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第十四話:Tomorrow never knows

自分が好きな車を題材にしました。自分の小説は基本同じ時間軸の同じ登場人物になります。

「あ、あのさ、このアリストって……もしかして……廣樹から買ったりした?」

 産業道路を走る私達は断続的な渋滞に捕まっていた。純也は助手席から私にアリストの事を訊いてきた。

「……うん。あ、そう言えば純也が廣樹に流した車だったよね? そう、廣樹から四十万で私が買ったんだ。次からは私に直接流してよ。絶対に廣樹よりは高く買うからさ」

 車内には気まずい空気が流れていた。正直、雅春に売った売値を聞かれたら答える訳にはいかない。四十万で買って百万以上で売りましたなんて口が裂けても純也に言えない。都合よく企業秘密という事にしておこう。

「やっぱりそうか。なんか、見覚えある気がしたんだよね。でも、買い手がついたみたいで良かった」

 純也は満足そうな笑顔で私に話しかけてきた。それはそれで今回は助かるのだが、どうやら純也は一度でも自分の手を離れたモノには執着しないようだ。

「おかげさまで納車が決まりました。……ところでさ、純也って彼女とかいるの?」

 私は無意識にそんな事を純也に訊いてしまった。純也は顔もそこそこ良いし、お金も持ってる、性格だって廣樹みたいに曲がってないと思う。何よりも廣樹みたいに誰にでも優しくして要らない勘違いを生むタイプでは無い。私の男の好みは抜きにして、そこそこ女受けは良い方だと思う。でも、廣樹の口からも京子の口からも、純也に女がいる話は聞いたことが無い。

「俺か? 俺に彼女いるかって? 彼女いるように見える?」

「……見える。だって、いるでしょ?」

「いやいやいや、彼女なんていないから」笑いながら顔の前で手を振って否定してきた。

「……なんで? 純也の好みかは別として、普通に女がほっとかないでしょ?」

「確かにいるにはいるけど、言い寄ってくる水商売系の女にはイマイチ心を許せないからさ」

「……確かに」

 水商売の女を否定する訳では無いが、水商売の女性にとって男の価値を量る物差しは、間違いなく経済力が一番だろう。貸金業をしている純也が、その手の女に心を許せないというのは頷ける話ではある。

「純也ってさ、酒好きなの? 言い寄る女がお水系って事は結構飲みに行ったりするんでしょ?」

「……俺の事、廣樹とか京子に聞いてないの?」

「うん、聞いてないよ。だって、私と純也ってビジネス以外で全く接点無かったじゃない?」

「……確かに……そう言われてみればそうだよな。ああ、好きだから結構飲むよ」

「そうなんだ。今日って時間ある?」

「ああ、今日と明日は休み取ってあるし、野暮用まで付き合ってくれたし、送ってもらうお礼もしたいからさ、酒くらいなら喜んで付き合うよ」

「じゃあさ、親睦も込めてお酒飲みに行こうよ」

 私一人だと行きづらいが、純也が一緒なら廣樹の家に行って宅飲みするのも大丈夫だろう。そして、翔馬さんと母さんの事を相談にのってもらおう。我ながらいい考えだと思う。

「もちろん良いぜ。何処が良い? 高いバーでも安い居酒屋でも何処でも付き合うからさ」

「じゃあ、廣樹の部屋で宅飲みが良いな。実は廣樹と純也に相談したい事があってさ」

 私の話を聞くなり純也は、ゲホッ! ゲホォ! と激しく咳き込んだ。

「いやいやいや、そ、それは流石に駄目じゃない? 俺の家じゃないし、それは駄目でしょ! そうだ! 凄く良いバー知ってるからそこにしよう。マスターも神戸の人なんだけど、藤田っていう面白いオッサンだし、バーテンダーが作るカクテルも旨いんだよ」

