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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
序章 残虐なる軍隊
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第七話 合衆国大統領ジョン・イーグルバーグ、国防長官スコット・モアランド

二〇一七年五月三日時刻0800、

ワシントン、ホワイトハウス、

X+一日


 廊下を二人の男が歩いている。


 白亜の「民主主義の宮殿」の廊下だ。


 それはこの国の権力と権威の中心でもある。


 つまり、ホワイトハウスだ。


 二人の男のうち、一人はジョン・イーグルバーグ第〇〇〇代合衆国大統領、47歳。


 共和党の典型的白人アメリカ人(WASP)である彼は最もアメリカ人らしいアメリカ人と言われた。


 カーペットに靴音を吸わせつつ、ホワイトハウス西棟へと急ぐ。


 もう一人の男が話しかけた。


大統領ミスター・プレジデント、昨晩、職員がこのホワイトハウス地下室で猫の幽霊を目にしました。鳴き声を上げたあと、壁の中に消えていったんだとか……」


 フィリップ・ナッシュ大統領補佐官。


 有能な男である。


 イーグルバーグ大統領は歩きながら振り返って彼の顔を見る。


 真剣そのものだ。


 場違いなジョークを言う人間でもない。


 どうやら本気で言っているらしい。


 イーグルバーグは再び前を向く。


「それがなんだというのだ?誰かショックで心臓発作を起こしたとでも?ナンセンスだよ、フィル」


 苦笑の裏に咎めるような色が感じ取れる。


 ふざけたことを言うなと言うことだ。


 しかしナッシュ大統領補佐官は引き下がらない。


「大統領、あれは株価の大暴落や著しい国難など、大惨事の直前に目撃されるのです。どうかお気をつけください」


「君がそんなバカバカしいことを真面目に言うだなんてね。やれやれ。それにしても、どうしても朝食の前じゃなきゃダメなのかね?フィル。そんな緊急事態か?アメリカ人が大勢死んだのか?」


