わたくしの言葉と瞳は貴方を蝕む毒
なんだかごちゃごちゃしたお話になってしまいましたが、よろしくお願い致します!
「ーーーーを処刑する!!」
飛び交う怒号に歓喜の悲鳴。
それら全て、処刑台に立つ少女に向けられたもの。彼女の両親は既に事切れていた。
少女は諦めたような、光のない瞳をして、ひとりの少年を見つめていた。
「エイデン……貴方なんて大嫌い。出会ったところから間違いだったんだわ」
少女はそう少年に毒を吐くと同時に命を落とした。
少女の目には涙は無かった。
*
「痛い……」
全身が痛い。なにこれ。というか…え?わたくし、生きているの…?
痛みに耐えられなくて瞳を開けると、そこは………。
「小さな四角い……部屋?」
そこはあまりにも部屋と呼ぶには小さすぎた。
言うなれば牢獄…のような。
その部屋には窓はなく、代わりに小さなひび割れた鏡が壁についていた。あと部屋にあるのは扉とボロボロになったブランケットと小さな箱だけ。その4つ以外何もない。
その小さな鏡に映る小さな少女。
その目に光はなく、身体も傷だらけ。
纏っているのはボロボロの元は白だったであろう質素なワンピース。
この少女はこんな所でなにをしているのか。
そう思い鏡に手を伸ばすと違和感を覚えた。
わたくしが手を伸ばしたはずなのに、少女が手を伸ばした。
「あぁ。この少女、わたくしですのね」
今、この少女はわたくし。
「わたくし、この世界に未練なんて……あったわね」
夢半ばにして死んだものねわたくし。
15歳で国に殺された、公爵令嬢。
まぁ、自業自得なのだけれど。
わたくしは生まれ変わりなんて信じられなくて、わたくしの意思がこの少女に憑依してしまったと、考えることにした。
「……でも、どうやったらこの身体を少女に返せるのかしら」
わたくしは方法を考えながら鏡を見た。
「にしても、彼女 笑わないわねぇ」
でも、それはわたくしも同じか…。と思った。
彼女の顔を鏡ごしに見つめているといきなり扉が開いた。
「あ"?珍しいなぁ。メリーが既に起きてるなんて」
そう言いながら、ふくよかで上質な服を着たぶ……いえ。男の人が入ってきた。
でも誰だかわからなくて見上げることしか出来なかった。
「なんだその目は。…気にくわないな」
ふくよかな男の人はそう言うと同時に私の頬を思いっきり叩いた。
わたくしはなにが起きたのかわからずに目を見開き、頭を守る様にしてうずくまることしかできなかった。
口の中で鉄の味がした。先ほど叩かれた事により口の中が切れたのだろう。
無意識に涙が溢れていた。
「おい。何泣いてんだ、よっ」
ドスっと脇腹を蹴られた。
何度も何度も蹴られた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
この少女が何をしたと言うのだ。
「お前を、好きで産ませたわけじゃっ、ないのにっ、なんで、そんな、にっ、醜い見た目なんだ!!!」
そう言うと次はうずくまったわたくしの背中を何度も踏みつけた。
産ませた?と言うことはこの男は父親?
醜い見た目?それは貴方じゃない。
何か言い返したかったが声が出なかった。
暴行を受ける少女は白い髪に赤い瞳をしていた。
それから何時間か経った頃に、男の人は部屋を出て行った。
わたくしの手首に鎖を付けて。
痛い。声も出ない。死にたい。死なせて。
その思いが頭の中でぐるぐる回った。
この、暴行は、わたくしのせい?
わたくしはそこで意識を手放した。
外が暗くなった頃、騒がしくて目を覚ました。
「な、に?」
あ、声が出た。
最初よりも随分と掠れた声。
身体を起こしたくても痛くて1ミリも動かすことが出来なかった。
少しするとバタバタと扉の外で音がした。
また、あの男が来たのかもしれないと怖くなって涙がこぼれた。自分を守りたかったけど、今の私は身体が痛くて動かなくて、頭すら守れない。
その時、大きな音がして扉が開いた。
でも扉の向こうは明るくて、誰が来たのかわからなかった。
「なんてことだ…。これは酷い。もう、大丈夫だからね」
そんな優しい声と優しく抱きあげられた感覚。
そして、私はまた意識を手放した。
あぁ。やっと、天からのお迎えがきたと思いながら。
*
「……ん」
目がさめるとふかふかの感触。
ふわふわとあったかい?