「それってさ、もしかして愛花ちゃんがいるDESIREデザイアの事?」

 それを聞いた純也は明らかにドモり出した。女の直感で廣樹について何か隠している気がしてきた。

「あれれ……知ってるの? もしかして……常連さんとか?」

「ううん、廣樹に一度だけ連れてってもらっただけ。……良いよDESIREで。愛花ちゃんにはまた来るって言っちゃってるしさ」

 再び純也は激しく咳き込んだ。

「ひ、廣樹と行ったの? あ、今日は定休日だったかもしれないな」

 今の反応と答えで確信に変わった。純也は絶対に私に何かを隠してる。

「もうっ! 純也さ、廣樹の事で何か私に隠してるでしょ?」

 私は思わず語気を荒立ててしまった。廣樹、純也、京子が同じ母校で仲が良いのは知っている。だが、廣樹の事に関してなら私にだって少しくらいは知る権利があると思う。

「沈黙は金、雄弁は銀とかくだらない事を言ったらぶっ飛ばすからね!」

 それを聞いて純也は少し驚いた様子で私を見た。

「博識だね……それってさ、諒ちゃんのオリジナル? なんか、昔の京子を見てるみたいなんだけど……」

「はいっ? 何くだらない事言ってるのよ! 有名な諺でしょ? 廣樹の部屋は駄目、廣樹に教えてもらったバーも駄目、どう考えたって廣樹に対して何かを私に隠してるとしか思えないでしょ? 私だって純也が京子の肩を持つことくらいわかってるわよ! でもさ、これってあまりにも不公正アンフェアじゃない?」

 私は純也の態度が腹立たしく思えて来て、今まで我慢していた言いたい事を、マシンガンのように純也に対し強い語気で叫んでしまった。

「アンフェア?」

「だってそうでしょ? みんな京子の味方ばっかり。……まるで私が悪者みたい。別に京子から廣樹を寝取った訳でも、廣樹を騙した訳でもないのに……。偶然、再会した初恋の男の子が……今好きな廣樹だっただけなのに……」

 純也の中で廣樹の言葉が思い出された。ところでさ、例え話だけど……ひょんな事から偶然出会った仲の良い女友達がいます。その娘とは趣味も話も合います。実はその娘は幼い頃に出会った初恋の女の子でした。さあ純也ならどうする? 廣樹が言っていた初恋の娘が諒だとこの時に気づいた。よく事実は小説よりも奇なりって言う。しかし、自分が経験するとは思わなかった。まるで現代の悲恋の物語ではないか。


 

 純也と諒はDESIREへと向かう階段を下っていた。DESIREとは強く望む、欲求する、望む、願う、希望する、要望する。そんな意味を持つバー、純也は此処が好きだった。昔、自分に道を示してくれた人とたった一度だけ飲んだバー。どんなに悩んでも此処に来れば初心に戻れる気がするのだ。

