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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第一章 魔界に入りし者
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第九話 遭遇、戦闘

「おい、マーティン、何かやばいものがこっちへ向かってくるぞ!」


「何すかそれ、少尉、何言って……」


 他の車両から1キロちょっとほど離れていた瞬間である。


 前を向いて運転していたマーティン・ブロウズ曹長のヘルメットが叩かれる。


 振り返った彼はヨン少尉の指差す方を見た。


 やばいもの


 一見でわかった。


 アレは確かにやばいと。


「ク、クマ? にしちゃでかいし……え?え?」


 4mの体高、二足歩行、高く掲げられた腕、背中の羽、角の生えた頭。


 どう見ても、ブロウズ曹長の常識の範囲内の生き物ではなかった。


 咄嗟にそれから逃げるようにハンドルを切る。


 後ろのヨン少尉が転げ落ちそうになり、慌ててM2重機関銃の支柱を掴む。


「人間ガァアアアアアア!!」


「うおおお!!何すか少尉!!何なんすかあれは!」


「俺にわかるか!」


 アクセル全開でスクウェアの方に戻ろうとする二人のRSOV。


 しかし恐ろしいことに追ってくる化け物のほうが優速だ。


 ハンドルをさばきつつ何度も後ろを振り返るブロウズ曹長。


 すっかり腰を抜かした様子の彼の上官に呆れたように、


「ねえ、少尉?お手元のブローニングをぶっ放すという選択肢はすでにはるかかなたの銀河系にでもぶっ飛んでるんですか?」


 ヨン少尉は言われてやっと気が付いたようで、荷台から立ち上がると重機関銃の銃把を両手でしっかりと握った。


「マーティン、撃っても交戦規定に反しないと思うか?」


 ブロウズ曹長は前を見ながら、


「そーゆーのは士官の皆さんで話し合ってください」


 とだけ言った。


 ヨン少尉は二本の親指でトリガーを押し下げた。


 途端、鉄の筒が火を噴く。


 12.7mmNATO弾が秒間10発、マッハ3で飛び出していく。


「ナ、ナンダ!?」


 鳴り響くダダダダダ!という轟音に流石の魔界の公爵、ベリアルも肝をつぶした。


 そして自分の体に突き刺さってくる衝撃に咆哮を上げた。


「グガアアアアアア!!コ、コレハ、何ノ魔法ダ!?」


 とがった金属片が肉に食い込んでくるたびに感じる痛み。


 人間の非力な矢など決して通さない固い表皮を持つベリアルであったが、太い樹木すらなぎ倒す重機関銃の前には分が悪い。


 出血、負傷、激痛。


 弾丸が当たるたびに傷を負っていく。


「ウオオオ!!人間ゴトキガ!!」


 しかしそこは暴力公ベリアル。


 決してひるまない。


 一つ一つの傷は致命傷ではないのだ。


 気を張ってスピードを上げ、車両に肉薄する。


 ヨン少尉が機銃を撃ちつつブロウズ曹長に大声で呼びかける。


「マーティン!手榴弾(パイナップル)をよこせ!ありったけだ!」


 ヨン少尉は手榴弾を受け取るとすぐさまピンを抜き、一つずつ車両の後ろへと転がした。


 爆裂、一発、二発、三発……。


 一つが上手くベリアルの足元で炸裂した。


「ウッ!?」


 たまらず転倒する巨体の悪魔。


 ヨン少尉とブロウズ大尉は顔を見合わせる。


 これで逃げ切れるか……。


 ベリアルは激しい怒りを感じていた。


 これまで人間どもの軍隊はいくらでも相手にしてきた。


 かつてあった魔界と人間界の戦争。


 そこでのベリアルの活躍を知らぬ者は人間にもいない。


 その彼が今わけのわからぬ馬なし馬車一台に翻弄されつつある。


「我ヲ……我ヲ……ココマデ虚仮ニシタ人間ハ、貴様ラガ初メテダ」


 突っ伏したままブワッと羽を広げる。


「魔法ノ武器ノチカラスラ持タズ、金属ノツブテト、コケ脅シノ爆裂魔法シカ飛バセヌ雑魚ガ」


 宙へと飛び上がる。


「決メタ。貴様ラハ生キナガラ、インプノ餌ダ」


 羽ばたき一つ。


 翼は空気中の魔素カルマプラズムを捕え、空力とは無関係に甚大な推進力をベリアルにもたらす。


 右へ左へ宙を舞って調子を確認すると、ブロウズ曹長たちの車両へと逆落としに飛びすがる。


 ヨン少尉が必死で機銃をぶっ放し、空飛ぶ巨大な影を撃ち落とそうとする。


 しかし……。


畜生(ファック)!とんでもなく速いぞ!!機銃が当たらん!」


「少尉!?どう走れば……」


 ブロウズ曹長がそう尋ねた時、鋭い爪の生えた丸太のような腕がRSOVを横薙ぎにした。


 ふわっと宙に浮かぶ車両。


 投げ出されないように必死で捕まる軍人二人。


 ブロウズ曹長は死を覚悟した。


 妻子の顔が浮かんだ。


(アンナ、シェリー……!)