ベットかと思ったがそれだけじゃないらしい。
はふはふと声がして、ぺろっと顔を舐められた。
顔を横に動かしたらおっきい犬と目があった。
「わふっ」
犬は嬉しそうに一回吠えたあと少し離れた所にある扉を見つめていた。
それから少しして慌ただしく扉が開いた。
「目が、覚めたのですか!」
入って来た優しそうな男の人には見覚えがあって。
「こら。アメリ その子から離れなさい」
アメリと呼ばれた犬は嫌だと言わんばかりに私の体に腕を置いた。
「まったく……アメリはその子の事を気に入ったのかい?」
「わふっ」
「…そうかい」
嬉しそうに返事した犬を見て優しく微笑んだ男の人。
「父上?入り口で何を………あぁ。目覚めたのですね?」
今度はちょっと若そうな男の人が入って来た。
その男の人を見た瞬間から私の心臓は嫌な音をたてていた。
「貴方、3日間眠ったままだったのですよ?」
わたくしに近づいて来て顔を覗き込んで来るその男の人。
いきなり近くに来たものだからピクリと体が強張った。
「こら。エイデンいきなり近づくんじゃないよ」
「ん?あぁ。ごめんね」
ふっと離れていった男の人を見つめた。
"エイデン"
わたくしを死に追いやった人。
わたくしが愛した人。
わたくしが出会っていけなかった人。
わたくしが、嫌いになれなかった人。
「メリーちゃん。早速で悪いんだけど、これまでの話とこれからの話をしたいんだけどいいかな?」
これまでの話とこれからの話?
どちらにしろ、聞かなければ何にも始まらない気がする。
私は動くようなった身体を起こした。
「はい。大丈夫です」
"エイデン"でない方の男の人は優しく微笑んでから話を始めた。
「メリーちゃん。君はオリエンス伯爵家の娘で、名前はメリー・オリエンス。年は10歳。
今回オリエンス夫人より自分に娘はいないはずなのに、家から女の子の悲鳴が聞こえると話があったんだ。君はオリエンス伯爵が外で産ませた子供で、その髪色を伯爵に疎まれて閉じ込められていたんだ。で、今回伯爵の不正が見つかってこれを機に君を助け出そうと動き出したのが僕たちフェクトル侯爵家なんだ」
「そう…ですか」
この少女は産まれてから10年。
髪色が白いというだけで、閉じ込められて、暴力を振るわれていたと言うのか。
「で、これからの話なんだけど、メリーちゃん 僕の養子にならない?」
「え?」
「僕の、娘に、ならない?」
目の前の男の人がすんごい笑顔でとんでもない事を言ってきた。
「あぁ。忘れていたよ。僕の名前はアルフォルト・フェクトル。侯爵家当主です。
こっちはエイデン・フェクトル。今年20歳になる僕の息子ね」
エイデン・フェクトル。
やっぱりあの、エイデンだ。
年が20歳って事は、わたくしが死んでから5年って事ね。なら尚更この少女はわたくしの生まれ変わりの姿ではないようね。
でも、まぁ。養子になるって言うのは良いのかも知れない。わたくし達を追い詰めた家族ではあるが、わたくしことメリーには何にもあてがない。養子にならなかったら孤児院か、修道院ね。今のわたくしの身体では耐えれそうにない。なら、答えは決まっている。
「はい。宜しくお願いします。こんな私ではありますが、雑用などなんでも致しますのでー」
そういうと途中で抱きしめられた。
え。何?
「メリーちゃん。君は何にもしなくていいんだよ。君は僕の娘になったんだ。うんと可愛がる予定だからね。雑用などやらせないよ?