 階段を下りきり、ゆっくりとドアを開けると部屋の空気がふっと動いた。

「こんばんは。あれ? 今日は客いないんだ」落ち着いた声で藤田に向かって話しかけた。

 オーナー兼バーテンダーの名前は藤田知勝ふじた ともかつ見た目はスキンヘッドで強面だが人柄の良い40代くらいの男性だ。

「相変わらず、失礼なやっちゃな! その言い方だと、まるでウチが人気無いみたいやないか」

 純也に続いて私は店内に入った。

「ん? なんやそのべっぴんさん! 純也、その――」

 純也に話かける藤田の言葉を遮るように愛花が叫んだ。

「――諒さん! ……でも、純也さんと諒さんが二人で此処に来るって事は……」

 驚いた表情で急に口を押えて諒を見た。

「――! 純也さん見損ないました!」

 今度は純也を睨みつけた。

「はっ? 何を言ってるの愛花ちゃん、絶対に何か勘違いしてるでしょ?」

 純也は慌てて愛花のカウンターの前に駆け寄ると手をついて乗り出した。

「……フラれた女の子の弱みにつけんで……何する気なんですか!」

「……アハハ。私ってもう何処でもフラれた前提なんだ」

 私はカウンターに座ると俯いて小さな溜め息を吐いた。みんなに廣樹にフラれた思われていると思うとなんだかポキっと音をたてて心が折れそうだ。

「――え? 違うんですか?」

「……愛花ちゃん最悪。まだフラれてないから」純也は呆れた顔で愛花を見ると小声でいった。

 なんとか話に混ざろうと藤田がさり気なく私達が固まっているカウンター付近にそろりそろりと静かに近づいてきた。

「でも、まだって事は……結局フラれるんやろ?」

 愛花と純也が同時に藤田を睨んだ。

「このオッサンにデリカシーという言葉は無いのか?」

「またまた、この娘が廣樹みたいな掴みどころが無いような、難関不落な男に恋した訳じゃなあるまいし、そんな大げさな」藤田が笑いながら茶化してきた。

 それを聞いて私は深い溜め息を吐いた後、愛花を見ると勢いよくいった。

「バカルディエイト、ロックで!」

 純也は煙草を咥えると、ポケットに手を突っ込んでライターを探したが見つからない。思い出すように天井を見上げた。

 その瞬間、私は純也の前にZIPPOを強く置き、音が店内に響いた。

「お、サンキュー」

 純也は咥えた煙草に火をつけようとして気づいた。廣樹が愛用していた純銀製スターリングシルバーのZIPPOだった。火をつけると天井を見上げて紫煙を吐き出した。

「……バカルディかぁ、じゃあ、俺はバカルディゴールドでキューバリブレ作ってくれない?」

 私の前にバカラのグラスに注がれたバカルディエイトとチェイサーが置かれた。一口、二口と飲むと、喉を焼きながら入ってきて、廣樹への気持ちをえぐるように私の胸を締め付けた。一気に飲んだせいか、少しクラッとする。チェイサーを飲むと冷たくて美味しかった。そして残りのバカルディエイトを無理やり流し込んだ。

 純也にキューバリブレが置かれた。灰皿に灰を落とすと一口飲んだ。

「純也、お前は金持ってるんやから、もっと高い酒頼まんかい」

「ひっどいな藤田さん、別に何頼んだって良いじゃない……じゃあ、サントリー山﨑の五十年をロックでお願い、チェイサーは廣樹と一緒でジョッキで」

 それを聞いた愛花が吹き出した。

「あ、あ、あるかっ! そんな高い酒を置いとるわけないやろ!」

 藤田が純也に向かって叫んだ。

「愛花ちゃん、私ってあんまりウイスキー詳しくないんだけど、サントリー山﨑の五十年ってそんなに高いの?」気になって訊いてみた。

 お酒は定価と市場価格が存在する。希少な酒程高い、それは何処か車と似ている。車も古くなり希少価値が出る程に値段が高くなるクラシックスーパーカーがいい例だ。

「すごく高いですよ、ボトルの定価で百万円、試乗取引なら平均価格三千万円以上するんじゃないですか?」

「えっ! 三千万ってスーパーカーが新車で買えるじゃん!」 

 私の想像していた金額の遥かに上をいっていた。

「もう、ええわ。こうなったら諒ちゃんで回収したるわ! どうせ、払うんは純也やろ? 好きなの頼んでええで!」

 私は煙草に火をつけると紫煙を吐きながら、メニュー票を見た。

「じゃあ、サントリーウイスキー響十七年お願いします」

「そんなペースで飲んで大丈夫か? 酔いつぶれても知らねえぞ」純也は私を覗き込むように見ると訊いてきた。

「大丈夫! 私、これでも結構お酒強いんだから!」

 本当はこんなペースで強いお酒を飲んだ経験なんて無かった。でも、今日はなんだかとことん酔いたい気分だ。

 純也は軽い溜め息を吐くと、煙草を吸いながら愛花に話しかけた。

「チェイサー、ジョッキにしてあげて。俺はバラライカをエリストフでお願い。あと愛花ちゃんも好きなの飲んで良いよ。藤田さんには……」

「お、俺にも奢ってくれるんか? 強いのがええな」

「じゃあ……一発でキマるように、スクリュードライバーをスピリタス濃い目で」

「純也さん! そんなの飲んだら急性アルコール中毒で救急車ですよ!」愛花は純也の方に乗り出していった。

「純也は俺を殺す気か! どこにアルコール度数九十六度のウォッカでスクリュードライバー飲む馬鹿がおるんねん!」

「だって、俺は別に藤田さん抜きでも良いもん」

 純也は笑いながら煙草を吹かしている。なんだか……楽しそうで羨ましいなと思った。前に廣樹と来た時はあんなに楽しかったのに……ついそんな事を考えてしまう。

「純也、お前……最近なんか廣樹に似てきたで」

「……廣樹、なんで私じゃ駄目なの? 京子と私って何処がそんなに違うのよ!」

 思わず独り言のように叫んでしまい店内が静寂に包まれてしまった。純也が煙草に深くゆっくりと吸い込み、同じくらいの感覚で吐き出すと口を開いた。

「……時間かな。廣樹と一緒に過ごした時間が全然違うんだよ。お前と京子では廣樹と過ごした時間が違い過ぎる。一緒にいた時間もそうだけど、お互いを求めた時間が違い過ぎるんだよ。俺が京子の肩持つ理由もそれだからさ」

