背中は大きかった。で、おれは何か背負っているものってあったっけ?


「俺は、何をしているんだ」

頑張っている友人を見てると、頑張っていない自分がこうも情けなくみえるものか。会社を辞めた直後は、自分の決断力はすごいと誇らしく思っていた、ただ、逃げただけじゃないか……自分がいなくなって会社が困ればいいとも思っていたが、困るわけがない 会社にとって男のような存在の代わりはいくらでもいる。むしろ代わりの方が能力値がいいかもしれない。


「この転職は世界に大きな影響を与える」

自らが何も行動しなければ、世界はおろか小さな1つの町にさえも影響を与えることは出来ない。せいぜい、男がDVDを購入したことによって、出演している女優と監督が少しだけ喜ぶくらいか。1本売れた、1本売れたとその1本を大切にする人間が、1000本売ることに成功する。


「名を轟かすような人間になりたい」

どこかでそう思っている男だが、何をどう頑張っていいのか分からない。分かったところで頑張れる自信はないけれど。


久しぶりに、外へ出たが良くんに会えたこと以外の収穫はなく、逆に大きなものを失った気がした。それもそうか、そもそも男の外出にあてもなにもなかったのだから、米は苗を植えないと収穫できない。苗を植えても収穫できないこともあるが、苗を植えないで収穫することはできない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