当分の君の仕事は、笑顔を作ることだ。そんな目じゃなくて、心から笑う事。いいね?」
「……はい」
笑顔を作る事。
それはきっとメリーにもわたくしにも難しい。
だってこんなにも表情が動かないのだ。
こんなにも、世界に、絶望しているのだから。
*
「わふっ」
今日もアメリに顔を舐められて起きた。
「ん…。おはよう アメリ」
おはようと言うと嬉しそうにワンと吠えた。
アメリは白い毛で金色の瞳のふわふわした大きな犬だった。
金色の瞳……。
前のわたくしもそんな色の瞳をしていたなぁと思い出した。確か髪色はクリーム色だった気がする。名前は…まぁ思い出せないんだけど。年は思い出せたのにね。不思議である。
「おはよう。メリー、アメリ」
アメリとベットの上で戯れていると、エイデンが部屋に入って来た。
「エイデンお兄様。おはようございます」
わたくしは光のない瞳でエイデンを見つめた。
オリエンス伯爵に助けられてから一ヶ月が経ったが、未だにわたくしの瞳には光はなく、笑うことも出来ない。
その瞳でエイデンを見つめるといつも苦しそうな、悲しそうな顔をする。
まるで何かに蝕まれていくような…。
何故、そんな顔をするのだろうか。
不思議そうに見つめているとエイデンは初めて挨拶以外の言葉をわたくしに言った。
「ごめんね。メリーの…、その瞳が苦手なんだ。…その瞳を見ていると僕が殺してしまった大切な人を思い出すんだ」
殺してしまった大切な人?
それは、わたくしの事だったりするのだろうか…。いや、そんな訳ないか。わたくしはエイデンに大切だなんて思われてなかったはずだから。…なんでそう思うのかわからないのだけれど。
「その、アメリって名前も大切な人の名前から付けたんだ」
エイデンは私に抱きつくように座るアメリを愛おしそうに見つめていた。
「ごめんね。こんな話、聞いてもよくわからないよね」
エイデンはわたくしの頭を優しく撫でてから部屋を出て行った。
「アメリ……名前……ね」
わたくしはそう呟き虚無を見つめた。
*
「おはようメリー。今日は何をする?」
アルフォルト様は毎回わたくしをベットから抱きあげて外に連れて行く。
外といっても敷地内。勿論寝間着姿のまま。
アルフォルト様 曰く、人に慣れるまではこのスタイルで行くそうだ。
不用意に怖がらせない為らしい。
普通の10歳よりも一回りもふた回りも小さいわたくしは軽々と持ち上げられる。
時々…いや毎日思うのだが…侯爵様は忙しくないのだろうか。
一度、「お忙しいかと思うので私に構わないで大丈夫です」って言ったら酷く傷ついた顔で「そんなに…おじ…お父さんは嫌いかい?」と言われて「いえ」と答えたら「ならよかった。念願の娘だからね。前にも言ったように甘やかして構い倒すつもりだからね」とステキな笑顔で返された。
それ以来ずっとこのスタイルである。
…わたくしはいつまで抱き上げられるのだろうか。
*
あれから一年たってメリーは美少女に成長した。
でもまだ瞳に光は宿らない。
「本当にこの瞳が私から人間味を奪うわね。まるでお人形みたい」
メリーの瞳はなんだか人間味をなくす毒のよう。
わたくしは鏡を見ながらそう思った。
エイデンも瞳を見るたびに悲しそうな顔をするのだ。
そんな顔を見るたびにわたくしは何かを言いたくなる。何が言いたいかなんてわからないのだけれど。
やっと1人で外に出たり、アルフォルト様やエイデン以外とも喋れるようになったある日、エイデンはわたくしを見ながら『マリアメアリー』と悲しそうに言った。
その言葉……名前を聞いた瞬間わたくしの頭の中で何かが弾けた。
そこでまた
わたくしは意識を手放した。
*
マリアメアリー・オストン。
この国の公爵令嬢で年は15歳。
優しい両親に囲まれたしあわせな…と、言いたいところだが、そうではなかった。
お金に目がない公爵と旦那と娘に興味が無く、お金と男が好きだった公爵夫人との間に生まれた。
ただ、使用人をはじめとするまともな人達に囲まれて育ったマリアメアリーは真っ直ぐに、公爵令嬢らしく成長した。