 再び煙草を深く吸うと天井を見上げて紫煙を吐き出した。愛花が純也に何かを言いたそうな顔で睨んでいる。

「じゃあさ、仲良くなるならエッチしちゃうのが一番って言ったほうが良かった?」純也が愛花を見ながらいった。

「人はさ、過ごした時間以上に相手を知る方法なんてないんだよ。十年付き合いある友なら喧嘩してもいずれ仲直り出来てもさ、一週間前に知り合った友達と喧嘩したら、仲直りより喧嘩別れする方が確率が圧倒的に高いだろ?」

 それを聞いて愛花が一瞬だけ固まった。

「純也さん! それって酷いです! そんなのどうしようもないじゃないですか!」純也に対して叫んだ。

「……ありがとう愛花ちゃん。コイツの言ってる事は確かに当たってるよ。同じ高校にいたんだもん、過ごした時間が長いのは仕方ないよ」

「お、段々わかってきたね。じゃあ、俺がたった一回だけ諒の肩を持ってアドバイスをしてやるよ。廣樹はさ、そこに居るんだから素直にその胸に飛び込んじゃえば良いんだよ。これからの事なんて何も考えないで紐無しバンジーするくらいに勢いよく全力でさ」

「……純也さん! やっぱりカッコいいです」愛花が純也を見つめていた。

「……飛び込むって……廣樹の胸に?」

 思わずクスッと笑ってしまった。いつもそうやって生きてきたじゃないか。なんでいつも通りの生き方をしなかったんだろう? 人は恋をすると臆病になるって言うけど本当だな。私は響の入ったグラスを掴むと一気に飲み干すと、喉を焼きながら入ってきて体が熱気を帯びているみたいに熱くなった。

「愛花ちゃん、スカイブルーを作って。廣樹と初めて飲んだお酒だから……これ飲んで景気づけにする」

 そうは言ったものの、やはり慣れない強いウイスキーをがぶ飲みしたせいで、だいぶ酔いが回り中々グラスが進まなかった。

 その時だった、店のドアが開く鈴の音がして何者かが入ってきた。長い髪、切れ長の瞳、シャープな顎、服装も上品ではあるが何処か水商売の香りがする女性だった。歳は三十代前半くらいだろう。

 純也は煙草を咥えたまま、チラリと入口を見たまま固まり、咥えていた煙草が床に落ちた。

「……香菜……さん。なん……で……ここに」

 香菜と呼ばれた女性は微笑んで口を開いた。

純也君キミに、もしかしたら……逢えると思ったから……じゃ、駄目かしら? それにココって私がキミに教えたお店よ?」香菜は純也に歩み寄ると再び微笑んで訊いた。

「純也くん、隣……良いかしら?」

「純也、誰よ? その女」

 私は酔って朦朧とする中、純也に訊いた。

「……彼女さん?」

「ち、違いますよ。こんなのを彼女に選ばないですよ」

 純也の奴、即答しやがった。しかも、こんなのとか言いやがった。なんか少しイラッとしたが今はそれどころではない。酔って頭が回る少しだけ寝てしまいたい。記憶が自然と遠のくのが自分でもよくわかった。

 香菜は純也越しに私を見るといった。

「純也くんも……罪な男ね。彼女でも無い女を……こんなに酔わすなんて」

「ち、違いますって! こいつが勝手にビールみたいなに、がぶがぶとウイスキー飲んだだけですよ」

「香菜さんこそ……どうして此処に?」純也は遠慮気味に香菜に声をかけた。

「なんかさ、仙台の街に疲れちゃってね。キミや廣樹君がいた頃は本当に楽しかった。お金なんか無くたって毎日が本当に充実してた。私も同じ高校時代を歩みたかったな。二人が東京で頑張ってるって風のうわさで聞いたから……遊びに来ちゃった。バーテンさん、パロマを一つ作ってくれない?」