 大きな音とともに車両は横転し、横面を砂利が擦った。


 ブロウズ曹長もヨン少尉も、幸い大きな怪我は負わなかった。


 しかし、状況はまさに天敵を前にした獲物といった風である。


 頭を打ったせいで朦朧とする意識の中で、ブロウズ曹長はシートから這い降りて、上を見上げる。


 そびえ立つ影。


 人間の倍はあるだろうか。


 現実とは思えないその姿。


 背筋を這い上がる恐怖。


 パパパっと発砲音。


 見ると、ヨン少尉がM4小銃を放っていた。


 巨人の悪魔の顔面を狙って。


 奴は鬱陶しそうに目を閉じる。


 効いていないのか。


 絶望。


 それもそうか。


 重機関銃でも致命傷を負わなかった相手だから……。


 ヨン少尉へと手が伸びる。


 撃たれても撃たれてもその動きは止まらない。


 ブロウズ曹長はとっさに拳銃を抜いて銃撃に参加する。


 案の定、無駄ではあるのだが。


 真っ赤な肌の悪魔の巨腕がヨン少尉に迫った。


 ブロウズ曹長は叫んだ。


「やめろ、コンチクショウ!!」


 その時だった。悪魔の体にいくつもの重機関銃弾が着弾したのは。


「グウ!?」


 呻いた!効いている!先ほどのように。


撃て(ファイア)撃て(ファイア)撃て(ファイア)!!」


 加勢してきたのはヨン少尉麾下の小隊の他の車両である。


 重機関銃を撃ちならしながら全力で走ってきてくれる。


 バケモノのからだに何発もヒットする12.7mmNATO弾。


「グガアアアア!!」


 ベリアルは悔しさで内心気が狂わんばかりだった。


 これは分が悪い、撤退せねばなるまい、その確信を認めるのが苦痛だった。


 たかが人間、これまで幾度となく殺してきた人間相手にこんな……。


 羽を広げて飛び上がる。


 金属のつぶてはあまりにも脅威だ。


 このままくらい続ければやがて飛ぶことすらできなくなるだろう。


 逃げる……。


 その選択が最も現実的だった。


 彼は数十メートル上まで一気に飛び上がる。


「グググ、コノ借リハ必ズ……」


 しかし、逃れることはできない。


「目標飛翔! スティンガー! スティンガー!」


 応援に駆けつけた車両には携帯地対空ミサイル(スティンガー)の準備があった。


 空を飛んだベリアルに向けて即座に発射される誘導弾。


「ナ、ナンダアレハ」


 避けようと思う間も無く、それはベリアルの直近で近接信管を作動させた。


 弾けた弾頭から音速の数倍の速さで破片が飛び散り、ベリアルの羽を裂いた。


「ギャアアアアア!!」


 もはや魔素カルマプラズムを捕えられなくなったその羽は無用のものとなり、彼を空中に留まらせることができなくなる。


 落下、墜落。


「うわあ、こっちに落ちてきやがる!少尉!逃げますぜ!」


 腰が抜けてしまったヨン少尉に肩を貸しつつ、RSOVから離れるブロウズ曹長。


 巨体が落下してくる。


 車両が押しつぶされる。


 発火。


 爆発。


 悪魔の体は炎に包まれた。


「グギャアアアアアアア!!」


「まだだ、撃ちまくれ!」


 小隊指揮官であるヨン少尉を保護した三両のRSOVは、炎に包まれたベリアルに容赦なく撃ちかける。


 重機関銃弾の雨あられが横殴りにベリアルを襲った。


 そのうち、巨体は動くのをやめた。




二〇一七年五月五日時刻1800、

異世界、魔界、ベリアル暴力公領内、スクウェア出現地点近傍

X+三日


「なんなんだこいつは」


 ヨン少尉は死体となったベリアルの前で腕を組んでいた。


 暗い紅の空がさらに暗くなり始めていたから、軍用の投光器がいくつも用意され、巨大な死体を照らしている。


「まさにバケモノでしたねえ、少尉」


 ブロウズ曹長も横で見上げている。


 こんがり焼きあがった死体の匂いは妙に香ばしかったが、吐き気しか感じなかった。


「何なんすかね、こいつら。そして、この場所は……」


 ヨン少尉は答えない。


 答えなど持ち合わせていないからだ。


 後ろから声がかかった。


 スミス大佐が少尉をお呼びとのこと。


 ブロウズ曹長を残し、ヨン少尉がHQの天幕に向かう。


 後に残ったブロウズ曹長はこれからの任務を思った。


 こんな奴らがいる世界で何を命ぜられ、やってのけることになるのか。


 それは国家の利益にどう繋がるのか。


 家族に次に会えるのはいつになるか。


 このことを話せる機会が一生来るのかどうか。




「ジョセフ・ヨン、参りました!」


「ご苦労」


 スミス大佐は緑のライトにハゲ頭を晒しつつ、チョコバーを食べていた。


 折り畳み机の上には書類や写真が散らばっていて、今しがたまで処理をしていたようだ。


 この未曾有の事態に忙しい身の上であろうことが予想された。


「少尉、さっそくだが君の小隊には縦深偵察を頼みたい」


「はっ、つまりは冒険ですか……?」


 スミス大佐はニヤリと笑って、そういうことだ、と言った。


「今回の戦闘の報告は聞いている。武装は最も潤沢に重装備を与えよう。経理部が見たら卒倒しかねないほどにな」


「それで、どういう調査内容で?」


 大佐は机の上の写真を指差す。無人機による航空写真だった。


「見たところ近くに建造物があることがわかった。様式は中世欧州といったところか。人間の痕跡だよ。少尉」


「はぁ……」


 ヨン少尉は写真をのぞきこむ。


 たしかにそこには建造物を上から見た、四角い影が映っていた。


「この世界に人間が、しかも我々と同じような文化を持つ……?あの化け物ではなく?」


「そこらへんを調べて欲しいのだ。スケジュールだが出発は五日後。三日かけていけるところまで行って調べてきて欲しい」


 ヨン少尉はうなづいた。


 これはある種決死行になる。特殊部隊には似つかわしいというわけだ。彼は二つ返事で了承した。


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