そんな時に公爵の弟だったアルフォルト侯爵が息子を連れてオストン家を訪ねて来た。
そこでマリアメアリーとエイデンは出会ったのだ。
エイデンはマリアメアリーと仲良くなるのと同時にオストン家の不正に気づいてしまった。
その時すでに2人は惹かれあっていた。
エイデンはマリアメアリーを助けようとアルフォルトと相談して、オストン家を糾弾することに決めた。それでマリアメアリーを助けられると思ったのだ。だがそこで予想外の事が起きる。
マリアメアリーは罪を認め、自分も断罪されるべきだと言ったのだ。マリアメアリーは最後まで公爵の名を背負い、不甲斐ない両親の代わりを背負い続けた。
そしてマリアメアリーはエイデンの目の前で死んだ。
それもエイデンの心に刺さる毒を吐いて。
それが、メリー……わたくしなのだ。
わたくしは前のわたくしを全て思い出して涙を流しながら目を覚ました。
目が覚めたのがベットなのできっとエイデンが運んでくれたのだ。…本当にエイデンは優しい。それに、わたくしの未練が…後悔がわかった。
ぽろぽろと泣いていると扉がノックされ、扉の方を見るとアルフォルト様がアメリを引き連れて部屋に入って来た。
「おはよう?メリー………いや、マリアメアリー」
「………え?」
アルフォルト様は優しく微笑んだ。
「メリー。君は僕達侯爵家が助けられなかったマリアメアリーだろう?…アメリが君が思い出したと言うからそう思ったのだけれど、違うかい?」
アメリが、言った?
「あぁ。不思議かい?実を言うとね、閉じこめられていたメリーを見つけたのもアメリなんだ。使用人が言うんだよ。ある屋敷の前で普段は吠えないアメリが吠えるのだと。
だから、何かあるのかと思い調べたんだ。すると出てくる出てくる不正の数々。でオリエンス家に捉えるために入った時にアメリが1つの扉の前まで走って行ってそこで見つけたのがメリー、君なんだ」
アメリがわたくしを見つけた?
そんな不可思議な事なんて。
「ねぇ、マリアメアリー。君は僕の妻の事を覚えている?」
侯爵の、妻?
勿論覚えている。
凄く優しそうな綺麗な女の人。
でも、言われてみればこの家で会っていない。
「僕の妻はね、マリアメアリー…君をとても気にかけていたんだ。年の割にしっかりしすぎた幼い少女をね。でもね、僕の妻は君が殺された頃に病気で死んでしまったんだ。まるで君を追いかけるようにね」
わたくしを気にかけてくれていた人がいたと聞いて無意識に涙が溢れていた。
「でね。それから少したったある日にアメリが家の前に現れたんだ。その眼をみて僕はあぁ、妻が来てくれた。と思ったんだよ。おかしいよね?でもね、妻と同じ金色の瞳をしていたんだよ。…君と一緒の。それからまるで君を助けろと言わんばかりの行動をとるようになって、君を助けた後はずっと側に居たがった。なんでかな。と思ったんだけど、やっと理由がわかったんだ」
アルフォルト様は私を撫でながら優しく微笑んだ。
「君が、マリアメアリーだったからなんだね」
それから、わたくしはがたが外れたようにぼろぼろと涙を流した。
「ごめんな、さい。あの時のわたくしが、素直に、アルフォルト様の、手を、取れなくて」
そのせいで、アルフォルト様にも、奥様にも、消えない毒を残してしまった。
「いいんだよ。大丈夫。もう、大丈夫だからね」
アルフォルト様に抱き締められてひとしきり泣いた後に、質問された。
「ねぇ?メリー。今、幸せかい?僕は、優しい父親になれただろうか?」
そんな事、答えは決まっているではないか。
「はい。今、幸せです。今までで一番、幸せです。それにアルフォルト様は素敵な私のお父様です」
わたくしはメリーで、初めて笑った。
やっと、メリーの表情が動いたのだ。
「……ねぇ。アルフォルト様」
「…なんだい?」
「アルフォルト様は、メリーを、大切にこれからも愛し育ててくれますか?」
「ああ。勿論。任せてください。マリアメアリー様」
マリアメアリーは柔らかく微笑むと自室を後にしエイデンのもとに向かった。
マリアメアリー自身の未練を解消する為に。
*
エイデンを探して屋敷を回ると、花咲く庭にその姿を見つけた。