 愛花は注文を受け、テキーラサウザブルー、グレープフルーツジュース、トニックウォーターで手際よくカクテルを作ると香菜の前に置いた。

「……あの、純也さんの昔のお知り合いですか?」純也に遠慮気味に香菜に声をかけた。

「ああ、この人は西秋香菜にしあき かなさん、俺の恩師ってところかな。この人がいたから今の俺がいるんだよ」

「純也くん……それは流石に言い過ぎ」笑いながら純也の肩を軽く叩いた。

「純也くん、今は貸金業やってるんでしょ? その若さで凄いわよね、お姉さん鼻が高いわ」

「……ありがとうございます。でも、もっと頑張らないといけないんで……」

「充分頑張ってるんじゃないの?」

「俺はまだ、この街の伝説になれてないんで。まだまだですよ」

 それを聞いた香菜が吹き出した。

「それって……もしかして……昔、私が純也くんにあんなことを言ったから?」

「……駄目ですか? だって、香菜さんに言ったじゃないですか」

「あの、純也さんになんて言ったんですか?」興味津々な顔で香菜に訊いてきた。

「ん? 私を口説きたかったら、街の伝説になるくらいの男になってもらわないと、年下の男の子を一人の男としては見れないかなって言ったの。でも、純也くんが二十歳の頃よ? 今はもう立派な大人の男じゃない」

「じゃあ、俺を一人の男として見てくれますか?」

 香菜はクスッと笑うと口を開いた。

「純也くんは私とエッチがしたいの? 付き合いたいの? それとも私に認められたいの?」

「――全部です」純也はハッキリと香菜の瞳を見ていった。

「全部? ……じゃあ、男を見せて頂戴。私がときめくくらいの男を見せて欲しいな。でも、こんなオバサンで良いの? ちゃんと付き合う以外なら……ちゃんと認めてるし、一回くらいなら私は構わないわよ?」

「いや、それだと……俺が納得しないんで」純也は笑いながいった。

「もし、今夜……私をモノにしたとして、隣の酔いつぶれた可愛い友達はどうするつもり?」

「それは、その時に考えますよ」

「あら、純也くんもカッコいい男になったわね。純也くん煙草くれない?」

「愛花ちゃん、マルボロライトメンソール頂戴」

「これって廣樹さん用にストックしてたんじゃなかったんですか? いつも二箱置いておいてくれって言うから……てっきり、廣樹さんの為かと思ってました」

「そんな訳ないだろ? 廣樹なんて煙草切れたら中南海でも吸わせておけば良いんだよ」

 愛花は香菜に煙草を渡すと灰皿を交換した。

「よく私が吸っていた煙草の銘柄まで覚えていたわね。……ちょっとだけ驚いちゃった」

「諒、ライター借りるぞ」

 私が微かに手を上げると、純也は私の前に置かれたZIPPOを手に取り香菜へと渡した。

「ありがとう。あら? 純銀製スターリングシルバーのZIPPOじゃない」

 香菜はZIPPOでカチャンという心地良い金属音をさせ、数回擦り、火をつけると深く一服した。

「そう言えば昔……これと同じライターを廣樹にあげったっけな……今でも持ってるのかしら? 純也くんはライターを女が男にプレゼントする意味って知ってる?」

「もちろん、異性にライタープレゼントするって「自分への愛の灯を絶やさないでね」って願掛けの意味ですよね? 香菜さんって廣樹にそんな感情あったんですか? ちょっと妬きますね」

「廣樹くんにあげたのはちょっと意味が違うかな? じゃあ、純銀製のZIPPOをプレゼントする意味ってわかる?」

「……純銀製ですか? なんか特別な意味なんてあるのかな? えっと……純銀は魔よけのエネルギーがあるっていうから……お守りみたいなモノですか?」

「そうね、近いかな。悪いムシに邪魔されず、自分への愛の灯を絶やさないでねって意味よ。廣樹くんの場合は……いつも幸運でいて変な彼女が出来ないようにって願掛けかな」

 純也はそれを聞いて変に納得したように頷いた。

「……香菜さん、菅原京子って知らないですよね?」

 香菜は京子の名前を聞くとクスッと笑った気がした。

「知ってるわよ。廣樹くんの当時の彼女でしょ? 初めて廣樹くんと会った日に名前だけ教えてくれたわ」

「――え! 廣樹アイツが言ったんですか」

「うん、。私は何回か彼女と廣樹くんが楽しそうにクリス通りを歩いているのを見かけただけ。ああ、この子には絶対に私は敵わない、絶対にこの子以上の存在にはなれないなって思ったわ」

「……やっぱり知ってたんだ」

「廣樹くんって不思議な男の子だから。会ったらまた会いたくなって、一回話すと、また話したくなって、二、三回って増えていく、誰にでも優しいから、勘違いしちゃったりするし、気づいたら優しさに惹かれていく、そして優しさを独占したくなる、そんな魅力を持ってるの」