 ナッシュは後ろ髪を撫で付けた。


「いいえ、大統領」


「ではこれから死ぬのか?」


「それはまだわかりません。国防長官の言葉次第でしょう。」


「ふむ。もっと説明がほしいな。高級レストランのウェイターが運んできたメニューに対してするような、ね。少なくとも、どんなメニューかは事前に知りたいものだ」


 ナッシュは首を振った。


「私もよくわかってないのですよ」


 目的の部屋についた。


 ドアの横にいたシークレットサービスが、敬愛する大統領のために代わりに開ける。


 しかしイーグルバーグはすぐには入らない。再びナッシュの方を振り返る。


「全ては神のみこころのままにだよ」


 それだけ言うと、部屋に入った。


 ホワイトハウス西棟の狭苦しくて嫌になる部屋、シチュエーションルーム。


 ここは国家の緊急事態の際、合衆国の最終意思決定者たる首長達が集う部屋だ。


 前代の大統領がこの部屋で、テロリストのボス暗殺作戦をリアルタイムで見ていたのは有名な話だ。


 部屋の中で待っていたのは、勲章をつけた見慣れぬ左官級の軍人とシークレットサービスを除けば二人だけだった。


 軍事の責任者である国防長官、外交の責任者たる国務長官。


 本来からすれば少なすぎるが、それが今回起こった事態の性格を如実に反映していた。


 元からいた二人は彼らの首長チーフが入ってきたのを確認すると、立ち上がった。


 もう既に気安い仲だが、大統領への礼儀は欠かさないのだ。


 イーグルバーグ大統領が気さくに朝の挨拶を投げかける。


「おはよう、スコット、チャールズ。いつもの定例会議よりさらに早いとは。それなりの事態なんだろうね?」


「もちろんです」


 椅子に腰を下ろしながらチャールズ--チャールズ・マウラー国務長官が答える。


 大統領もシチュエーションルーム正面のスクリーンを見据える上座に座りながら、


「テロ……という話ではなさそうだね。ああ、あれだ、軍用機が極めて政治的に微妙な場所に墜落したかな?」


「そうではありませんぞ、大統領」


 座るのが一番遅かった人物が話す。


 片足が義足なのだ。


 スコット・モアランド国防長官。


 その足はかつて若き日、軍にいた時の戦傷が原因だった。


 彼は続ける。


「お言葉ですが、あらゆる事態を想定したほうがよろしいかと。これはことによっては911どころかベトナムやキューバ危機以来の国難かもしれないのです」


 ナッシュ大統領補佐官が口を挟む。


「私もよく理解できていません、もったいぶらずに説明を」


 うなずいたのはモアランド国防長官だ。


 彼は壁際の制服の軍人に目配せする。


 彼は手に持っていたアルミ製のブリーフケースから数枚の書類を取り出すとモアランド国防長官に手渡す。


 モアランドはそれを机に投げ出す。


 テーブルについていた残り三人の視線が書類に集中する。


「グルーム・レイク空軍基地、通称エリア51にある秘匿量子加速器についてはご存知ですかな?大統領?」


「知らん。今初めて聞いたよ。リョウシカソクキというのはあれか?あの、物理学の実験に使う……」


「概ねその理解でいいでしょう。私も科学者ではないので詳しい定義を訊かれても困りますが」


 モアランド国防長官は一息置いて大統領の様子をよく観察する。


 まだこの国の首長も補佐官も、話が見えない様子だった。


 それもそうだろう。


 先を続ける。


「昨日この巨大な、直径数キロの装置で行われた実験は今までにない画期的なものでした。ブラックホール生成、そしてそれを使った時空間をいじくりまわす実験……。何が言いたいかといえば、その結果によって予測できなかった事態が生じたわけですな」


 イーグルバーグ大統領が肩をすくめた。


「あー、なんだか話が見えてきたぞ。あれだな?よく陰謀論者が言っているネタが現実化したんだ。つまり、あれだ、ブラックホール?が、地球を飲み込み始めた、とか」


 モアランド国防長官は首を横に振る。


「そんな絶望的な状況ではありませんし、第一そうだったら我々はもうこの世にいませんよ。問題はこれです」


 机の上のいくつかの書類のうち、カラー写真がプリントされた一枚が指さされる。大統領が覗き込む。


「幸い事態は完璧に我々の管理下にあります。まず事象の発生場所が軍事最高機密の中心です。加えて『スクウェア』は地面に垂直に立っていて厚みはプランク長。上空からは確認できません。細心の注意さえ払っていればまず誰にもバレないでしょう」


「口から出てくる言葉全てをあらかじめ人間の言葉に翻訳しておいてくれるとありがたいんだがね」


 大統領は目に見えてイラついている。


 この、田舎出身の良きアメリカ人の象徴はあまり自然科学には明るくないのだ。


 彼は写真によく目を凝らす。


 ネヴァダの砂漠で撮られたと思しきそれは何かの現像ミスのような切り抜きがあった。


 青空と地平線が見えるその中に四角形に切り抜かれた別の風景。


 この世のものとは思えない血の赤の色の風景が見えた。


「映像の方がお分かりいただけますかな?」


 モアランド国防長官は左官の軍人に指示を出す。


 シチュエーションルーム正面のモニターに映像が現れた。


 それは写真の場所を無人航空機で旋回しながら撮影したものだった。


「ん?どうなってるんだ?これは」


 大統領が疑問を口にする。


 それは常識的な感覚ではイマイチ理解しかねる光景だった。


「これが、『スクウェア』です、大統領」


 モアランド国防長官の言葉。


 大統領は聞いていない。


 目は画面に釘付けだ。


 ネヴァダの見慣れた砂漠の中に見慣れない、あまりにも非常識なものが一つ。


 それは「穴」だった。


 真四角の、異次元へ通じる穴、一片が数百メートルの巨大な……そうとしか言えなかった。


「なんだこれは……」


 イーグルバーグ大統領は絶句した。


 ナッシュ大統領補佐官もそうだった。


 すでに映像を見ていたマウラー国務長官は驚かない。


 しばらくの沈黙の後で口を開く。


「で、こんなものが現れちまって、大統領としてのわたしはどうすればいい?」


「大統領」


 モアランド国防長官が身を乗り出した。


「『向こう側』の調査を認めて欲しいのです。もうすでに小型無人機、固定翼型のドローンによる調査は開始されています。大統領、私の部下たちを、人間を送る許可を頂きたいのです」


「ほう」


 イーグルバーグ大統領は天井を仰いだ。


「ちょっと判断材料が少なすぎるぞ、そんなにその、『向こう側』とやらに行きたいのかね?スコット、国防長官としては。無人機の映像に美女の群れでも映っていたとか?」


 苦笑しつつ頼れる高官たちを見回すイーグルバーグ大統領だったが、笑みを返す人間はいなかった。


 皆真剣そのもので大統領の決断を待っていた。


 また天井を向く。


 やれやれだ。


 対テロ戦争も新たなステージを迎えるというのに、何も自分の代で「異星人とのファーストコンタクト」並みの案件がもたらされなくてもいいのに。


 心底そう思う彼であった。




 その日のうちには軍隊を送る許可をイーグルバーグはくださなかった。


 しかしすぐにそれを改めなければならなくなる。


 次の日、基地側が独断で送った研究者の一団が全滅したとの報がもたらされたのだ。


 脅威の査定のため軍が欲された。


 第75レンジャー連隊が秘密裏の大統領令で動かされたのはすぐ後だった。


 訓練名目だった。

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