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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第一章 魔界に入りし者
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第八話 マーティン・ブロウズ曹長

~用語集~


・RSOV (Ranger Special Operations Vehicle)レンジャー特殊作戦車両

 天井も装甲もない小型軍用車両。武装はM2重機関銃。四輪駆動で最大乗員は8名。

二〇一七年五月五日時刻1000、

米国、ネヴァダ州上空、約3000メートル、大型輸送機C-5Bギャラクシー機内

X+三日


 数千メートルの間隔をへて、四機の大型輸送機が飛ぶ。


 四機合計で約1200名の兵員と12両のレンジャー(R)特殊(S)作戦(O)車両(V)、その他武装一式が詰め込まれていた。


 一個大隊約600名の兵員を載せる機の中で連隊長であるポール・スミス大佐が部下たちに説明する。


「これから着陸するのはグルーム・レイク空軍基地、エリア51だ。いわゆるな」


 機内にぎゅうぎゅう詰めにされた600名はそれぞれなりに少佐の話に耳を傾ける。


 彼らも精鋭の特殊部隊、レンジャー。


 自分たちが出てくるような事態が国内で進行中だなんて、普通じゃないことを知っている。


 独特の緊張とワクワク感が機内に満ちていた。


 そんな特殊部隊の兵士たちの中にマーティン・ブロウズ曹長はいた。所属は縦深偵察小隊、要は斬り込み屋だ。


「何故お前たちが選ばれたか」


 少佐は話を続ける。


「それは唐突に全員がこの世から消失しても比較的世間に対する影響が少ないからだ。極秘任務中です、で、しばらくごまかせる」


 隊員たちは顔を見合わせた。


「聞きましたかよ、少尉殿」


 ブロウズ曹長は隣に座る直属の上官、ジョセフ・ヨン少尉に陽気に話しかける。


「オヤジさんは俺たちにカミカゼでもさせる気じゃないでしょうね。もしくは上の上のそのまた上が立てた馬鹿な作戦通りに突っ込ませるか」


 ヨン少尉は大佐から目を離さずに答える。


「黙って聞いてろ。国内で1200名をそんな任務に捧げる可能性なんかあるか」


 ヨン少尉の上官に対する信頼は絶対だ。


 加えて、任務の正当性への確信も。


 そもそも彼の言う通り、国内でそう危険な任務もないはずだった。


 皆が疑問に思う。


 スミス大佐はざわつく機内が収まるのをじっと待ってから話を再開した。


 もったいぶるように、一語一語正確に伝えようとゆっくり話す。


「諸君らに行ってもらうのは、別の世界だ」


 今度のざわめきはその前のものよりもずっと大きかった。


「何を言っちまってるんだ?オヤジさんは」


 ブロウズ大尉が開いた口をふさぐこともできないまま呟いた。


 ヨン少尉が訳がわからないと言った様子で、


別の世界(アナザーワールド)?他の言葉の聞き間違いかな? ギャンブル狂世界(オーガーワールド)とか」


「それは少尉の趣味でしょう……賭けのツケ、早めに払って下さいよ」


 大佐はざわめきが収まるのを待ってから話し始める。


「すでに基地所属の軍属の研究者が死んでいる。訳のわからないものに殺されたんだ」


 今度はざわめきはなかった。みなこの話がかなりシリアスな方面だと理解できたようだ。


「諸君らの任務は一つだ」


 スミス大佐は座り並ぶ一人一人の顔を見つめながら言う。


「現地に生じた異世界へ通じる穴、『スクウェア』の向こう側へ行き、現地の安全を確保、調査を滞りなく行えるようにすることだ」


 マーティン・ブロウズ曹長はもう軽口を叩かなかった。確信したのだ。これは合衆国始まって以来の異色の、危険なミッションになるだろうと。




二〇一七年五月三日時刻1200、

異世界、魔界、ベリアル暴力公領内

X+一日


 『スクウェア』の異世界側の出口(入り口か?)はどこに生じたのか。


 そこは魔界の中心、魔王城からおよそ400キロの地点だった。


 その世界はほとんどが魔界と化していた。


 人間の住む領域はあらかた魔族に滅ぼされている。


 もはや数少なくなった人間自身でさえ、自分たちが心休まる場所を見つけられないでいた。


 それほどに、荒れ果て草木もろくに生えない魔界の領域は拡大していた。


「ベリアル様、ベリアル様。何かおかしいです」


 小さな羽の生えた小鬼--インプである--が彼の主人の住む館に向けて飛んでいく。異常事態を叫びながら。


「ベリアル様、ベリアル様、どこにおわすのですか?」


「騒々シイナ。俺ハココダ」


 館のエントランスホールの窓から入ってきたインプに、巨軀が答えた。


 館と言っても、彼ら魔族が立てたものではない。


 人間の建てたものを占拠しているのだ。


 三階建ての館、豪奢な装飾は彼ら好みだったが、これを再現できる魔族は限られていたので、領主である彼は大切に使っていた。


 彼--ベリアル、蝙蝠羽の生えた身長4メートルの化け物は。


 その見た目は地球の西洋で描かれる宗教画によく見られる悪魔そっくりだった。