「エイデンお兄様」
わたくしが声を掛け、振り返ったエイデンはわたくしを見るなり凄く申し訳なさそうな、それでいて傷付いたような顔をしていた。
「………メリー。その、すまなかった」
「…何がですか?」
謝らなきゃいけないのはわたくしの方だ。
エイデンのその顔を見るたびに、わたくしはエイデンを蝕む毒にしかならなかったと、あの時に言った言葉を後悔した。
「……エイデン。謝らなければならないのはわたくしの方なのです」
「…え?」
いきなり変わった喋り方にエイデンは驚いたように見つめてきた。
「わたくし、あの時…自ら死を選んだ時に、エイデンに言った事を、謝りたかったの」
「自ら死を選んだ時?」
「そう。…ごめんなさい。『貴方なんて大嫌い。出会ったところから間違いだったんだわ』なんて嘘。貴方の事が大好きだったし、出会えたことにも感謝しているの」
エイデンは困惑したようにわたくしをみた後、涙を流した。
「……メリー?何を言っているの?その言葉は僕とマリアメアリーしか知らないはず」
「はい。わたくしはその、マリアメアリーなのです。…とは言っても、わたくしはメリーに憑いているだけなので…」
わたくしは言いかけでエイデンに抱き締められた。
…え。もう一度確認ね。
わたくし、エイデンに、抱き締められてる…の?
「マリィ?ねぇ。本当にマリィなの?」
『マリィ』
…懐かしいな。
エイデンはいつも優しくわたくしの名前を呼ぶのだ。家族には呼ばれないわたくしの名前を。
「はい。……エイデン。酷いことを言ってごめんなさい」
そして、また酷いことを言うわたくしを許してください。
「マリィ。マリィなんだね。………あの時、助けられなくてごめん」
エイデンはわたくしを強く抱き締めてごめん。ごめんと呟いた。
「悪いのはエイデンでは無いのです。わたくしも素直に優しさを受け入れられなかったのもいけないし、不正をした両親が悪いのです。だから、謝らないでください。謝らなければいけないのはわたくしの方なのですから」
「……え?」
わたくしは深く深呼吸をしてからエイデンを見つめた。
「エイデン。わたくしはもうすぐいなくなります。メリーに身体を返さねばなりません。幸い、わたくしの後悔は今し方解消されました。だから、後はわたくしが消えるだけ。元の道筋に戻るだけなのです」
「え?何言って…。せっかく、また….」
困惑しているエイデンの言葉をバッサリと切る。
「元々わたくしはあの時点で死んで、消える運命でした。それが何故かメリーと言う、わたくしと同じく親に恵まれなかった少女の身体に憑依してしまったのです。わたくしはメリーに身体を返すためにはどうすればいいのか考えた所、生前に後悔した事をなくして仕舞えばわたくしも消えるのでは無いかと考えました。…どうやら、正解だったようですが」
そう言うと同時に"わたくしの意識"が薄れていく感覚がした。
「エイデン。……メリーを、どうか大切にしてください。マリィを…わたくしをどうか、忘れて幸せになってください」
「エイデン。貴方が好きでした。これからも大好きです。どうか………」
わたくしを忘れないでください。
わたくしが思っていることも、口に出した言葉も、矛盾している。わかっているのだ。
結局わたくしはまた、エイデンの心に毒を仕込んで逝く。言い逃げにも程がある。
わたくしは最後に精一杯笑って、今度こそ、永久に意識を手放した。
泣きじゃくるエイデンの顔は見なかったふりをした。
どうか、わたくしを忘れないで。
貴方の心の片隅でもいいから。
わたくしの居場所をください。
わたくしはそこで、精一杯笑うから。
わたくしは不思議な夢を見ていた。
優しい両親に囲まれて、愛しい婚約者のいる夢。
両親と婚約者の間で、毒など知らない状態の無垢なわたくしは、自然と、無邪気で、綺麗な笑顔を浮かべていた。幸せそうに。
なんだか、よくわからないお話になってしまいました。
説明が多すぎた気がします…。
……色々詰め込みすぎた?
結局マリィは言い逃げして、エイデンの気持ちは聞かずじまいです。