「あ、最後の方はわかる気がします。確かにアイツの場合は優しさのバーゲンセールって感じですね」

 笑いながら純也は話した。そして諒の方を見ると話しかけた。

「諒! 起きてるか?」

 私は純也に話しかけられたが、眠気で返事すらできなかった。

「……あの……香菜さん……」

「ん? どうしたの純也くん」

 香菜はカクテルを一口飲むと首を捻りながら答えた。

「……いや、やっぱりなんでもないです」

「あ、そう。私、一週間くらいは都内にいる予定だから……気が向いたら連絡してね」

 香菜はそう言うとカウンターに一枚の名刺をそっと置き立ち上がった。

「お会計で」

 それを聞いた純也が慌てて愛花に声をかけた。

「いや、俺が払いますよ! 愛花ちゃん、会計は俺と一緒にして」

「あら? ごちそうさま。純也くんも本当にイイ男になったわね。もしかしたら……本当に落とされちゃったりしてね」

 香菜は笑顔で純也に礼を言うと、ヒールの音を鳴らしゆっくりと店を後にした。


 純也は先ほど香菜から受け取った名刺を天井にかざしながら呟いた。

「……気が向いたら……ね。まだ俺はガキ扱いされてるのかな? なんか……手の上で上手く転がされてる気がするんだよな」

「今の女性にですか? 確かに弟みたいな接し方でしたね」愛花がクスッと笑いながらいった。

「そうなんだよな……やっぱり年上の女は手ごわいね。やっぱり俺は愛花ちゃんみたいな年下が向いているのかな?」

「……それって……もしかして……口説いてます?」

 純也は笑顔になると愛花を見ていった。

「俺に口説かれてみる?」

 愛花は驚いて純也を見た。

「えっ! 純也さんがそんなこと言うなんて珍しい。明日……オーナーに何かあるんですかね?」

「……マジか。なんか良いことあるんか」

 藤田は喜びが滲み出ていたが、二人は冷めた目で藤田を見ていた。


 しばらくすると諒はムクりと起きると純也を見た。

「ごめん。寝ちゃってたみたい。でも、寝たら少し楽になったかも」

「じゃあ、そろそろお開きにしようか。じゃあ、送るからタクシー呼ぶよ」

「ううん、大丈夫……パパ呼ぶから」

 諒は呂律が回りきらない口調で話すと携帯で何処かに電話をかけた。

「……パパ? 迎えに来てくれない? 場所は……」


 それから三十分ほど待っていると翔馬がドアを開けて入ってきた。

「諒さ……酔っぱらって迎えに来いって俺はタクシーじゃねえんだぞ? まあ、変な男にホテルにでも連れ込まれるよりはマシだからそこまで文句は言わねえけどよ」

 翔馬の言葉を聞いた純也と愛花は藤田を見た。 

「なんで二人ともこっち見てんねん?」

「……いや、藤田さんなら十二分にあり得ると思ったからさ」

 愛花も相槌を打つように頷いた。

「……ったく、二人とも失礼なやっちゃな!」

 翔馬は藤田と少し会話した後に諒に話しかけると支えながら店を後にした。

「……さて、愛花ちゃんこれからどこで飲もうか?」

「なんでココじゃ駄目やねん?」藤田がブツブツと文句をいった。

「……だってさ、藤田さん居たら愛花ちゃん口説けないじゃん?」

「ダボっ! この子は純也なんかに口説かれんわ! 自惚れも大概にせえよ」

「……あの……これからうちで飲みますか? 私が純也さんの家に行っても良いですけど……」

「って、愛花が逆に口説くんかいっ!」


 ハンドルを握る翔馬が前を見ながら諒に話しかけた。

「今日は随分と飲んだみたいだな? ま、今日ばかりは廣樹の件もあるし……仕方ないか」

「翔馬さん……ごめんなさい……沢山飲んじゃった……本当にごめんなさい」

 何度も謝る私に翔馬さんは優しく声をかけてきた。

「ま、運転するわけじゃあるまいし、諒も大人なんだからたまには良いじゃないか? ……ところで何処に送ったら良いんだ?」

「……今から言うからナビに……入れて……なんかまた眠くなってきたかも……」

 私はフラフラする頭で呪文のように住所を何度も言い続けた。

「……よし、入れたぞ。あとは送ってやるから着くまで寝ていて良いぞ。……でも、間違っても吐いたりはしないでくれよ」

 その言葉を聞いた私は意識が飛ぶように眠りについた。

読んでくれている方ありがとうございます。自分でも読み返してちょくちょく誤字脱字内容直します。

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