「ベリアル様。昨日の話です。ここ、ベリアル様の領地の中、東の方に2キロほどの地点に『転移門』が出現しました」


 ベリアルはエントランスホールの階段に腰掛けている。


 体が大きいので、シャンデリアが顔のすぐ前に釣り下がっている。


 それを手で押しのけて、ハエのようの目の前でせわしなく飛び回るインプを見た。


「ソンナモノ、ドウセ人間ドモノ魔法使イガ食料デモ探シニ来タノダロウ。ドコニ転移シタカ追跡ダケハセヨ」


「いえ、それが……大きさが桁違いなのです。しかもあの『転移門』の先に見える光景は青空で……」


「アオゾラ?」


 ベリアルは尖った顎に手をやった。


 しばし考える。


 この大陸を魔界の血染めの雲が覆って数年。


 もはや青空など見ることは叶わないはず。


 別の、遠く離れた大陸につながったのだろうか。


 インプが報告を続ける。


「そして、そこから奇妙な、鉄の鳥が出て来たのです。少しの間こちら側を飛び回った後、すぐに帰って行きました。そしてそれから数時間ののち、全身を未知の素材でできたローブで包んだ人間どもが出て来たのです。まるで無防備な奴らでした。我々非力なインプでも、集団で飛びかかったらすぐに死んでしまいました。戦士ですらなかったようで、武器も持っていませんでした」


「ホウ」


 鉄の鳥、奇妙なローブの人間たち。


 気になる。


 もしや、本当にその転移門は別の大陸につながっているやも……。


 ここで彼はあることを思い出す。


 つい声をあげて頭を動かしたものだから、ツノがシャンデリアに当たってガシャンという音を立てた。


「ソウダ。魔王様カラ御通達ガアッタノダ。『数年内にこの魔界のどこかに巨大な転移門が生じる、その際は決して刺激せず、すぐに伝えろ』、と……。ムゥ」


 刺激するな、という命令にはどうやら背く形になってしまったらしい。


 インプたちが既に勝手に人間を殺してしまった。


 ベリアルはすっくと立ち上がる。


 頭がエントランスホールの高い天井にほとんど接さんばかりだった。


「ヤッテシマッタモノハ仕方ナイガ、モウコレ以上ハ刺激スルナ。魔王様ノ御意志ダ。タダ監視ハ続ケロ。ソシテ急イデ魔王城マデ伝令ヲ出セ」


「はっ!」


 ベリアルは思う。


 どういう事態が進行しているのか、と。


 だが所詮人間ごときのすること。


 もはや滅びかけ、ほとんど力を失った彼らなど、恐るるに足らない。


 実際、この数年でこの世界に感じる人間の魂の波動は、極端に少なくなっていた。


 彼らの根絶も、あと数年といったところだろう。


 フウ、とため息を吐くとまた階段に腰掛ける。


 まあ、そこまで焦るようなことでもあるまい。


 彼は軽く考えていた。


 二日後、転移門から奇妙な人間の軍隊が出てきたと報告があるまでは。




二〇一七年五月五日時刻1600、

異世界、魔界、ベリアル暴力公領内、スクウェア出現地点近傍

X+三日


「何だダ、アレハ?」


 巨大な四角い転移門を望める丘の上からベリアルが発した言葉はそれだった。


 大いなる疑問。


 見たこともないもの。


 眼下の、見たこともないまだら色の服を着た人間たちは、馬のいない唸る馬車を駆っていた。


 ブロロロという豚の鳴き声のような声を発して、馬なし馬車が動く。


 そして転移門の向こう側から沢山のものや人を送り込んできているのだ。


 側仕えのインプが答えようとする。


「ベリアル様、ベリアル様。私にもわかりかねます、はい。しかし、察するにあれが奴らの魔法の道具なのではないでしょうか?」


「ワカリキッタコトハ答エナクトモヨイ。アレガ魔法以外ノナンダトイウンダ」


 馬のない唸る馬車。


 つまり自動車である。


 科学に無知な彼らはM2重機関銃付きのRSOVやトラックをそう理解するしかなかったのだ。


 トラックがピストン輸送で運び込んでいるもの、それは異世界側前進基地用の資材である。


 連隊はスクウェアの魔界側に早くも簡易な基地を設営しようとしていた。


「ヌウ!コノオレノ領内デ好キ勝手ヲ……!人間ゴトキガ!」


 そんな様を見て激昂するベリアル。


 鬼のような、いや、鬼そのものの顔を憤怒でさらに厳しくさせている。


 それをなだめるは側近のインプ。


 小さな蝙蝠羽を必死で羽ばたかせてはおだてるかのようにベリアルの周りを飛ぶ。


「ベリアル様、しかし魔王様からは刺激するなと御達しがあったのでは?」


「コレヲ見テ放ッテオケルカ!タカガ人間!捻リ潰シテクレル!」


 ベリアルはそれだけ叫ぶとインプの制止も聞かずに土煙を上げながら丘を駆け降りて行った。




 わけのわからない、何が起こるかわからない場所、異世界。


 だからこそ、警戒は最大限だった。


 前線基地設営予定地点を取り囲むように哨戒線を引いていた第75レンジャー連隊。


 猛進するベリアルに気づくのはすぐのことだった。


「なあ、マーティン。あれ、何だ?」


「え?」


 今しがたまでベリアルが連隊を見下ろしていた丘。


 それを横に見る形でRSOVを走らせていたマーティン・ブロウズ曹長と、ジョセフ・ヨン少尉が最初の遭遇者となった。

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